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レイスとの戦いで、また魔物化してしまったから弥生に魔力の浄化を頼んだ。
弥生もミーティスのところで修行しているおかげか、光属性の魔法がだいぶ上手くなってきていた。慣れてくると手を握らなくてもできるようになるらしいが、弥生はまだ手を握らないと浄化ができないようだった。
「レイス様って面白い人なんだね。昊は前世から知ってるって言ってたけど、昔からあんな感じなの?」
「うん、変わってないな。あれから何千年もたってるのに、な」
「あはは! そうなんだね」
そういえば、葉月が言っていたけど、弥生はミーティスのこと、本当に? やっぱり気になる。
「昊、なんかオレに聞きたいことでもあるの?」
う、何でバレた?
「『何でバレた?』って、顔してるね」
「……なぁ、俺ってそんなに顔に出る?」
「んー……一緒に住むようになって、気付いたっていうか、気付けるようになったっていうか……」
「そうなんだ」
「で? 何?」
「あのさ……弥生って、ミーティスのこと、どう……思ってる?」
「え? 何? どうって?」
弥生は驚いて慌て始めたが、俺の浄化はまだ終わっていないので、手を離せないでいた。
「ちょっと……小耳に挟んで」
弥生はため息をすると、呆れたように笑った。
「はぁ……姉さんだね?」
「うん……まぁ、そう。その、ミーティスのこと……その」
「うん……好きだよ? あ、友人として好きってことだからね? 恋愛感情があると思った?」
「うん、その……葉月の話では……そうなのかなって」
「あー……姉さん、そっか……うん、確かにミーティスを初めて見た時、一目惚れっていうのはそうなんだけど、その……憧れって言うか」
「ミーティスに……憧れ?」
「最初は確かに見た目に惹かれたけど、何て言うか……真面目、だよね。やさしいし、健気だし」
「真面目なのは昔からだが、やさしい? 健気? ミーティスが?」
「ミーティス、昊に騙されてあそこにいるって言ってたけど、それでもちゃんと役目を果たしてる。あの門は閉ざされて何千年って経ってて、魔物が来ることはなくなったらしいじゃん? でも、たまに人間が紛れ込んでくるんだって。そういう時は記憶を消して誰かに見つかるように誘導してるって言ってた」
「そう言えば、あそこに行ってわかったけど、あの結界は、弥生たちが張るものとは違うみたいだな。魔力を持ってる人間は入れちゃうみたいだし」
「うん、レイス様が昔、大陸が沈む直前に張ったんだって。もしかしたら、海の中に沈むって予測していたのかもしれないね。人間にとってはあそこの瘴気はかなり毒だからね」
「まぁな、でも確かに感心だな、人間嫌いのミーティスがねぇ」
「それに、あそこは寂しい場所だよね。ずっと、独りでさ。昔はコウとレイス様がよく話し相手に来てくれてたらしいよ。けど、コウが眠りについた後、レイス様は魔導師の仕事もあるし、前ほど来なくなったみたい」
「レイスはミーティスに嫌われてると思っているしな」
「うん……だから、昊たちがあそこに来たとき、本当は嬉しかったんだって。人間は嫌いだけど話ができるから……でも、ミーティスにも役目がある。人間が迷い込んだら、追い返さなくちゃいけない。だから、情を捨てて昊たちと戦ったらしいよ」
「それにしては、かなり殺す勢いで襲ってきたけどな」
「あはは! そうみたいだね。でも昊の前世が『ソール』だって分かった時は、本当に嬉しくて、思わず抱きついたって言ってた」
「まさか、抱きつかれるとは思ってなかったな」
「ミーティスって、やさしいよね。あ、それとね。昊が前に、ミーティスのこと『綺麗』って言ってたの、分かる気がするんだ」
「ん? そうか?」
「ドラゴンになった時の立ち姿、凛としていて……それにあの瞳の色、背中のライン、尻尾の滑らかな動き、ついつい見惚れちゃうんだよね」
「だろ? 前世でいろんなドラゴンを見てきたけど、群を抜いて綺麗なんだよ。それにあの性格だから、けっこう可愛がられていたしな」
「でも、やっぱり一番は……」
弥生は、俯きながらぼそりと呟いた。
「ん?」
「いや、何でもない」
「何だ? 何かあるなら言えよ」
弥生は何故か俺を見ようとしなかった。
「何でもないよ。えーっと、だからね。オレの場合、『推し』みたいな感じかな? それに、ミーティスは『コウ』が好きでしょ?」
「あーうん。やっぱり、気づく……よな」
「うん……結構、熱弁されたし」
「そっか……」
弥生は確かにコウのことを気にしている感じではなかった。
「よし! 終わったよ!」
「ああ、ありがとう」
「へへ、だいぶ早く、浄化ができるようになったでしょ?」
「うん、そうだな」
そういえばさっき「一番は……」って、弥生は何を言おうとしたんだろう?