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樹さんは俺と目を合わせると、うれしそうにボーンドラゴンのほうへ走っていった。
俺はすぐに魔力で作った縄をボーンドラゴンの周りに蜘蛛の巣のように張り巡らせ、それで一気に体を縛り上げた。
ミーティスと戦った時、少し加減がわかってきた。魔力を送り続ければ、そう簡単には切れないはずだ。
「うん、うまいぞ! 昊君!」
ボーンドラゴンはカタカタと骨を鳴らしながらもう一度雄叫びを上げると、一気に瘴気が濃くなった。
魔法で瘴気を薄くしていると言っても時間の問題だ。今、ここに浄化できる弥生はいない。
「う……また時間との勝負か……」
肉弾戦は樹さんが一番強い。だが、ボーンドラゴンに当てたとしても、傷ひとつついていない。
縛られている状態でもかなり暴れている。ボーンドラゴンは口から火を噴き、樹さんを遠ざけ、俺の縄も引き裂こうとする。
「ぐ……かなり、きついな」
「昊君、まだ耐えられそうかぁ?」
「はい、何とか……」
樹さんはうまいことボーンドラゴンの口から吐かれる火を避け、何度も連続して攻撃を与えていた。少しずつ、骨にひびが入るが、すぐに回復して元通りになっていく。それを何回も繰り返していた。
レイスの力が影響しているのか、回復スピードが速い。
先にレイスを見つけたほうがいいか……。
俺は目に魔力を集中させる。目の前の色が変わり始めた。魔眼球で辺りを見わたすが、特に変化が見られない。
「本当に近くにいるのか?」
そうしている間も樹さんはボーンドラゴンと戦っている。どうも気が急いてしまう。
もし、アイツがどこかで見ているとなると、俺が狙われやすい。早くどうにかしないと……。
「昊君! レイス様の気配が近くでする! 気を付けろ!」
「え?」
樹さんの猛攻は止まらない。いや、止めたらすぐに縄を引き裂いて暴れ出しそうだった。
「くそ! レイス! どこだ?」
「昊君! もう少し……耐えてくれ! 葉月も、もうすぐ来る!」
ボーンドラゴンの回復スピードが段々遅くなってきた。だが、俺の作った魔力の縄は限界が来ていた。
あと少しで、引き裂かれる。
「樹さん! そこから離れて……」
すると、見たことのある魔力の揺らめきを感じた。
「……〈防御魔法破壊〉!」
俺の後方から息を切らした女性の声が、闇の力を放つ。その力がボーンドラゴンを覆うとバリンという音と共に「防御魔法」が破壊された。
振り返ると、葉月が息を切らしながら、ボーンドラゴンに手を広げて立っていた。
「……葉月」
「はぁ……はぁ、昊、これ……どうなっているの? あの骨、ドラゴン?」
「葉月ー! いいタイミングだー! よくやったぞぉ!」
「父さん! いいから! 目の前のことに集中して!」
「分かった、分かった。じゃあ、いくぞ!」
樹さんは攻撃をやめ、ボーンドラゴンと距離をとった。
「水の精霊よ、深淵より氷霧を呼び、氷晶となりて牙と化せ! 〈絶対零度〉!」
無数に繰り出された氷刃はボーンドラゴンの体を凍らせていく。
樹さんは俺を見ると、にやりと笑った。俺は瞬時に、何をするのかわかった。お互い目を合わせ頷くと凍って動かなくなったボーンドラゴンに向かって走っていった。
「昊君! とどめを刺すぞ!」
「はい!」
俺と樹さんは同時に高くジャンプした。
「「うぉぉぉぉぉぉぉ!」」
俺と樹さんの雄叫びと共に、ボーンドラゴンの胸のあたりに飛び蹴りを食らわせた。
「グォォォォォォォ……」
ボーンドラゴンは飛び蹴りを当てたところからひびが入り、粉々に崩れ去った。
「うわぁ……二人とも、ここまで壊さなくても……これって昊の前世の体なんでしょ?」
「あ……やりすぎだったか? すまん、昊君」
「いえ、これでいいんです。残っていたって、変に利用されるだけですし」
ほっとしたのも束の間、また別の魔力の揺らめきを感じがした。
「! 昊君! 後ろだ!」
「!」
振り返ると、すぐそこにレイスが立っていた。
「うーむ、気づくのが遅いのう」
「昊君!」
「昊!」
レイスの手には風の塊のようなものが見える。それを俺の腹にねじ込もうとしてきた。俺はとっさに、腹に魔力を溜め防御に備えた。
「うぐ!」
「ふむ、ソール……お主、弱くなったか?」
防御をしたが衝撃はある。吹っ飛ばされそうになったのを何とか堪えたが、みぞおちに与えられた衝撃で一瞬、気が遠のいた。その場に立っていられず、屈み込んでしまった。