表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドラゴンの転生  作者: 藤塲美宇
第六章 因縁と行方
52/76

4

「そらにいちゃん……一緒に遊んでくれないの?」


「ごめん、今日は施設ここの手伝いで来たんだ。でも、ご飯を食べたら遊べるよ。今日は施設ここに泊まっていくから」


「え? 本当!? やったぁ!」


「だから、今は静かに待ってるんだぞ?」


「うん! わかった!」


 光輝を居間に残し、俺は調理室に向かった。そこから、女性二人の楽しそうな声が聞こえてくる。


「今日は、葉月ちゃんたちが来てくれたから助かるわぁ」


「でも、ほとんど花井さんがやってくれてるから、私、やることないですよ」


 俺が調理室を覗くと、調理師の花井さんと目が合った。


「あらぁ、昊君。久しぶりねぇ」


「お久しぶりです。花井さん」


 花井さんは施設の職員の中では年長者だ。俺も小さい頃からお世話になっている。いつも作ってくれるご飯もおいしいが、おやつも絶品で取り合いになるくらいだった。


「二人とも今日は来てくれてありがとう。みんなの面倒を見てもらうだけでも、すっごく助かるんだけど、食事の手伝いまでさせちゃって、ごめんねぇ」


「いえ、ここはいつも人手が足りてないですからね」


 俺が施設にいたときから人員不足で、葉月はたまに「手伝ってほしい」と声をかけられていた。葉月は子供たちの面倒が好きなようで、よく手伝いに来ていた。だが、今回は光輝の様子を見てほしいと若葉園長に頼まれ、俺も呼ばれることになった。


「そう言えば昊君。渡瀬さんのお家でも料理しているんだってぇ?」


「ええ、まぁ……してますね」


「じゃあ、今度、調理も手伝ってもらおうかしらねぇ」


「え? ああ、はぁ……」


 花井さんは普段はふんわりとした口調でニコニコしているが、調理中は人が変わったようになる。花井さんと調理するのは少し怖いので、正直遠慮したい。


 俺と葉月は花井さんに指示されて、副菜をお皿に盛り付ける手伝いをすることになった。葉月は何回か手伝いをしに来ているだけあって、手際がいい。


「昊、光輝君は?」


「ああ、居間で待ってる」


「そっか……」


 心なしか葉月の笑い方がぎこちない。やっぱり、光輝に「キライ」って言われたのがショックだったのだろうか。


「葉月、さっきの……大丈夫か?」


「え? ああ、ヘーキヘーキ!」


「でも、葉月は昔から子供……好きだろ?」


「う……うん。でも、子供に好かれないことなんてよくあることだよ。誰かさんはもっと酷かったしね。そのおかげで鍛えられましたから」


「それって……俺か?」


「そっ! 光輝君って何となく、小さい頃の昊を思い出すのよね」


「え? 何で?」


「何か、皆を遠ざけてるっていうか……近寄らせない雰囲気が似てる」


「え? 光輝が? 俺にはそんな雰囲気は……


「もしかしたら光輝君、昊のこと自分と似てるって、感じたんじゃない? だから昊に懐いてるのかもね。最も光輝君のほうが可愛げがあるけど」


「ふふ、確かにそうねぇ。光輝君はまだお話ししてくれるものねぇ。昊君は施設に来た当初、話しかけてもあまり反応がなくて、みんな心配してたのよぉ? 無表情で顔色も悪かったしぃ。でも、昊君は葉月ちゃんが毎日声かけてくれたおかげか、だんだん話すようになって、顔色もよくなっていったのよねぇ」


「花井さんも覚えていますか? そうでしたよね? 昊って私が話しかけると、すっっっごい! 不機嫌になったし」


「あれは! 葉月がしつこく、隠し事がないか聞いてきたからだろ?」


「それは聞くわよ。孤立させたくなかったんだもん。最初に会った時の昊の顔、今でも覚えているわ。もの凄く暗くて……今にも何か……してしまうんじゃないかと思ったし」


「え? 俺が?」


「そうよ? 異能の気配のこともあったけど、それだけじゃなくて……その心配があったから、ずっと話しかけてたんだから」


「そ、そうだったのか……」


「だからね。もし、光輝君が昊に懐いているんだったら、できるだけ一緒にいてあげなよ。頼れる人が近くにいると違うでしょ? その辺は一番、昊が分かるんじゃない?」


「……うん、まぁ」


 確かに、この施設に来たとき、両親がいなくなったのと前世の記憶が蘇ってきたのもあって、何もかもが不安で嫌になっていた。そんな中、俺が不機嫌オーラ全開で無視したりしたにもかかわらず、葉月はずっと話しかけてきた。それも、何度も。普通だったら途中で放置されて、俺は孤立していたと思う。


「今の俺がこうしていられてるのは――」

 葉月のおかげ……。


 その言葉を口にするのが恥ずかしくなって、思わず口を紡いでしまった。


「昊? どうしたの?」


「べ、別に!」


「何か、顔、赤くない? あ、さっき雨にうたれたから? もしかして熱があるんじゃない?」


「ち、違う! これは、その……大丈夫だ!」


 やばい、なんか顔辺りがアツイ。


「ほんとに? 無理してない?」


「本当に大丈夫だ! それより早く、仕上げよう! 皆が待ってる」


「う、うーん、そうね。それじゃ、早くお夕飯の支度、済ませちゃいましょ!」


 ふと気付くと、花井さんが温かい目で俺たちを見守っていた。


「花井さん? 何で……そんな?」


「いいわねぇ。うふふ。こういうの、しばらくなかったから、うふふ」


「オホン! 花井さん、あとはメインの『目玉焼き乗せハンバーグ』を盛り付けるだけですよ」


「あ、はぁい。うふふ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