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ドラゴンの転生  作者: 藤塲美宇
第六章 因縁と行方
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 学校ではいつも、俺の前の席に座る大神透真(おおがみとうま)と教室で昼食をとる。弁当箱を机の上に出し、買っておいたペットボトルのお茶に口をつけたとき、大神が話しかけてきた。


「なぁ、真空寺」


「ん?」


「お前、『渡瀬葉月』と同棲してるって本当か?」


 大神のその発言で教室がしんと静まり返った。それと同時に俺は思わずむせてしまった。


「ゴホッ……大神……どっから、それ」


「あん? 皆噂してるぞ? 地元の高校なんて、すぐ噂が広まるだろ?」


 クラスの大半が、中学からの顔馴染み。学力が普通の者は大抵この高校を選んでいた。葉月は違う学校に通っているが、中学まで一緒だったから知っている者も多い。そんな中で言われた「同棲」という言葉にみんなが反応していた。中にはコソコソ話しだす者もいる。あまりに静かなので、俺は大神にだけ聞こえるように小さい声で答えた。


「同棲じゃなくて、同居」


「同じようなもんだろ? でも何で、一緒に住んでるんだ?」


「意味が違うだろ! 葉づ……渡瀬の家業を手伝うことになったんだよ」


「え? それって……ゆくゆくは婿入り?」


「違う! 渡瀬ん()の仕事、知ってるだろ? その修行中なんだよ」


「修行? 渡瀬って……あ、アレだろ? 『導師』! あれって……確か異能だっけ? それがないとできないヤツじゃん! えー……お前、マジ?」


「まぁ……一応?」


「はへぇ……真空寺、そうだったのか」


 大神は間抜けな顔をして俺を見てきた。


「……何だ? 大神。俺が異能持ちなのが気に入らないのか?」


「違う、違う! むしろ羨ましい! 『導師』って、そういう能力ないとできねーじゃん?」


「まぁ……な」


 大神は意外と柔軟な考え方をしてくれているので助かっている。異能者は除け者扱いされることが多い。力の使い方を間違えれば被害が大きくなるからだ。


 以前、樹さんに自分が「導師」だということを地域によってはあまり言わないほうが良いと聞いた。更に、俺は施設育ちで小さい頃から好奇の目に晒されてきた。そのせいで、嫌な思いもしてきたが、大神は全くそれがなかった。


「マジかぁ! じゃあ、将来確定? まさか真空寺にそんな才能があったとはな。あー……それでかぁ、なんか最近、雰囲気が違うって、思ったんだよな」


「雰囲気?」


「うん、なんかムスッとしてたのが、なくなったって言うか……そっか、異能のことがあったからかぁ。それ隠してたから、いつもムスッとしてたんだろ?」


 大神にまで言われるとは……。俺ってそんなにムスっとしていたのかな?


「それも、最近何だか、うまそうな弁当持ってきてるし!」


「まぁ、確かに弁当持ちにはなったかな?」


「だよな! 施設のときは『自分で作るの面倒』とか言って、買ってきてたもんな」


「そうだっけ?」


「そうだろ? んで? 今日の弁当は?」


「何で大神に見せなきゃいけないんだよ!」


「ええー? いーじゃーん!」


 弁当箱のふたに手をかけると、大神は身を乗り出して覗いてきた。


 誰かに作ってもらった弁当って、結構恥ずかしいんだな……。


 そんなことを考えながら、弁当箱のふたをずらしていくと一瞬、衝撃的なものが見えた。


 え? 今見えたの……見間違え?


 見えたソレが信じられなくて、ずらしていた蓋をすぐに戻してしまった。


「おい? どうした? はっはーん、さてはご飯、詰め忘れてたとか?」


「い、いや……違うんだ」


「なんだよ。見せろよぉ」


「あ――」


 大神は半ば強引に弁当箱の蓋を奪った。すると、そこには可愛らしいアニメのキャラクターがご飯やおかずなどで形作られている。

 俺と大神はそれを見るなり、しばらく固まってしまった。


「なぁ、真空寺……これ、キャラ弁? オレ、初めて見た。今日の弁当……随分力作だな。なぁ……これって渡瀬葉月が作ってくれたの?」


「いや、今日の当番は、いず……オバさん……だよ」


 泉さん、最近何かの(かた)を買っていたのはコレのためだったんですね。今朝、お弁当を渡されるとき、嫌に嬉しそうだったもんな。さすがの大神も引いてるな……。


「アハハ! うわ! まじ? すげぇな! これって、最近流行りのアニメキャラ……」


 うう、泉さん……正直、これは男子高生にきついです。


「このキャラは絶対お前食えよな! お? この卵焼きうまそう! 頂き!」


「あー……それは」


 キャラクターの形をしたご飯の隣にあった卵焼きを手でつかむと、大神は一口でパクリと食べた。


「うめぇ! 味付け最っ高! 渡瀬んのオバさんって、料理うめぇんだな!」


「あー……うん。そ、だな」


 大神は幸せそうな顔をしている。この卵焼きは俺が作ったのだが、そのことは言わないでおくことにした。


「でも真空寺……お前、いいなぁ」


「何が?」


「えー? だって、将来の仕事も結婚も、決定だろ?」


「いや、どっちも決まってねぇよ」


「ええ? そうなの? それに、一緒に暮らしてると、ハプニングがあるだろ?」


「ハプニング?」


「うん。例えば……お風呂でバッタリ! キャー! とか」


「無い! そう言うのは結構しっかりしてあるんだよ。お風呂の順番は決まってるし、『使用中』の掛札とかもあるし」


「え? じゃあ、今までハプニング無し?」


「無し」


「なぁんだよー! 思春期の男子に夢持たせろよー!」


「現実なんて、そんなもんだって」


「えー、覗いたりしねぇの? 渡瀬……結構、いいじゃん? 胸ありそうだし」


「おまっ……葉月のことそう言う目で見てたのか?」


「お? おお? なぁんだよ! 冗談だよ! 渡瀬のことはこれっぽっちも思ってません! だから安心しろ!」


 大神はケラケラ笑いながら、俺の肩をポンポンと軽く叩いてきた。


「あ、安心て……何がだよ」


 俺はこの大神の明るい笑い声に、何となく、イラついた。

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