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ドラゴンの転生  作者: 藤塲美宇
第六章 因縁と行方
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6

『立ち入り禁止』の看板を横目に過ぎ、草を掻き分け頂上を目指した。山の頂にある一本の大木の根元に古びた塚がある。そこに、白っぽいフード付きのマントを羽織っている若い男が立っていた。


「うーむ、ここに来ておるかと思ったのだが……」


「お前……まさか」


 男は俺の声に反応して、ゆっくりこちらに振り返る。月光のおかげで顔がよく見えた。


「少年は……この地の管理者か? おかしいのう、儂の記憶違いか? こんなに若い者が管理者だったかのう」


 俺は目の前にいるその男のことを知っている。この男は昔、俺からすべてを奪っていった。そして、俺をこの場所に封印した賢者――……。


「……レイス!」


「む? 儂の名を知っておるのか?」


 その顔、この声、憎悪が込み上げてくる「この男を殺してやりたい」と。


 やばい、抑えろ……今の俺は人間で、もう魔物ではないんだ。まずはレイスの目的を探らないとだ。もし目的が『ソール』の場合、ドラゴンの転生者を探しに来たのか? まだ、レイスに俺がソールだって、バレていないはず。


 レイスは俺の姿を凝視すると、穏やかに笑っていた顔が少し強張った。


「少年、お主……」


 何だ? まさか、俺がソールだってバレたのか?


「儂のファンか? いやー、参ったのう。儂ってそんなに有名人だったかのう」


 レイスは照れくさそうにして頭を搔いた。


「いや、違うから……」


 そう言えば、コイツこんな奴だったな。


「オホン……ところで、お主は知っておるか? ここにドラゴンが封印されておるのだ。そのドラゴンは兄弟でな、封印されているのは弟の――」


「何でそうなる! いつも言ってるだろ? 俺が兄で……あっ!」


 しまった。ついツッコんでしまった。

 レイスは俺をからかうためにわざと間違えて言っていた。最後のほうは言われても無視してたけど、久しぶりに聞いたら、つい答えてしまった。


 すると、レイスは俺のほうを指さし、小刻みに震え出した。


「少年、そのツッコミは、コウだな?」


「ちがっ! ソールだよ!」


 ああ、しまった、更に自白。


 レイスはフッと笑い俺のほうに近づいてきた。


「ははは! やはりソールか! こんなところで会えるとはのう。なるほど、本当に転生しておったとは」


「っ……」


 レイスは前世で会った頃と服装こそ違うが、あの時と変わらない姿。「不老不死」と聞いていたが、やはりそうだと証明している。


 ここに来た目的はなんだ? コウはどうした? 一緒じゃないのか?


「ふむ、何しに来た……という顔をしておるのう、ソール。この場所は、しばらくここには来ておらなんだが……随分とおもしろいことになっておるようだのう」


「おもしろいことなんて、何もないぞ?」


「そうかのう? この辺りで魔物が暴れていたようだが?」


 一瞬レイスは眼光が鋭くなり、俺を睨んだ。俺は思わずドキリとして、体が硬直する。そこへ樹さんが駆けつけてきてくれた。


「はぁ……はぁ……昊君! どうしたんだ……。え? あ、あなたは……魔導師レイス様!?」


 樹さんは息を整えながら、俺を庇うようにレイスの前に立った。


「うん? お主がここの管理者か?」


「レイス様、私はここの管理者の渡瀬樹と申します。なぜ、こちらに?」


「そうか、今は樹殿がここの管理者だったな。小さい頃に会って以来か」


「私のことを覚えていてくださったのですね。しかし、ずいぶん急に……どうなさったのですか?」


「ふむ、ここに立ち寄ったのは……探しものがあってな」


「は、はぁ……探しもの、ですか」


 樹さんは困惑気味だった。俺は樹さんの後ろから小さい声で話しかけた。


「あの、樹さん」


「うん? 何だい、昊君」


「やっぱり、目の前にいるレイスが『魔導師』……何ですね? 導師の創始者の」


「うん、そうだね。って、え? やっぱりって? 昊君、レイス様のことを何で知っているんだい?」


「レイスは……前世の俺をここに封印した男です」


「え? 今ここにいるレイス様が? 確か昊君の前世は何千年も前に……」


「はい」


「そうか、レイス様が……ということは、やはりレイス様が『不老不死』という噂は本当なのか?」


「そう……ですね」


 レイスは昔から謎が多いんだよな。なぜ「不老不死」なのかも知らないし。


「しかし樹殿、いったいどうなっておる? その者は魔物の転生者。儂は報告を受けておらんのだが? 魔物の転生者は分かり次第、報告することになっておるはず。なぜ報告を怠った?」


