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「ミーティス、たぶん大丈夫だ。コウはここに戻ってくる」
「義兄様?」
俺は結晶の中にいるコウをもう一度見た。
コウ……お前は昔からなんでも抱え込みすぎだ。ここで待つミーティスがかわいそすぎるだろ。
俺は強く拳を握り締めた。
「俺の力を自分に封印したことは馬鹿なことだが、自ら死ぬような奴じゃない。それに、ミーティスを置いていくわけないだろう」
「し、しかし……コウがどこに行ったのか……」
「昊、もしかして、どこにいるかわかってるんじゃ……?」
「ん? うーん。まだ確定してはいないが……たぶん?」
「な、なんと、義兄様! それは、本当か?」
ミーティスは沈んでいた顔を上げ、目を輝かさせた。
「でも、違ってるかもしれないから、期待はするな」
「そうか……やはり、義兄様の近くにいるのだな?」
「それと……コウと話してみないとわからないが、もしかしたら離れられない理由があるのかもしれない」
「何じゃと? それはどういうことじゃ?」
あの月夜の中で起こったことは気のせいではない。あの時話したのが、コウならば……。
「今日はコウの状態を知りたかったんだ。『ドラゴンの涙』が必要なくらい消耗しているなら、魂が戻っても体がもたないこともあるしな」
結晶の中にいるコウの体には血こそ出ていないが、かなり傷があった。
バアルと戦ったにもかかわらず、致命傷はなさそうだ。しかし、この場で封印を解いていいものなのか?
俺はふと、ミーティスの後ろにある『門』が目に入った。
このままここで封印を解いたら、コウは暴走して自滅していくに違いない。魔物が暴れるには狭すぎる。それに、いくら頑丈な建物とはいえ、この場所が持たないかもしれない。
思考を巡らせていると、ミーティスが俺の袖を引いた。
「あの、義兄様……実はここを見てほしいのじゃ」
「ん?」
ミーティスが下の方を指した。そこを覗くと大きくひびが入っている。それを見た葉月がそっと触れた。
「あら? これ、内側からヒビが入ってる?」
「うむ……本来なら、わらわがこの結晶を壊さん限りこの封印は解かれることはない。じゃが、例外がある」
「ミーティスの力を上回れば壊すことができる」
「うむ、コウは結晶の中で眠りについて暴走を抑えた。しかし……」
「え? それじゃあ」
「体がボロボロなのに魔力が高まっているのか?」
「それほど、義兄様の核の魔力は強いということじゃ」
「もしかして、コウはそれを感じて、魂だけ抜け出た?」
「その可能性がある。わらわもこのヒビに気付いたのは、コウの魂の気配がなくなった後なのじゃ」
「そうだったのか」
コウは邪竜化しながらも内側で戦っていたんだ。これ以上、核のせいで魔力が上がればミーティスの結晶を壊すことになる。魂がなければ魔力の上昇も止められるから。
「じゃから、義兄様……もし、コウの魂を見つけたら、できれば、義兄様たちと一緒にここへきてほしいのじゃ」
ミーティスは心配そうにしてうつむいた。
「うん、そうだな……邪竜と化したコウが復活するとなれば、ミーティスだけじゃ、抑えるのは難しいだろう」
「え? そうなの?」
隣で聞いていた葉月が不思議そうな顔をした。
「コウは俺の前世での兄弟だったんだぞ? あいつ、本気で戦うと、すげぇ強かったし……」
前世の最後は、コウの一撃が原因でもあるし。
俺は思わずお腹をさすった。
「実はな、わらわは竜王と名乗っておるが、強さはコウのほうが何倍も上なのじゃ」
「そんなに?」
「うむ。それにな、優しくて、カッコよくて、スマートで……わらわのことも、かわいいねって褒めてくれて――」
「あー……うん、それはいつも聞いてる」
畳みかけるような、ミーティスの言葉に葉月は苦笑いをした。
「でもな、コウは怒ると滅茶苦茶……コワい」
「え? 怖い?」
俺とミーティスは同時に大きく頷いた。
それを見た葉月は笑顔が引きつっていた。
「え、えー……じゃあ、どうして竜王にならなかったの?」
「コウはレイスと一緒に旅をするため、聖竜となることを決めた」
「聖竜?」
「魔物であって、魔物ではない。人間と共に生きることを選んだドラゴンってことだ」
「この門は魔物のためにあるものじゃ。だから、聖竜になったコウにはその資格はない」
「そういう事情があるのね」




