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※この話以降、暴力的な描写や一部に残酷な表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
俺は人間の姿からドラゴンの姿へと変えた。体にはまだ傷が残っていた。だが、寿命を縮めてもナオを助けたかった。
〈ケ、ケケケケ! 人間に手懐けられたドラゴンなんて、死んだも同然だぁ!〉
グリフィンは前足でつかんだナオを、勢いよく森のほうへ投げ飛ばした。
「うわぁぁぁぁぁー!」
「ナオ!」
ナオが森の木に叩きつけられるのが見えたが、すぐには助けに行けなかった。グリフィンはそのまま前足で俺に切りかかろうと飛んできていた。
〈ケェーケケケケケ! よそ見してんじゃねぇ!〉
グリフィンの足を掴み、その動きを止めた。ナオはこの茂みに隠れ姿が見えない。
「ナオ! 無事なら返事をくれ! ナオ!」
「うう……いてて、ソール、無事だよぉ」
弱々しい声だが、ナオの声に安堵した。それと同時に目の前にいるグリフィンに怒りが込み上げてきた。
〈クソ! グリフィン! お前ごときが、俺に敵うと思っているのか!〉
グリフィンは俺の手を振り払うと、翼を広げ空へ舞い上がった。
〈思ってるよ! お前から血生臭い匂いがプンプンしてるぜ! そんな体で戦おうなんて! 負ける気がしねぇ〉
グリフィンの言っていることは、確かに的を射ていた。傷は痛み、体は重く、思うように動かない。羽や尻尾で攻撃しても致命傷となる打撃にはならなかった。
俺も飛び上がり、ピポグリフたちを空へおびき寄せた。
これで、ナオや野営地にこれ以上、被害が及ぶことはないはず。
襲いかかってくるグリフィンとピポグリフたちに俺のもてる力をぶつけた。だが、本来の力は全く出せなかった。
〈クソ! こんな奴ら、いつもなら……〉
魔力もわずかしか残っておらず、体力も急激に奪われていった。
一瞬、目の前が霞みよろめいた。それを見逃さなかったグリフィンが俺の首を目がけ飛びかかってきた。
〈ケケケ! 動き遅ぇぞ!〉
いつもなら、防げていたのだろう。魔物の爪の攻撃など避けることなく、そのまま受けても傷つくことがなかった。しかし、今は体力も魔力もない弱った体、避けることができなかった。グリフィンの爪はざっくり俺の肩を切り刻んでいた。
「うっ……ぐ!」
鋭い痛みが全身に響く。
俺は羽を動かす力も失くし、そのまま地上へ落下した。
「ソール!」
俺は地上に叩きつけられた衝撃でなかなか立ち上がれなかった。それを見ていたナオは心配そうな顔で、走り出そうとしていた。
「ナオ、来るな!」
駆け寄ろうとしたナオを俺は必死に制止した。ナオは驚いて立ち止まり、オロオロしていた。
そこへ、グリフィンが俺の近くにゆっくりと降りてきた。
〈ほら、言っただろ? 今のお前だったら倒せる!〉
だが、ナオは俺の言ったことに耳を貸さず、グリフィンに静かに近寄り、右手をかざした。
すると、そこからまばゆい光が放たれた。
〈な、なんだ? この光――〉
グリフィンはその光をまともに見てしまったのか、眩しそうにして目をつむり、俺から離れていった。ナオはその隙に抱きついてきた。
「ナオ!?」
「ソール! 今のうちに逃げよう!」
「しかし……」
ナオは必死に森を指さし、俺を導こうとしていた。
逃げるなど不本意だったが、ナオを守るためだと自分に言い聞かせ、諦めた。グリフィンにやられた肩を抑え、その場を去ろうとした時、一匹のピポグリフがナオ目がけ飛びかかってきた。
「うわぁぁぁ!」
「くっ! 雑魚が邪魔をするな!」
俺はピポグリフの後ろ足を掴み、地面に叩きつけた。だが、それに気を取られ、グリフィンが再び接近していることに気づけなかった。
〈逃すかよ!〉
グリフィンの前足の爪は俺の首を狙っている。だが、グリフィンの攻撃に備えようとしたとき、急に全身に力が入らなくなった。知らぬ間に無理をしすぎたのか、気が付けば塞がりかけていた傷が開き、大量の血が流れ出ていた。俺はその場に倒れて動けなくなってしまった。
「ぐっ……ナオ、お前だけでも……」
「ソール!」
ナオは俺とグリフィンの間に立ちふさがった。
何をしている? それではナオが――
叫びたくても声が出ない。体がいうことを聞かない。手を伸ばしたいのに全く動かない。
グリフィンはナオの体を鷲掴みにし、そのまま容赦なく爪を深く食いこませた。