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ドラゴンの転生  作者: 藤塲美宇
第七章 役目と追憶
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 突然現れた『アクア』に、何故か緊張している自分がいた。目の前にいる女性が前世はドラゴンで、それも――


「アクア? って、前世では……」


「そうね。あなたとは(つがい)、だったわね」


 何だ? この変な感じ、何となく居心地が悪い。前世で同じくらいの年代だったから番になったけど、俺が戦うことを優先して子供は作らなかった。一緒に行動したのは一年足らずで、その後、アクアがどこで何をしていたのかは分からなかった。


 まさか、前世のことを何か言われるのか?


「アクア……じゃない、えっと……?」


「私のことは清香って呼んでくれる? 私も昊さんって呼ばせてもらうわね」


「え? ああ、はい。えっと、清香さん、お、俺を探していたって? どういうことですか?」


「昊さん、あなたに頼みたいことがあったの」


「頼みたいこと?」


「わたしの力は覚えている? 水の力と……」


「……未来視」


「そう。私は未来を予知することができる」


 昔から『アクア』の未来視は正確だった。俺もたまに予知夢を見ていたが、比較にならないくらいだった。


「何の……未来を見たんですか?」


「この世界の終わり」


「はっ……ははは、まさか!」


「…………」


 清香さんは真剣なまなざしで俺をまっすぐ見てきた。それが、真実味を増していた。


「本当に? その夢を……見たんですか?」


 清香さんはこくりと頷いた。


「このまま何もしないで進み続ければこの世界が終わる」


 突然、馬鹿げたことを言っているように聞こえるが、清香さんはいたって冷静な口調で話していた。


 そして、俺を探してまで話したと言うことは――


「この世界の命運にあなたとコウが深くかかわっているので、それを教えに来たの。あなたたちの行動でこの世界は終わる」


 やっぱりか。


 俺は思わず、深くため息を吐いた。


「あの、世界の命運? そんな大それたものに俺たちが関わっているって言うんですか?」


「ええ。でも、やっぱり信じられないわよね」


 いやでも、アクアの未来視は正確で、恐ろしく当たる。


「いいえ、アクアの未来視が正確なのは知っています。でも、世界が終わるって、どういう――」


「この世界が終わるんです」


 清香さんは食い気味に言ってきた。


「あの、具体的なことを聞きたいんです」


「世界が終わるんです」


 うん、会話が成り立たない。


「申し訳ないけど、これ以上は……言えない。ちょっとしたことで、崩れてしまうから」


「そうかもしれませんが、もっと、情報が欲しいんです。何故、このままだと世界が終わるのか、俺がどうして関わっているのか。それに、本当に俺だったんですか?」


「あのドラゴンは……あなたでした」


「俺は、ド、ドラゴン……だったんですか?」


「はい」


 胸がざわついた。鼓動がドクンと重たく鳴る。


 膝の上に置いた手が、いつの間にか強く握りしめられていた。


「……俺は……また、ドラゴンに?」


「昊さん? 大丈夫ですか?」


 世界の命運に関わっているということより、またドラゴンになってしまうかもしれないことに、絶望感が押し寄せてきた。しばらく、何も言えなくなっていた俺に、清香さんは話しかけてきた。


「……昊さん、あなたは何を恐れているのですか?」


 その言葉に体がびくついた。顔を上げると相変わらず無表情のまま、そこに座る清香さんがいる。


「俺は……俺が……恐れているのは」


『……君に会えて、よかったよ』


 頭の中に一瞬聞こえた声。

 それは、ドラゴンだった俺がこの地に逃れて、最後に出会った人間の声だった。

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