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ドラゴンの転生  作者: 藤塲美宇
第一章 記憶と魔力
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 葉月は少し驚いて、何か思うところがあったのか考え込んでいた。


「なぜ……ここだと思うの? ああいう場所は、探せばいくらでもあるわ」


「うーん……感覚」


「感覚?」


「あの木……昔はすごく小さかった。あの山も小さな草が生えてるだけでそれ以外、何もなかった。でも最後に見たあそこからの景色、地形、星の位置、あの場所の匂い、憶えてる……昔から変わらないものが見つかっていくにつれて、確かなものになった」


「そっか……感覚か」


 葉月は俯き喋らずにいると、また少し考えこみ納得したようだった。


「ねぇ、あの山の頂上に変な石が置いてあるでしょ?」


「ああ……あの『封』って書いてある? あれは塚か何かか?」


「そう、あそこには……ドラゴンの体が眠っていると伝わっているの」


「そうか……やっぱり、あそこに前世の俺の体があるのか」


「でも、殺されたって……? 私たちは封印したって聞いたんだけど……」


「ああ。封印されたな。確かに」


「封印って……死ぬのと違うから、転生できないよね?」


「魂ごと、そこに縛り付けるからな」


「昊が今いるってことは? 転生してるよね?」


「うん。転生してるな」


「なんで?」


「おそらく……」


「おそらく?」


「封印の有効期限が切れたんじゃね?」


「え? 有効期限?」


「まぁ、縛り付けてるものがなくなったから、魂だけ抜け出てこられたんだろうな」


 あと、俺が死に際に望んだこともあるんだろうけど……。


「待って……封印に有効期限なんてあるの?」


「んー……確か何年かに一度、術を掛け直さないと復活するな。特に力が強い魔物とかは……」


「え? 復活するの?」


「そりゃあ……まぁ、体に魔力が戻れば……とは言え、封印された時点で復活することは殆ど無理だから死んだも同然」


「じゃあ、私たち何でここに……それも何千年も前から……」


「? 封印が解けたのは俺が生まれる数十年前くらいだとは思うけど……アイツが封印を掛け忘れた? それとも、敢えて掛け直さなかった? アイツの事だから死んでないはず……」


 俺を封印したのは夢に出てくるあの二人。一人は、当時の人間たちに『賢者』と称えられ、噂では何らかの術の影響で『不死』になったと聞いていた。少年のほうは、前世の俺と力を分けた兄弟で、人間の姿をしているが実はドラゴン。寿命は人間の何倍もある。


 ついこの間まで(と言っても数十年前)封印しに来ていたはずだから、まだ生きているはず。もしかして、何かあったのか?


 俺が疑問を口に出していたにもかかわらず、葉月がずいぶん静かなのが気になった。葉月のほうに目をやると、ものすごく落胆していたので声をかけずにはいられなかった。


「なぁ……お前らって、もしかしてアレの監視を任されてたの?」


 葉月はもの凄く悔しそうに何回も頷いた。


「ご……ご苦労さま~」


 あまりにも見てられなくて、俺は思わず目を逸らしてしまった。


「あんたにとったら、笑いごとでしょうね!」


「笑ってねーよ。まぁ監視対象がいなくなってたら、ショックだよな」


「はぁ……あの山は数千年も昔から私達一族以外、入山するなと言われていたの。あそこにはドラゴンが眠っているからだと……」


「へぇー……なるほどね。それじゃあ確実に俺の体、あそこにあるな」


「そうなるわね。でも、本当にいたのね。あの山にドラゴンが……」


「なんだ? 自分ん()の言い伝え、信じてなかったのか?」


「昊が話してくれるまで半信半疑だったから……」


「まぁ、そうだな。起こったことも何千年も前だ。よくそんな言い伝えが残ってたと思うよ。そうか……お前らのおかげで、まだきれいに残っているんだろうな、俺の体は……転生したから暴かれたのかと思ったけど」


