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ドラゴンの転生  作者: 藤塲美宇
第六章 因縁と行方
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 俺は全力で魔力を全身に解放させた。さすがレイスの力、魔力の糸はなかなか切ることができない。右上半身はドラゴンの皮膚化が進み、服も破けた。次第に口元が歪み、頬が大きく裂けていくのが分かる。


 魔物化? そんなことは、今はどうでもいい。あの二人の力を奪わせてたまるか!


「動けぇぇぇぇぇーー!」


 体に巻き付いていた糸が、すべて切れた感覚があった。動けるようになった瞬間、俺はレイスの頬を思いっきり殴っていた。


「レイス、貴様! いい加減にしろよ! 俺のことが気に食わないなら、俺を狙え! 俺を攻撃しろ! ここの人たちを巻き込むな!」


「……昊」

「……昊君」


 レイスは殴られた勢いで倒れ込んでいた。体を起こし、俺を見るなりいきなり笑い始めた。


「フッ……フフフ……あーははは! そうか、そうか!」


 俺は二人を庇うように立ち、レイスを警戒した。レイスは笑うのをやめ、いきなり地面に両手をついた。


「!」


 今のレイスは何をするのか分からない。俺は身構え、攻撃に備えた。しかし、レイスは俺の思っていたことと反した行動をとった。


「すまぬ!」


 レイスは唐突に、俺たちに向かって土下座をしてきた。


「え? あ、んん?」


「本当に申し訳ない! まさかソールがこんなにも変わっているとは思ってなかったのだ」


「……え?」


 どこまでが本気なのか、訳が分からない。ボーンドラゴンを復活させて俺を襲ってきた男が、地面に頭が着くくらい深く下げて謝罪している。すると、後ろから大きなため息が聞こえてきた。


「はぁ……勘弁してください、レイス様。突然テレパシーを使って、昊君を『試したいから協力してくれ』と言うのは」


「あー……樹殿、本当に申し訳ない」


 強張った顔をしていた樹さんは一転、安堵の表情を見せた。レイスも先程の殺気は消え、気の抜けた顔をしていた。


「え? 樹……さん? どういうこと?」


「ごめんな、昊君。君を騙すことになって」


「え? じゃあ、さっき葉月が怪我したのは……?」


「あ……こ、コレ? 実はかすり傷なんだけど……幻影で傷に見せてるだけだったみたい。実際に魔弾は当たっているから痛かったは痛かったんだけど……」


「じゃあ……皆で、俺を騙したのか?!」


「ごめんね、昊。私も途中で聞かされたのよ? 父さんが話合わせろって……」


「すまない昊君! いきなり頭の中でレイス様の声がしたから、びっくりして緊張しちゃったよ」


「しかし葉月殿、実際に魔弾は当ててしまったから、一応、腕を診せてもらっても良いかな?」


「いえ、ほんとに今は痛くもないですから……」


「葉月……ほ、本当になんともないのか?」


「大丈夫よ、昊」


 葉月は申し訳なさそうに笑った。レイスが巻かれたハンカチを解き、腕を見ると少し赤くなっている程度で、傷口はなかった。


「うむ、これならすぐに赤みも引くだろう」


「はぁぁぁぁぁ……良かったぁぁぁ」


 俺は安心したせいか全身に力が入らなくなり、その場に座り込んだ。


「昊君! 大丈夫かい?」


「樹さん! いつから騙してたんですか!」


「あー……テレパシーが聞こえたのは、葉月が魔弾で撃たれた時かな? 『その傷は幻影だから安心しろ』って」


 ああ、あの時、苦い顔してたのはそういうことだったのか……。


「それから、隙を見て葉月にレイス様の意向を話して、合せてもらったんだ」


「私もね。突然言われたから、びっくりしたんだよ」


 悔しい! けど、二人が無事でよかった。レイスと戦ったところで勝てる気がしなかったし……けど、悔しい!


 俺はもう一度、深くため息をついた。


「それで、レイス様。ここまでして、昊君のこと、どう感じましたか?」


「うむ、ソール……今は『真空寺昊』だったな」


「え? どうして……名前」


「知っておるさ。コウがずっと心配しておったのだからな」


「コウが……?」


「昊、お主は魔物であったにもかかわらず、今は人間の心も育んでいるようだ。ここで、樹殿に修行をみてもらっているようだな。魔力を殺戮のためではなく、守るために学んでいる様で儂も安心した」


「でも、レイス様、ボーンドラゴンの復活は少しやりすぎだったのでは?」


「うむ、しかし、ここに魂がないのに置いておいてもしかたがないしのう。大方、ドラゴンの遺物を狙うのは、武器や魔道具にするための骨だ。まぁ、魔眼球があれば拾い物と思っておるだろうしな。すべて粉々になってしまえば、使い物にならんから、もうここには狙う者も来んだろう」


「そうだと良いのですが……」


 二人の話していることが、頭に入ってこなかった。少し、いや、結構騙されたことがショックだった。心が落ち着くのと同時に、魔物化していた腕も戻りつつあった。しかし、立つ気力がわかなくてそのままでいると、葉月が隣に座った。


「昊、大丈夫? やっぱりショックだった?」


「まぁな」


「だよね」


 葉月は気まずそうに笑う。それを見たレイスが俺達の前に片膝を立てて座った。


「封印が解けてしまったから、いつかは転生すると思っておったが、このような形になるとは儂も思わなんだ」


「何のことだ? レイス」


 レイスは俺と葉月を交互に見ながらニコニコとしている。俺はただでさえレイスが嫌いな上、この見透かすような態度が許せなくて、思いきり嫌そうに話した。 


「そう言えば、レイス、何でここの封印ができなかったんだ?」


「うむ、今から百年ほど前にもバアルが、この国の近海で暴れたことがあったのだ。それを止めるのに手間取ってな」


「なぜバアルが……」


「儂の憶測だが、お主らが転生するのを見越していたのだろうと思うのだ。丁度、お主らの封印をかけ直す時期でな。かけ直すことができなければ、封印は解除される。それでワザと、暴れたんだろうと思うのだ。そのせいで、この国にも被害が出てしまったがな」


 百年前? そう言えばその頃、大地震があったな。


「それで、レイス様……ここに来られたのは、別の用件でしたよね?」


「ああ、そうなのだ……儂の相棒を探しに来たのだ」


「そうだ、レイス! コウはどうした? どうして一緒にいないんだ?」


 レイスは俺の顔をみて、急にしゅんとなってしまった。


「いなくなって……しまったのだ」


「いなくなった?」


「うむ、何処から話すべきか……コウは、十二年前……深く傷つけられ眠りについた」


「十二年……俺が五歳の時か? 傷つけられたって?」


「実は……コウは昊、お主が転生してからずっとそばにいたのだ。お主を見守るためにな。バアルがお主の家族を襲ったあの時も」


「あの時、コウが……いたのか」


 不思議に思っていた。両親はバアルに殺されたのになぜ俺だけ助かったのか。最初はいつものバアルの気まぐれかと思っていたが、違ったのか? コウが俺を助けたのか?

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