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ドラゴンの転生  作者: 藤塲美宇
第六章 因縁と行方
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5

 夕飯を作り終え、俺と葉月も施設の皆と一緒に食事をとった。半年くらい前まで、ここで暮らしていたことが、もう懐かしく思える。

 知っている顔ぶれに「昊くん、葉月ねーちゃんと結婚するの?」と突っ込まれたけど、忙しいフリをして無視してやった。そんな中、光輝だけ皆の輪に入ってこない。


「光輝? どうした?」


「別に……何でもない」


「まだ、皆と馴染めないのか?」


 やっぱり、皆のことを避けてる? それとも何か別の原因が?


「…………」


「もしかして、イジメにあっている、とか?」


 光輝は何度も顔を横に振り、俯いたまま何もしゃべらなくなってしまった。


「まぁ、無理に皆と遊べとは言わないが……」


「ぼく、そらにいちゃんと遊びたい……ダメ?」


 皆を避けているのは、やっぱり、魔力が暴走したからなんだろうな。でも、俺にだけ懐くのはどうしてなんだ?


「ん、分かった……今日はいっぱい遊ぶんだったな」


「うん」


 少し、寂しそうに笑う光輝を俺はそっと頭を撫でてやることしかできなかった。



 明日は学校が休みなので、俺だけ施設に泊まることになっていた。

 葉月は帰宅するので家まで送ろうとしたら、「光輝君のそばにいてあげて」と断られてしまった。


 その夜、光輝と約束通りいっぱい遊んだ。そのうち光輝はうとうとし始め、俺の横で寝てしまった。そこへ若葉園長が様子を見に来てくれた。


「あらあら、光輝くん本当に昊くんが来てくれて嬉しかったのね。やっぱり、昊くんに来てもらって良かったわ。こんなにぐっすり寝ているのは珍しいのよ。今日は光輝くんの部屋で一緒に寝てあげてくれる?」


「……園長、光輝が皆と馴染めないのは、また誰かを傷つけてしまうのではないかと、不安だからなんでしょうか?」


「そうね。でも不思議と昊くんの前では、子供らしい顔を見せるのよね」


 俺は起こさないようにそっと抱きあげ、光輝をベッドに寝かせてあげた。


「ふぅ……良かった。ぐっすり寝てる」


「ふふ、こうしてみると……二人は親子みたいね」


「園長……せめて、年の離れた兄弟にしてください」


「あら? そうね、ごめんね」



 久しぶりに施設での就寝。

 施設にいた頃は、消灯時間なんて守らず夜遅くまで起きていた。でも、今日は何だか眠い。葉月とあんなことがあって、眠れなくなるかと思ったが、そんなことは無かった。


 横にいる光輝の顔をみると、安心したようにスヤスヤと寝ている。


 光輝は、俺の前では普通に甘えてくる子供。施設に来てから、魔力が暴走したなんてことは聞いていない。


 俺は隣でぐっすり寝ている光輝を抱きしめ、少しでも不安がなくなることを祈りながら眠りについた。 



 その夜、懐かしい夢を見た。


「いつの間にかソールは変わってしまったね」


 弟のコウと喧嘩になって、別れ際そんなことを言われた。


 コウは稀に見る真っ白いドラゴンだった。性格は俺とは正反対、純粋で気弱。魔物、人間、関係なく、誰に対してもやさしく接していた。だけど、魔物の中で生き延びるには、それだと難しかった。

 強くなるにはいろいろな方法がある。その中でも、魔力を強くするのが一番手っ取り早かった。特に魔力を持った人間を食べれば、かなり強くなる。俺は強さを求め、人間の住処を見つけては攻撃した。大抵、集落に一人は魔力の強い者はいる。そいつを誘き出すために、弱い女子供を真っ先に襲っていた。

 だが、コウはそれが気に食わなかったんだろう。俺が強くなるにつれて、コウとは衝突することが増えていった。

 強くなりたい。

 そう思うようになったのは、子供の頃、コウが他の魔物に、食べられそうになったからだった。


 俺は変わってない! 変わったのはお前だろう?


「僕はあの人間に、ついて行くことにしたよ。あの人は魔物と人間の共存を望んでいる」


 そんなこと、できない! 無理に決まっている! アイツはお前を騙しているんだ!


「無理かもしれない。でも、ソール。君のやっていることは……もっと、許せないんだ」


 自分のもとから去っていくコウを、俺は引き止めなかった。怒りで冷静になれなかったのもあるが、コウと共に行くことにしたのがアイツだということが許せなかった。


 俺はただ、コウを守りたかっただけなのに……。



 その刹那、目が覚めた。

 辺りが暗い。一瞬、ここがどこだか分からなかった。


 ああ、そうだ。施設に泊まったんだっけ。


 壁にかかっている時計を見ると、「一時」を回っていた。 


 隣を見ると、一緒に寝ているはずの光輝の姿がない。


「? 光輝?」


 布団の上に手をやると、まだ温かい。


 トイレにでも行ったのか? 


 でも、なぜか胸騒ぎがする。

 その辺りいるはずと思い、部屋を出た。すぐ隣の居間を覗くと大きな窓の近くで、光輝が一人立っている。居間は光が注がれていて、夜中にしては明るい。その日は満月だった。


「光輝? 良かった! こんなところにいたのか」


 しかし、光輝は話しかけても反応がなく、様子がおかしい。居間の窓から、渡瀬家の近くにある山が見える。光輝の目線の先には、あの山があった。


「光輝? どうしたんだ?」


〈あの人が……来たぞ〉


「え? 今なんて?」


 何故か光輝はあの山を見ながら、古代のあの言葉を話した。


 聞き違い? いや、今確かに……。


 その瞬間、何か山のほうから嫌な気配を感じた。


「何だ? この感じ……まさか」


 光輝のほうに視線を戻すと、気を失い倒れかけていた。


「!? 光輝?」


 俺はすぐに抱き留め、光輝の顔を確認する。呼吸も正常、血色が悪いわけでもない。普通に寝ているように見える。

 すると、俺達の声を聞きつけてきたのか若葉園長が駆け寄ってきた。


「昊くん? 何かあった……え!? 光輝くん? どうしたの?」


「園長、光輝はたぶん、寝ているだけだと思います……光輝のこと、頼めますか?」


「それは構わないけど……昊くん? どこに行くの? 昊くん!」


 俺は若葉園長に光輝を預けると、施設を飛び出し、山に向かって走り出した。


 まさか、アイツが……?

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