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清香さんに会ったその日の夜、九時ごろ。俺はあの山に向かった。
前世での最後の場所。頂上には大きな木が聳え立つ。
そして、その根元にはナオが眠っている。
清香さんと話すまで、ナオのことを何故か思い出せずにいた。
あんなに一緒にいたのに――
一緒に旅した部族のことは覚えてる。旅した場所も食べたものも死ぬ間際のことまで今でも鮮明に思い出せる。俺のせいで、みんなが死んでしまったことも……。
転生して、前世を覚えているほうがおかしい。でも、今は全部覚えている。それなのに、初めてできた一番大切な友人を忘れていたことが、悔しくてたまらなかった。
頂上に着き見上げると、大木は大きくうねりながらしっかりと立っていた。時たま吹く風が枝をゆすり、葉のこすれる音が聞こえた。俺は木に触れ、目を閉じた。
「ずっと……ここにいたんだな。ナオ……ごめん、今まで忘れていて」
あの時の緊張感は、今はない。穏やかな時間とともに、自分の鼓動も静かに脈を打っているのを感じた。
すると、誰かが歩いてくる音がした。
こんな時間に、誰だ?
俺は少し身構えた。
「あれ? なんだ……昊、来てたんだ」
弥生は間の抜けた顔で頬を掻きながら、俺のほうへ歩いてきた。
「なんだ……弥生か。なんでここに?」
「ああ、父さんが『こういう日は魔物がうろつきやすいから、見回りに行け』ってさ」
そう言うと、弥生は人差し指を空に向けた。見上げると満月が見える。
「ああ……なるほど」
「特にこういう、綺麗な満月が見える日はうろつきやすいんだって。昊も半分魔物みたいなもんだから、気持ちわかるんじゃない?」
弥生はいたずらっぽく笑いながら、木の根元にある崩れた塚のほうへ歩き始めた。
「うん、そうだな。こういう日は確かに少し血がざわつくな。よし……魔物化して、少し暴れてみるか?」
俺が口元に手をやりながら真面目に答えると、弥生は焦った顔で振り返った。
「おい? マジ? ここで魔物化するなよ?」
「嘘だよ」
「嘘かよ……マジな顔で言うなよ」
弥生は崩れた塚の前に立つと大きく息を吐いた。
「ふぅ……でもまぁ、異常なしだな。昊、今度からここに来る時は父さんに言ってからにしろよ?」
「え? 何か……まずかった?」
「ん? 別にまずくはないよ? ただ、昊が来るんだったら、オレがここに来る必要がなくなるからさぁ」
弥生は俺に振り返りながら「へへ」と笑う。
「……弥生、サボりたいだけか?」
「あったり~! でも、ここにはもう何もないわけだから、変なヤツらも来なくなって助かるよな。昊的には前世の体が壊されたから複雑な心境かもだけど」
「別に? 前世の体に未練はないよ」
「ふーん……そうなんだ。でも、見たかったなぁ。昊の前世の骨!」
「見てどうするんだよ」
「え? やっぱり現存するドラゴンの骨って見てみたいだろ?」
「そうなのか? あんなの見ても面白くないけどな」
「昊は前世の自分だったからそう思うだけだろ?」
「まぁ、な」
「あーあ、オレも参戦するんだったな。父さんも戦ったんだろ? オレさー、父さんが戦うところって、あまり見たことないんだよ」
「そうなのか?」
「どうだった? 昊、父さんと一緒に戦ったんだろ?」
「え? あー……うーん、ボーンドラゴンと戦う時、滅茶苦茶楽しそうだったな。それと、戦いやすかった。俺はほとんどサポートに回ってたけど」
「そうなんだ! はぁ……あーあ、何でオレ、あの時熟睡してたかなぁ」
「寝てたのか……まぁ、深夜だったしな。そんな時もあるだろ? そうだ、明日土曜だからミーティスのところ行くんだろ?」
「え? うん、行くけど?」
「俺も行くから」
「ええ? 昊、行くの? 何で?」
弥生は嫌そうな顔をしながら口をすぼめた。
「弥生……何で嫌そうな顔するんだよ」
「いや……その、ミーティスに……変なこと、いうんじゃないかなーって……」
変なこと……? ああ、ミーティスのことどう思ってるか、この間、聞いたからか――
「言うわけないだろ? ちょっと、いろいろ確認しておきたいことがあるんだよ」
「確認しておきたいこと?」
「うん、コウの体がどうなってるのか……とかな」
弥生は俺の顔をじっと見ると目線を落とした。
「ふーん……まぁ、いっか」
「何だよ? なんか、あるのか?」
「ん? 別に何もないけど? それより、明日の夕飯の当番、昊じゃなかったっけ? いいのか?」
「ああ、うん。材料買ってあるし……」
弥生の含みのある言い方が気になったが、聞くのをやめた。
いつも読んでいただきありがとうございます。
今回は一話のみの公開となります。近いうちに続きを……と思っておりますが、少し時間がかかりそうです。気長にお待ちいただけると嬉しいです。




