12
「コウは昊、お主を安全の場所まで運んだあと、ここより北の海の上でバアルと戦った。両者はお互いの力が尽きるまで戦い、コウは傷つけられ、深い眠りについた」
「それじゃあ、今、コウはどこに……」
「体はミーティスがおるあの場所に、だが……」
「? 何だ?」
「魂が抜けてしまっているのだ」
「え?」
「幽体離脱ということなのだろうな。一年ほど前から体から魂が離れた状態なのだ」
「いなくなったって……魂がいなくなったってことか!」
ちょっと待て……それじゃあ、ミーティスはあの時、自分からコウに話すと言っていたが、あれは嘘だったのか。コウの力が必要と言っていたが……どうするつもりだ?
「それで、ここに来れば、もしかしたら何かしら、形跡が残っているのではないかと思ったのだ。うーん、しかし、この辺りで気配を感じるのだが、見当たらぬ。昊よ。何か、心当たりはないかのう」
「一年前……?」
まさか……。
「昊? どうかした? もしかして、何か心当たりがあるの?」
「いや……レイス、幽体離脱ってことは……もしかして誰かに憑依している可能性はあるのか?」
「うむ、それは十分考えられる」
「そうか」
「昊よ。何か知っておるのか?」
「あ、いや……」
確認してからじゃないとな。
「いったい、どこに行ってしまったのやら」
「それじゃあ、ミーティスもコウを探しているのか? 探すのはアクアだけじゃないのか?」
「ん? 昊はミーティスに会ったのか?」
「ああ、魔力のコントロールがどうにかならないかと思って……」
「そうか、会ったのか。それでは、お主の力の一部を封印をしたのがコ――」
「あああああああああー!」
レイスが言いかけた時、葉月がいきなり大声を出して肝心なことが聞こえなかった。
「何だよ、葉月!」
「今は! 昊は『アクア』を探しているんでしょう? ね?」
「ああ、まぁ……」
明らかに葉月は何かを知っている。そう言えばミーティスの所に行ったとき何か話していたな。もしかして……。
「葉月? もしかして、ミーティスに何か聞かされているのか?」
「いいえぇ。何も、聞いていません!」
葉月は「何か聞いてます」というような顔で大きく首を横に振った。
「はぁ、またか……」
俺は大きくため息を吐き、頭を掻いた。すると、横にいたレイスが口元に手をやり、険しい顔をして悩みだした。
「うーん、やはり儂はここで探したほうが良いのか?」
「何だ? レイス?」
「うむ、コウの手掛かりは、もうお主くらいしかなくてのう。あまり、ウロウロしないほうが、良いような気がしてならんのだ」
「レイス、確かにお前はやたら動かないでいたほうが良い。しかし、はっきり言って、ここにはいてほしくない! ミーティスの所にでもいろ! あそこにコウの体があるんだろ?」
「そ……そうなのだが」
「どうかしたのか?」
何故かレイスは言いにくそうに視線を落した。
「ミ、ミーティスは儂を嫌っておる。あそこは……その、居づらいのだ」
「何で、ミーティスがお前を嫌うんだ?」
「儂がコウを連れて行ったからだ。お主とほぼ一緒の理由だな。コウと一緒にいたかったのだろう」
「何で俺とミーティスが一緒の理由なんだよ!」
「お主は儂にヤキモチを焼いておったではないか」
「焼いてない! まぁ、確かにミーティスはヤキモチを焼いてるかもしれないけどな。あのミーティスの態度はコウのことを好きなのがバレバレ……」
あれ? 最近誰かが、ミーティスのこと好きだとか何とか言ってなかったっけ?
「あー……やっぱり、ミーティスって、昔から『コウ』のことが好きだったのね」
そう言う葉月は、困った顔しながら笑っていた。
「え? ああ、そうだな……あ! そうか、弥生……」
「うん、たぶん、弥生も気づいてる」
「そっか……そうなんだ」
「何だ? 『弥生』とは誰だ?」
何故か目をキラキラさせたレイスが、話を聞こうと身を乗り出してきた。
「あー……レイスは知らなくていい。というか、面倒くさい」
「面倒くさいとは、ひどいのう。儂にも教えてくれてもよかろう?」
本当に面倒くさいし、話を逸らそう。
「それよりレイス。お前実は、コウにも嫌われたんじゃないだろうな? だから、コウは幽体離脱したんじゃ……?」
「え? そんなことは……無い……ぞ?」
レイスの声はだんだん小さくなっていき、ぼそぼそと言い始めた。
「何か心当たりがあるのか? あのコウが嫌うって……レイス、いったい何をしたんだ?」
「してない! 断じて! と、思う! 思いたい。けど……えー? 儂、嫌われたのかなぁ? 何かしたかなぁ? 昊よ! 儂、嫌われていたら、どうしたらいいのだぁ?」
レイスは泣きそうな顔で俺にしがみついて来た。
「知るか! 自分で考えろ! お前、昔は賢者って言われてたんだから、頭いいんだろ?」
「儂、実は頭良くないんだぞ? ただ、ちょーっと、いろいろと魔法やら、何やらができただけなのだ。皆が勝手にあんなふうに言い始めて、儂も困っておってな。『賢者』って言われるよりかはいいかなーって……それで、自ら『魔導師』と名乗るようにしたのだ」
「え? 『魔導師』って自称? まぁ確かに話すと、頭悪いよな」
「ひどい!」
「あの、話が逸れましたけど、レイス様は『アクア』が今どうしているか、ご存知ですか?」
「ん? ああ、アクアも昊と同様、封印が解け、魂が抜けておった。たぶん転生しておるだろう」
「その転生者にお会いしたことは?」
「それが、分からんのだ。あやつも転生したら、魔力で分かりそうなものをどうも隠しておる」
「それでは、情報は無いのですね?」
「まぁ、そうなるな」
「チッ! 使えねぇな」
「む! 昊、お主! 口が悪いぞ? もう少し、年上を敬いなさい」
「ふん、やだね」
「ふふ……」
そんな俺たちのやり取りを見ていた葉月がクスクス笑い始めた。
「な、なんだよ? 葉月?」
「何か、昊がレイス様に子供みたいに甘えているから、面白くって」
「な? 俺は甘えてなんかない!」
「そうなのか? 葉月殿。昊、儂にそんなに甘えたいのか?」
「んなことあるか!」
「そうやってぶっきらぼうに言うのは儂に甘えたかったからなのだな? うむうむ! 良い良い! 儂はお主を受け止める準備はできておる。さぁ! 儂にどーんと甘えて来るが良い」
「違うって言っているだろうーが!」
レイスのこういうところは昔から本当に嫌いだ。だが、コウが頼りたくなるのも今なら分かる。レイスはどんな奴でも向き合い、手を差し伸べる。そして、赦す。だから、コウはレイスについて行ったんだろう。
なぁ、コウ……お前はきっと、俺の近くにいるんだろう? 何となく、そんな気がするんだ。
ここまで読んでいただきありがとうございます。思いのほか長くなってしまいました。
読んでいただけることが嬉しい。楽しんでもらえたなら幸せです。
どうぞ、これからもよろしくお願いいたします。