 大抵ドラゴンの墓は暴かれてしまって残っていない。ドラゴンの体は余すことなく魔道具等の材料になるため、盗掘されることが多い。今回襲ってきた男もそれが目的の一つのようだった。


「そうね。昔から、今日みたいな輩は結構来てたみたい。でも、私たちの目を掻い潜ってあそこに辿り着いても封印の効果なのか、触れようとすると焼け死んだって聞いてるわ」


「たぶん、それ……あの体に残る魔力のせいもあるかもしれない」


「どういうこと?」


「魔物の魔力には瘴気が混じっている。下位クラスの魔物なら影響は殆どないが、自慢じゃないが前世の俺は上位クラスだったんだ。普通の人間が近づけば、瘴気に当てられて命を落とすこともある」


「え? でも、私たちが平気なのは?」


「人間になってわかったんだけど、異能者は少しの瘴気だったら無意識に防御する。それに、葉月たちは訓練してるからある程度は耐えられる」


「そっか……だから『関係者以外立ち入り禁止』か! 納得! 納得!」


 それにしても……ずいぶん、おおざっぱな言い伝えの仕方だな。


「まぁ、俺もずっと気になってたことだからスッキリしたよ……あそこに行くと妙に落ち着くから……ん? これは喜ぶべきか? どうなんだ?」


「何か複雑ね。でも、あそこに行けば魔力が安定するのであれば、良いことなんじゃない? あ……でも待って、まさか……」


 葉月は険しい顔で俺を睨んできた。


「まさか、何だよ」


「埋まってる体。復活しないよね? あ! もしかして、これから復活させるとかじゃないよね?」


「はぁ?」


「あの男も言ってたじゃない。昊の眼は『魔眼球』だって!」


「ああ……その『魔眼球』ってなんだ?」


 葉月は、しばらく目を見開いたまま静止していた。


「え? あなた元ドラゴンなのに知らないの?」


「そんな全部知るかよ。魔物のときは、眼によく魔力を溜めてたけど、俺が前に生きてた時はそんな名前、付いてなかったぞ? 人間たちが勝手に言い始めたんだろ?」


「まぁ……確かにそうかも。んーと、説明するとね。『魔眼球』は、自分の魔力を溜めることができたり、物の性質を見抜いたりできる魔道具よ」


 葉月の説明では、『魔眼球』とは魔物の目玉。上位クラスの魔物のもの程、魔力を蓄えることができるという。今では殆ど討伐され、魔物の多くがこの世界におらず、居たとしても異界に逃げ遅れた、力の弱いものしかいないらしい。魔道具にされた『魔眼球』の多くは、昔から家に伝わる物か魔道具オークションや闇ルートへの流出以外、目にすることはない。その為、あの山に眠っているドラゴンの遺体は貴重なものとなり、今までもよく狙われてきたらしい。


「つまり、俺が元の体に溜めてた魔力を与えて、復活させるんじゃないかと疑ってるわけか……」


「そうじゃないけど、今まであそこに埋まっていて誰にも掘り返されたことがないのよ? 魔眼球だってそのまま残ってるはずでしょ?」


「それだけなら、動くことはないだろ」


 いきなり後ろから声がしたので、心臓が止まるかと思うくらい驚いた。振り返ると、現場処理を終えて帰ってきた樹さんだった。


「父さんお帰り。ずいぶん早く終わったのね」


「あの男が大人しく拘束されていたからな。特殊警察に引き渡すのも楽だった」


「特殊警察? ってなんだ?」


「今回みたいな、異能が関わった事件を担当するの。あまり表立って活動しないから、普通は知られていないけどね」


「へー……」


「それで? 父さん、さっきの話。動くことはないって……」


「ああ、あそこにある遺体は、封印されたものだから自らは動かない。ただ……」


「ただ?」


「誰かが操れば、別だがな……」


 樹さんは、何か悪巧みを考えていそうな表情だった。俺と葉月は何も言えなかった。

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