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「困ったことになった」
「何です?」
「前世の昊君、かなり強い」
「え?」
「さすが、と言ったところか。まず、弱点の属性がわからなかった」
「弱点? それなら、『光』と『水』のはずです」
「ん? そうなのか?」
「実際、本人が言うんですから間違いありません。あ、でも確かに俺が水属性で蹴ったけど手ごたえがなかったな」
「そうだよな! 効かないよな! さっき、私が持つ全属性を拳に混めてみたんだ。『光』は持っていないが、どの属性も効いていなかった」
「さっき放ったって……ああ、がりゅう……?」
「我流・四界混合拳! うん、私が開発した全属性を込めた力だよ。名前も私が考えた! カッコイイだろ?」
そう言うと、樹さんは親指を立て、ニカッと笑った。
うーん、カッコイイのか?
「ああ、えっと、ソレで攻撃しても、反応がなかったんですか?」
「うん、四つの属性すべて跳ね返された」
「『水』も、ですか」
「うーん、これはもしかすると……」
樹さんはその場で弓矢を射るポーズをとり、ボーンドラゴンに照準を合わせた。
「水の精霊よ。矢を造り出し彼の者を居抜け。〈氷の矢〉」
放たれた矢は真っすぐボーンドラゴンに向かっていく。だが、体に当たる直前で、その矢は火花のように弾けとんだ。
「やはり、防御魔法か」
「レイスの力?」
「たぶんね。弱点がきかないように魔法をかけているんだな」
「アイツ、いつの間に……」
「やはり、バックにレイス様がいると手強いな」
「属性が効かないとなると?」
「肉弾戦になるが……殴ってみてわかったんだけど、ドラゴンは固い! それも、瘴気も放っている。長期戦になると私たちが危うい。うーん、あとは、ボーンドラゴンを操っているレイス様を探し出すしかないか」
樹さんは顎に手を当てながら俺を凝視してきた。
「? 樹さん?」
「やはり、魔眼球のほうが……しかし……いや、でも」
樹さんは何かを悩んでいる様子で、何度も俺をチラチラ見ながら頭を掻いた。
「あの、樹さん?」
「うん、いや! 何でもない! それより、昊君! あのドラゴンの動きを封じることはできるかい?」
「たぶん、できると思います。魔力を縄状にして縛り上げればいいんですよね?」
「うん、そうだね。んー……そうか。うーん」
「どうか、したんですか?」
「昊君。あのドラゴンを捕まえつつ、魔眼球でレイス様を探すのは正直きついかい?」
「え? っと……」
どうだろう……相手はレイスだしな。
「きついよな! いや、うん! 昊君はボーンドラゴンを縛ってくれ。たぶん、今縛っている私の魔法ではすぐに引き裂かれてしまうだろうから……レイス様のほうは私が探したほうが良いな! うん! うーん、索敵か……レイス様だし、捕まえられるかな?」
「やっぱり、俺、やりましょうか?」
「いや! さすがに! 昊君の負担が!」
「でも一番、それが早いんですよね? こうしてる最中もアレが暴れ出しそうですし。でもレイスがこの山から離れているとアウトな気がしますが」
「それは無いよ。死者を操るには近くにいないといけないんだ。遠くてもこの山の中にいないと無理だ。それに、さっきこの山に結界を張ったから、ここからは出られないはず。だから近くにいると思うんだよね」
「なるほど……レイスはどこかで俺たちの様子を見ているのか」
「うん、私も探すが、一応、昊君も魔眼球で警戒しておいてほしい」
「分かりました」
「よし、じゃあ! 水の精霊よ。我の求めるものを見つけ出せ。〈探索〉」
樹さんの手から水の塊が現れ、それが地面に落ちると波紋を作り、広がっていく。その水は触れることができず、そのうち消えてしまった。
「水の幻影?」
「うん、山全体をこの水で覆った。探したいものがこの水に触れれば分かるんだが……相手はレイス様だ。対策の一つや二つ、しているだろうね」
「俺も魔眼球で、できるだけ探してみます」
「いや、昊君はボーンドラゴンを抑えるほうを優先してくれ。ボーンドラゴンを暴れさせておくよりはいいからね。それに、葉月もそろそろここに来るはずだから、それまで耐えれば何とかなる! 闇魔法には『防御魔法破壊』があったはずだから」
「そうなんですね。じゃあ、縛っておいて、葉月が来るまで暫く待ちましょう」
「いや! もしものことがあってはいけない! 私はボーンドラゴンと戦って、気を引いておけば、縛っておくのも楽だろう?」
「え? 逆に暴れて……ん?」
樹さんは、いつにも増して何かウキウキしながら準備運動を始めた。
「樹さん……まさか、ボーンドラゴンと戦いたくて行くんじゃないですよね? なんか、うれしそうですけど」
「ギクッ! ま、まさか! そんなわけないだろう? はははははははははは!」
俺のほうを見ずに作り笑い。思いっきり「そうだ」と顔に書いてあった。
「そ、それに、ほら! 戦っているところを見せていたほうが、いいと思うんだよね。そうすれば、レイス様のほうから出てくるはずだから」
樹さんはこちらに振り返りながら、少年のように無邪気な笑顔を浮かべた。
うーん、樹さん、まさか何か策があるのか? いや、この顔は……考えてないだろうな。
「昊君は瘴気の耐性がある程度あるみたいだけど、あの濃さは危ない。魔力で対策はできそうかい?」
「いえ、実はそういう繊細なものは苦手で……」
「そうか、なら私が風の力でバリアを作ろう。完全に防ぐことはできないが、無いよりはましだろう? 風の精霊よ。我らの周りに風の力を――」
樹さんは俺にも風の魔法を纏わせ瘴気を薄くしてくれた。
やっぱり樹さんは魔法の使い方が上手いな。こういう繊細な魔力の使い方は、俺にはできない。
「うん、よし! じゃあ――」
樹さんは右手を握り左の掌にパンパンと打ち付けた。まるで、それが合図だったかのように、縛っていた魔力の縄をボーンドラゴンは引き裂いた。
「第二ラウンドと行きますか!」