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レイスが地面に手をつけると、そこを中心に魔法陣が大きく展開された。
「な、なんだ?」
「地に眠る我が力の源、賢者の杖よ、その姿をここに表せ」
レイスが手を地面から離していくと、少しずつ不格好な杖が姿を現し始める。それを手に持つと、木の根元にある塚の前に立った。
「いつの間に……。この文字は……が彫ったのか?」
レイスはフッと笑うと杖で塚を叩いた。すると、突然ひびが入り、塚は崩れてしまった。
「!? レイス……いったい、何をする気だ?」
「さて、お次は……」
レイスは少し小高くなっているところの前に立つと、杖を掲げに魔力を集中させた。
「お主が変わったというなら証明してみせよ。ここに眠るお主の体と戦って……」
「何だと?」
「レイス様! いくら何でも――」
「……〈封殺〉」
レイスが樹さんを睨みつけ、手を広げそう呟くと、樹さんは苦しそうな声を上げ、体が震え出した。
「うっ……くっ」
「樹さん?」
「邪魔をしないでほしいのう、樹殿。儂は試したいのだ。この者が本当に危険ではないのか」
「レイス! 樹さんに何をした!」
「何、儂の邪魔さえしなければ、すぐに術は解こう。試すには丁度良いではないか、ここに眠るドラゴンの骨はお主の力を十分に吸い取っている。魂がないぶん、生きていたころより弱いと思うがな。自分が人間だというのなら、ここら一帯に被害が出る前に、お主の元の体、この『ボーンドラゴン』を静めて見せよ」
そう言うと、杖に集められた魔力が一つの塊になり、盛土の中に入って行った。それを確認したレイスはにやりと笑い、どこかへ姿を消してしまった。
「レイス! 待て!」
「くっ……はぁ、はぁ!」
「樹さん! 大丈夫ですか?」
「ああ、私は大丈夫だ! しかし、先程の話ではここに眠るドラゴンが……」
ズズズズ……ゴゴゴゴゴ!!
地響きと共にその場が揺れ始めた。小高くなっている土がさらに盛り上がっていく。
「ボーンドラゴンとなって……復活する!」
マジか!
盛り上がった土を押しのけ現れたのは骨の姿をしたドラゴンだった。
「グォォォォォォォォォォ!」
「何で骨だけで動けるんだよ!」
「昊君、あれはネクロマンサーの力だ」
「ネクロマンサー?」
「『死霊使い』死体を操ったりすることもできるんだ」
「アイツ……あんなことができたのか」
「本来、禁忌の術だ。いくら魔導師様だとしても、これは許されない」
レイスの言う通り、ボーンドラゴンから感じる魔力は俺のものだが、生前ほどの強さがないのは分かる。うまくすれば倒せる。いや、それにしても――……。
「俺って、こんなにデカかったのか」
ミーティスより大きかったけど、たぶん、二十メートルは、なかったと思うんだよな。
「さすがドラゴンだね。かなり大きい。この山の頂は開けていて広いが狭く感じるね」
「樹さん、コレを下山させない方が良いってことですよね」
「うん、今から結界を張る。葉月は……よし、山に入っているみたいだね」
「葉月? 樹さん、何で山に入ったって分かるんですか?」
「君に渡している。アミュレットと同じようなものを私たちも持っている。これで緊急時、お互いの場所は把握しているんだ」
「そうだったんですね」
「さぁて! コイツをどうするかな! そうだ、昊君。今のうちに謝っておくな。申し訳ないが、君の前世の体をちょっと、壊すことになる」
「それは全然かまいません。むしろ、完全に壊してもらってもいいですよ」
「ははは、そうか?」
魔法の力で動く骨だけのドラゴンは、異様に軋む音をさせている。すると、この頂にある大木のほうへユラユラと歩き始めた。
「! だめだ! その木は傷つけさせない!」
俺は何故かその木に近づけさせまいと、魔弾でボーンドラゴンの注意をこちらに向けさせた。
「お? ナイスヒット! うん、思ったより動きが鈍い。昊君! 今から二人でたたみかける!」
「はい!」
あれ? でも何で、あの木を傷つけさせたくないんだっけ? いや、今は目の前の戦いに集中しないと……。
俺と樹さんは間髪入れず打撃を繰り返したが、ボーンドラゴンはなかなか倒れる様子がない。ただ、体力が消耗していくだけだった。
このままじゃ埒が明かない。
「樹さん! 少し離れていてください!」
「ん? よし、分かった!」
前世の俺の体だ。弱点の属性は分かっている。「光」と「水」の属性に弱い。今でも両方使うのは苦手だけど、まだ「水」のほうがマシだ。
俺はボーンドラゴンより高く飛び上がり、足に水属性の魔力を溜める。そこで体を捻り、頭頂部目がけ胴回し回転蹴りを叩きつけた。
「うおぉりゃぁぁぁぁ!」
ズドォォォォォォォン。
「おお! 足に魔力を! そんなこともできるようになったのか! すごいぞ昊君!」
ボーンドラゴンはバランスを崩し、体はバラバラになり倒れ込んだ。だが、なぜだかあまり手ごたえがない。
おかしい……弱点で確実に当てたのに。
そのうち、ボーンドラゴンはカタカタと震え出し、崩れた体がくっつき、また元の姿に戻ろうとしていた。
「おおっと! こうしちゃおれん!」
それを見た樹さんは、ボーンドラゴンの前に立ち、身構えると魔力を拳へと集中させる。
「我に力を貸す全精霊よ。我の拳に力を与えたまえ……我流・四界混合拳!!」
樹さんは体をのけぞらせ、その勢いで正拳を腹のあたり目がけ思いきり突き出した。
ガキィィィン!
「む? これは!」
ボーンドラゴンの周りになにかがあるのか、力と力のぶつかり合いで衝撃波が強風となって広がる。それと同時にボーンドラゴンから瘴気が発せられた。
「う……樹さん! そこから離れてください!」
「地の精霊よ。彼の者動きを封じよ。〈拘束〉」
樹さんは離れる間際、とっさにボーンドラゴンの体を縛り上げたが、口から火を噴き、その場で暴れ出していた。
「うーん、私の力ではすぐに引き裂かれてしまうだろうな。まぁ、時間稼ぎにはなるだろ」
俺と樹さんはボーンドラゴンの攻撃が届かないところで落ち合った。