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「ソラ君。そろそろお暇しましょう。竜王様に瘴気を薄くして頂いているとはいえ、長居するのは危険です」
「そうだな。今度来るときは、弥生を連れてこよう」
「浄化者じゃな。うむ、その者がおれば安心じゃ」
「ミーティスさん。いろいろ教えて頂きありがとうございました」
「うむ。それにしても、今、義兄様の周りにいる者たちは、良き者たちが多いようじゃな。一人を除いて」
「ん? 竜王様、『一人を除いて』って、誰のことです?」
「悪魔! お主のことじゃ!」
「あははは! ボクですか? ボクも今は、いい人、ですよ?」
「信じられんわ! ああ、それと義兄様」
「ん? 何だ? ミーティス」
「もしかしたら義兄様次第で、この世界が大きく変わるかもしない、ということを肝に銘じておいてほしい」
「何だ? それ」
「まぁ、気のせいならば、良いのじゃがな」
ミーティスは何か気にかかるのか、少し心配そうに笑った。
「ん、わかった。それじゃあ、そろそろ行くよ。アクアと会ったらまた来る」
「うむ。ああそうじゃ。葉月、少し話がしたい。こちらへ」
「? はい」
「義兄様たちは、扉の前で待て、すぐ終わる」
「? 何で俺達は聞いちゃダメなんだ?」
「良いから行け! 女同士で話があるのじゃ」
「……分かった」
俺と中川は扉の前で葉月たちの様子を見ていた。
「いったい何を話しているのでしょうね?」
「さぁな」
俺は気づかれないように二人の様子を伺った。すると、何故か葉月は驚いた顔をしたと思ったら、赤面していた。しばらくすると表情は硬くなり、ミーティスの話を食い入るように聞いていた。
それから葉月は、ミーティスと別れる時も、一言もしゃべらなかった。
無事に渡瀬家の修練場に着いた時、どうしても気になって葉月に聞いてみた。
「葉月……ミーティスと何を話していたんだ?」
「……これからの事」
「これから?」
「私がもし、闇属性が使えるようになってもバアルに歯が立たないって、言われたの」
「ミーティス……そんなことを言ってたのか」
「それでね。ミーティスさんが、必要ならば修行を見てくれるって、言ってくれたの。もし、闇属性を使えるようになったら、行こうかなって思ってる」
「はぁ?」
「上位クラスの魔物と手合わせするのは、いい経験になるだろうからって……このままじゃ、足手まといになっちゃうし」
「いや、待て! 葉月はそもそも、バアルと戦う必要なんてないだろ?」
「何で?」
「これは俺の問題で、葉月たちには関係ないだろ? それに、これ以上、強くならなくていいんだよ」
「な、何よ、それ!?」
「ちょっと、ソラ君。それは酷いです」
「ああ?」
中川は、俺と葉月の間に立ち、大きくため息をついた。
「はぁ……ハヅキさんがどうして、強くなりたいのか、もう少し考えてやってください」
「どういう意味だ?」
「ですから……」
「と、とにかく! 私は決めた! 週末だけ行くことにする! それで……テオさん! また、あそこに連れて行ってもらえませんか? 『瞬間移動』じゃないと、あそこに行くのは難しいので! お願いします!」
「うーん……まぁ、連れ行く人が必要になりますよねぇ。でも、対価が必要なんですよねぇ」
「中川、対価ってなんだよ! さっきは、そんなこと言ってなかっただろ?」
「ボク、一応、悪魔なので……。先程の対価は『親子丼』ですかね」
「うーん……それなら、テオさん。『その日のおいしいご飯』で、どうですか?」
「のった!」
「お、おい! 中川! まさか、本当に連れて行く気か? ダメだろ? 魔力を大量に消費するって、言ってたじゃないか!」
「ああ、それなんですが、意外と行ける気がしてきました。ですので、ソラ君の魔力は必要なさそうです。ソラ君は、ここでお留守番していて、大丈夫ですよ。ハヅキさん! ボクはハヅキさんの修行にちゃんとお付き合いしますからね!」
中川は俺に嫌味ったらしく言ってきた。
「テオさん! ありがとうございます!」
葉月と中川はがっちり手を握り合った。
俺は何となく二人が仲良く手を握り合っているのと、葉月が中川を頼ったことに少し苛ついた。