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ドラゴンの転生  作者: 藤塲美宇
第七章 役目と追憶
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9

 季節が変わり、ナオたちは再び移動し、しばらく滞在する場所を決めた。

 ナオたちが野営地に決めた場所の近くに、さほど高くない山が見える。俺は久しぶりにドラゴンの姿でその周囲を飛んでみたくなり、ナオたちと離れ、山の頂上を目指した。

 なだらかな傾斜、火山灰が降った後なのか大きな植物も根付いておらず、草だけが生えていた。山頂は平らで広かった。

 俺はドラゴンの姿に戻り、大きく息を吸った。小高いおかげで、この辺りが一望できる。この地では、今のところ魔物に出会っていない。戦いのない世界が、あるとは思わなかった。


「ここは……まるで別世界だな」


 ふと、山の麓のほうから、俺を呼ぶ声がする。声がするほうを見るとナオが山を駆け上がってきていた。


「ソール! 待って! どこに行くつもり?」


「ナオ?」


 ナオは必死に走ってきていた。なにか焦っている。息を切らせながら、俺にしがみつき、行かせまいとした。


「どうした? ナオ?」


「ソール! 一緒にいるって……言ったのに!」


「? うん? 俺はナオといるぞ?」


「じゃあ、何で、その姿に? どこかに行く気なんでしょ? わざわざドラゴンの姿になって、どこに行くの?」


 ああ、ナオは俺がここを離れると思ったのか。それで――


「ナオ、俺はどこにも行かない。ナオのそばにいる。ただ、今日は天気もいいし、気分がいいから、久々に空を飛んでみたくなっただけだ」


「本当? 本当にどこにも……行かない?」


「ああ、行かない」


 しがみついたナオの表情は暗く、今にも泣き出しそうだった。


 何故そんな顔をするんだ? そんなに不安にさせてしまったのか?


「そうだ、ナオ。俺の背中に乗ってみるか?」


「え?」


 ナオは泣きそうだった顔をあげ、きょとんとしている。


「ただ、俺は人間を乗せたことがないから、飛ぶときの加減が分からない。それでも、乗ってみるか?」


「うん!」


 ナオは気持ちのいい返事と、笑顔を見せてくれた。

 


 ナオを乗せ、ゆっくりと山を飛び立つ。野営地のあたりを旋回した。


「ナオ、ゆっくり飛んでいるが、大丈夫か?」


「うん! 大丈夫だよ! すごいね! 空を飛ぶってこんな感じなんだ! あ、見て、ソールと会ったのはあの辺りだよね?」


「ああ、そうだな」


 ナオが楽しそうにしているのを見ると、何故だか気持ちが高鳴った。こんなにも気持ちいい時が来るとは思ってもみなかった。



 しばらく周回し、また山の頂上へ降り立った。すると、山頂の片隅に、か細く生えた植物があった。ナオはその植物に近づき、何故かうれしそうに眺めていた。


「ねぇ、ソール。コレ、小さいけど木だよ」


「木? あの果物がなる木か?」


「あはは、残念。この木は、果物はならないね」


「そうなのか」


「でも、この木はすごく大きくなるよ。木はすごく長生きなんだ」


「そうなのか、俺たち魔物とどちらが長生きだろうな」


「そうだね。いいなぁ、ソールはこの木の成長を見守れるんだね」


「実がならない木なんか見守ったって、面白くないだろ?」


「あはは、ソールって、意外と果物好きだよね」


「うん? そうだな。ナオが最初に食べさせてくれたモモが一番うまかったな」


 ナオが横で笑っている。それが何だか嬉しく思えた。そう思えたのはいつぶりだろうか。


 このまま時が止まればいい――

 そんなふうに思うのは初めてだった。

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