4
突然現れた『アクア』に、何故か緊張している自分がいた。目の前にいる女性が前世はドラゴンで、それも――
「アクア? って、前世では……」
「そうね。あなたとは番、だったわね」
何だ? この変な感じ、何となく居心地が悪い。前世で同じくらいの年代だったから番になったけど、俺が戦うことを優先して子供は作らなかった。一緒に行動したのは一年足らずで、その後、アクアがどこで何をしていたのかは分からなかった。
まさか、前世のことを何か言われるのか?
「アクア……じゃない、えっと……?」
「私のことは清香って呼んでくれる? 私も昊さんって呼ばせてもらうわね」
「え? ああ、はい。えっと、清香さん、お、俺を探していたって? どういうことですか?」
「昊さん、あなたに頼みたいことがあったの」
「頼みたいこと?」
「わたしの力は覚えている? 水の力と……」
「……未来視」
「そう。私は未来を予知することができる」
昔から『アクア』の未来視は正確だった。俺もたまに予知夢を見ていたが、比較にならないくらいだった。
「何の……未来を見たんですか?」
「この世界の終わり」
「はっ……ははは、まさか!」
「…………」
清香さんは真剣なまなざしで俺をまっすぐ見てきた。それが、真実味を増していた。
「本当に? その夢を……見たんですか?」
清香さんはこくりと頷いた。
「このまま何もしないで進み続ければこの世界が終わる」
突然、馬鹿げたことを言っているように聞こえるが、清香さんはいたって冷静な口調で話していた。
そして、俺を探してまで話したと言うことは――
「この世界の命運にあなたとコウが深くかかわっているので、それを教えに来たの。あなたたちの行動でこの世界は終わる」
やっぱりか。
俺は思わず、深くため息を吐いた。
「あの、世界の命運? そんな大それたものに俺たちが関わっているって言うんですか?」
「ええ。でも、やっぱり信じられないわよね」
いやでも、アクアの未来視は正確で、恐ろしく当たる。
「いいえ、アクアの未来視が正確なのは知っています。でも、世界が終わるって、どういう――」
「この世界が終わるんです」
清香さんは食い気味に言ってきた。
「あの、具体的なことを聞きたいんです」
「世界が終わるんです」
うん、会話が成り立たない。
「申し訳ないけど、これ以上は……言えない。ちょっとしたことで、崩れてしまうから」
「そうかもしれませんが、もっと、情報が欲しいんです。何故、このままだと世界が終わるのか、俺がどうして関わっているのか。それに、本当に俺だったんですか?」
「あのドラゴンは……あなたでした」
「俺は、ド、ドラゴン……だったんですか?」
「はい」
胸がざわついた。鼓動がドクンと重たく鳴る。
膝の上に置いた手が、いつの間にか強く握りしめられていた。
「……俺は……また、ドラゴンに?」
「昊さん? 大丈夫ですか?」
世界の命運に関わっているということより、またドラゴンになってしまうかもしれないことに、絶望感が押し寄せてきた。しばらく、何も言えなくなっていた俺に、清香さんは話しかけてきた。
「……昊さん、あなたは何を恐れているのですか?」
その言葉に体がびくついた。顔を上げると相変わらず無表情のまま、そこに座る清香さんがいる。
「俺は……俺が……恐れているのは」
『……君に会えて、よかったよ』
頭の中に一瞬聞こえた声。
それは、ドラゴンだった俺がこの地に逃れて、最後に出会った人間の声だった。