「私は昊君の希望をできるだけ叶えてやりたいと思いました。彼の前世は上位クラスの魔物。レイス様に報告すれば、いくら人間に対して危険な思考が無いと言っても、記憶と魔力は封印をすることになると思い、報告をしませんでした」


「樹殿、危ういかどうかの判断は儂がする。思考のことだけではない。過去の縁も気にするべきなのだ。現に、魔王がここに来たのではないか?」


「そ、それは……」


「何かあってからでは遅いのだ。樹殿」


「っ……」


「樹さん、俺がレイスと話します」


「昊君……」


 俺は樹さんより前に出てレイスを睨みつけた。だが、レイスはそんな俺に対して穏やかな表情を見せる。


「ソール……」


 俺はもの凄く腹が立った。俺のことで樹さんがレイスに責められているように思えた。


「レイス、樹さんを責めるな。ここの人たちはちゃんと俺のことを見てくれている。そもそも何で、封印の確認をしに来なかった」


「ふむ……なるほど、随分ここの者たちと親しくなったようだな。ここの者たちのおかげか? それとも……」


 レイスは腕を組み、ブツブツと言い始めた。


「おい、レイス、聞いてるのか?」


「昔は人と仲良くなろうとは思わなかったのにのう。随分と口が上手くなったか? 昔はもっと単純馬鹿であったのに……」


「レイス、聞こえてるぞ! お前、俺のことそんな風に思ってたのか! ほんと、ひでぇ奴だな!」


「む、この程度でキレておるようじゃあ、やはり昔と変わらんか?」


 レイスは顎に手をやりながら、諦めたように大きくため息を吐いた。


 まさかコイツ、ワザと俺を挑発しているのか?


 俺はレイスの挑発に乗るものかと、心の中で何度も「落ち着け」と復唱しながら大きく深呼吸をした。


「レイス、俺は人間になった。何もかも変わったんだ……もう、昔の様な力はない」


「しかし、ここへは魔王バアルが来たのであろう? お主を探していたのではないか?」


「……なぜ、バアルが俺を探してたって、知っている?」


「儂をなめてもらっては困る。前世でバアルはお主のことを気に入っておったしのう」


「レイス……今更、バアルを追ってきたわけじゃないんだろう? 何しに来た!」


「うむ、儂の相棒を探しに来たのだ。見てはおらぬか? ドラゴンなのに人間の少年の姿でいるのが好きで、魔物なのに人間の味方をして、そのせいで兄弟喧嘩をしたという変わった奴なのだが……」


「だから『コウ』だろ!? 何で一緒にいないのか、こっちが聞きたいわっ!」


「おお! お主、かつての兄弟を忘れていなかったか! そう『コウ』だ。あやつがおらんからどうにも調子が悪くてな。思うように体が動かんのだ。ここに来ただけで……ふぅ、息が上がってしまったわ」


「不老不死の癖に……」


「ん? 『昔と変わらず、若いじゃないか』だと? いやー、まいったのう。そんなに若く見えるかのう」


「言ってねーよ! そんなこと!」


「むむ、やっぱりキレやすいではないか! どこが変わったのだ?」


 あー、俺、コイツともう話したくない……。


「しかし、困った……。ここに居らんとなったら、いったいどこに……のう、ソール。心当たりはないか?」


「知るか! 用がないなら、さっさと失せろ! お前がいると無性にイライラするんだよ!」


「ふむ、やはり根底は魔物ということか? どれ、試してみるか……」


「何?」


 レイスは俺を見るなり、不敵な笑みを浮かべていた。

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