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「しかし葉月、闇は確かに強力な魔法のかわりに魔力の消費も激しくなると聞く。今のままでは、たぶん使いこなすのは難しいぞ?」
「魔力の向上にミーティス……竜王様が修行を見てくれると言ってくれたの。だから週末は行ってこようかと思ってる」
「ほほう、竜王様が自ら見てくれると?」
「それでね。あの場所は瘴気がかなり濃いの。できれば浄化ができる弥生を連れて行きたいんだけど……弥生、一緒に来てくれない?」
「えー? 週末ー? 俺にもいろいろと都合が……」
「そうなの? 弥生にもミーティスさんに、会ってほしかったんだけどな」
「ミーティスさん?」
「竜王様よ? とてもかわいらしい方だったわ」
「葉月……あれって『かわいらしい』って言うのか?」
「え? 言うでしょう? 昊は『綺麗』って褒めてたじゃない?」
「うん、まぁ」
何だろう? 葉月のこの、とげのある言い方は……。
「え? ドラゴンなのに『綺麗』で『かわいい』ってどういう事?」
「結構純粋な感じ? って、いうのかな? 竜王になった経緯も、なんか昊に騙されてなったみたいだし」
「まぁ、確かに、結果的に騙したことになったけど」
「え? ドラゴンって、もっとこう……威厳があるというか、怖いイメージがあるんだけど?」
「弥生。まず、ここに前世がドラゴンだっていう昊がいるのよ? 威厳がある?」
「え? ない」
「でしょう?」
「おい! ひでぇーな!」
「思ったより、気さくな方よ? ミーティスさんも『弥生も、良ければ』って言ってたし」
「へぇーちょっと会って見たくなってきた」
「俺、い……威厳が、ない?」
前世ではそれなりに怖がられて威厳があると思っていただけに、俺はその言葉にショックを受けていた。
葉月は闇の精霊との契約を無事に終えた。
俺から闇の精霊が離れるときに、何となく『これで、アイツも安心するだろう』という声が聞こえた気がする。葉月に後で精霊のことを聞いたら、凄く穏やかな精霊だと言っていた。
「昊君。体調の変化とかはないかい?」
「はい、あまり感じません」
「よし! じゃあ、私と手合わせしよう! 魔力を使って問題ないか見ないとな!」
「えー……」
樹さんは目を輝かせて、気合十分、掌に拳を打ち付けていた。何となく俺はそれが嫌だった。
「樹さん? それは後! まずはここを片づけないとでしょ! 昊くんだって引いてるじゃない!」
「えー? 昊君の体調も見ないとだろう?」
「い・ま・は、片づけ! ね?」
「ううー」
泉さんにそう言われて、樹さんは引きずられるように連れていかれた。俺は正直、心の中で泉さんに感謝した。
その横で、葉月は使えるようになったことを噛み締めていた。
「はぁ、自ら望んではいたけど、本当に使えるようになったんだ」
「葉月……そんなにも、うれしいのか?」
「うん。これで少し、近づけたから」
「何に?」
「昊は気にしないでいいよ」
気にしないでって……気になる。もしかして、葉月は俺と一緒に、戦うために闇の精霊と契約したのか?
「なぁ、葉月……もし、バアルがもう一度俺のところに来たら、一緒に戦ってくれるのか?」
「うん、もちろん! 昊にだけ、戦わせないわよ。私は昊も皆も、守りたいの」
笑顔で答える葉月に「どうして、そこまでするんだ?」と、言いかけたが、聞いても答えてくれないだろう、と思って辞めた。
それと同時にミーティスが言っていたことを思い出した。
『今、義兄様の周りにいる者たちは、良き者たちが多いようじゃな』
ドラゴンだった時に比べたら確かに恵まれているな。俺のことを助けてくれる人たちがこんなにいるなんて……。
葉月が強くなろうと闇の精霊を求めたのなら、俺も皆を守れるくらい強くなろうと心に決めた。
「うん、そうか……なら、俺も皆を守るよ」
すると、葉月は何故か、ものすごく珍しいものを見たような表情をして固まっていた。
「え? 昊……笑……った?」
「……え?」
「わぁ! 昊が笑ったの、初めて見た!」
「え? 何、驚いているんだ? 笑ってただろ? 今までだって!」
「え? 何? 昊笑ったの? オレも見たい!」
「弥生まで……今までも笑ってたって! 皆が見てなかっただけだろ?」
「そんなことないわよ。私、見たことないわよ?」
「オレもー!」
「んな、馬鹿な」
「知らなかった? 昊ってずっと仏頂面なのよ?」
そう言えば昔、同じようなこと言われたな。
「えー? 昊くん笑ったの? わたしも見たぁい!」
「い、泉さんまで……」
「ははは、まぁ、誰が最初に見ることになるかと思ってたけど、やっぱり葉月だったか」
「え? 樹さんも?」
その後、皆に顔をもみくちゃにされた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます! 第五章完です。
掲載がかなり遅いの作品にも関わらず、読んでいただき感謝しております。この作品も折り返しておりますので、あと少しお付き合いくださいませ。
どうぞ、これからもよろしくお願いいたします。