12
野営地に着くと、そこは壊滅状態だった。
木の陰に隠れ、様子をうかがう。天幕は壊され、血を流し倒れている人間の姿が見える。数匹のピポグリフが死んだ者たちをその場で啄んでいた。
なんてことだ……生きている者は? まさか、みんな殺されてしまったのか? ナオはどこに?
そんな中、野営地の端でグリフィンの話し声が聞こえてきた。
〈まったく、このガキ。変な力を使いやがって!〉
グリフィンは叫びながら何かを前足で踏みつけていた。よく見ると、その足元にいるのはナオだった。
「……くそ! 離せ!」
ナオは体を抑えられながらも必死に抵抗していた。
〈この辺にドラゴンが来てるはずなんだよ! 知ってたら素直に言ったほうが良いぞ? クソガキ〉
「よくも……よくも、みんなを!」
〈ああ、めんどくせぇな。言葉が通じねぇのかよ!〉
ナオは暴れながら、グリフィンの様子をうかがっているようだった。
俺たちの言葉を覚えようとしていたし、「魔物が俺を探している」とイズに伝えていたから、グリフィンの言葉も分かっているはずだ。それなら、どうして分からないふりをしてるんだ?
〈はぁ、しょーがねぇ。ここまで飛んできて収穫もなしじゃ癪だ。コイツ食って違うとこ探すか〉
グリフィンはナオの首を抑え始めた。ナオはそれを外そうと必死に抵抗していた。
「う! っく」
〈あーあ、アイツもドラゴンじゃなきゃ、もっと楽に生きられたかもしれないのになぁ。ただそこにいるだけで、ドラゴンは狙われる。人間からも、魔物からも。今じゃ、敗走して追われる身だぁ……ケケケ。お前も運が悪かったなぁ。ドラゴンなんかがここに来なければ、お前らも死ぬことはなかったのに〉
グリフィンの言っていることは当たっていた。人間には魔道具の材料として狙われ、魔物には力の誇示のために狙われた。そして俺がここに来なければ、ナオたちは巻き込まれずにすんだ。
ナオにこれ以上、危害を加えさせない。
俺が飛び出そうとしたとき、ナオが必死にもがきながら、グリフィンを睨みつけ叫んだ。
「そんなこと、ない……そんなことない! 僕はソールが好きだ。だから、巻き込まれたなんて、思ってない!」
俺は思わず、踏みとどまった。ナオは殺されかけているにもかかわらず、俺のことを好いてくれている。そのことが何よりも嬉しかった。
〈あー、うるせぇガキだな! 早く死ねよ!〉
ナオの首を絞めているグリフィンの前足の力が強くなっていくのが分かる。
何としても、ナオだけは――
〈おい!〉
〈んー……あれぇ? お前はー?〉
「!? ソール……な、なんで? イズさんは?」
ナオは俺を見るなり困惑した表情を浮かべた。
「ナオ、すまない。イズに魔物のことを伝えてくれたのに……イズは安全な場所にいる。だから安心しろ」
「……うう、ソール」
ナオは悔しそうにして、目に涙が滲んでいた。
〈んん? お前、人間? じゃないなぁ。魔物の気配がするぞぉ?〉
〈グリフィン。お前が探しているのは俺だろう? その子供を離せ〉
〈へぇ……マジでこんなとこまで逃げてたのかよ。ドラゴン族の、ソール!〉
〈その子供を離せ〉
〈あーあ、見ろよ! お前が来たせいで、ここにいた人間、みーんな、死んじゃったぞ?こんなとこまで逃げ延びて? 人間の子供に飼いならされたのか? ケケケ! お前ら兄弟、どんだけ人間好きなんだよ!〉
〈はぁ……無駄口はいい。三度目だ。その子供を離せ〉
グリフィンは気持ち悪い声で高笑いをし、俺のほうを見下すように見てきた。
〈ケェーケケケケケ! お前の体がボロボロなのは知ってるぞ? ドラゴンを倒したとなれば、それだけで、他の者たちは恐れるだろう。こんな好機逃してなるものか!〉
〈ならば……やってみるがいい!〉
俺の体……耐えてくれよ。