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「ミーティス! 吐け! 何を知ってるんだ!」
「うー……」
そこへ、葉月がミーティスを庇うように割って入ってきた。
「昊、何か事情があるのかもしれないでしょ? ミーティスさんがかわいそうじゃない!」
「葉月……惑わされるな。この姿は仮の姿だぞ?」
「そんなの分かってるわよ! それでもかわいそうだって言ってるの!」
「葉月よ……お主は優しいのじゃな。どれ、お主はわらわに、何か聞きたいことはないか?」
ミーティス……話、逸らしやがった。
「え? でも……」
「ミーティスの知識量はすごいぞ。だから、俺はここに来たかったようなもんだ」
「そう……なのね」
「わらわは現在の世の知識も持っておる。この地を通じて知識を蓄えておるのじゃ。ある程度のことは分かっておるぞ?」
「聞いてもいいのですか?」
「これも何かの縁じゃ。申してみよ」
「闇の……私は、闇の精霊と契約したいのですが、どこに行けばいいのか……」
「ほほう。闇とな?」
「はい」
「それならば、簡単じゃ。ここにおるぞ? 闇の精霊なら」
「え? ここ? ですか?」
まさか、本当にふよふよ浮いているのか?
「うむ、義兄様の中に」
「え? 俺?」
「気づかないのも無理はない。義兄様は元々闇の力の持ち主じゃ。闇属性の精霊も居心地がよかったのであろう。前任者が亡くなった時に、義兄様の魔力の中に隠れたのじゃな」
「前任者? 前任者って誰だったんですか?」
「義兄様……つまり、『真空寺昊』の父親じゃ」
「ええ? 昊のお父さんが?」
「……父さん?」
「ふむ、なるほど、それで……じゃったのか。『真空寺昊』の家系はなんとも面白い輩がおったのじゃな。魔物と契約なんぞ……よくやったな」
「ミーティス……やっぱり、分かるのか?」
「義兄様の魔物の力、その人の体で使えておるのはその先祖のおかげじゃ。だが、子の中にはその力に耐えきれず早くして死んだ者もおるようじゃ」
「そうだったのか」
「葉月、お主が使えるようになるかは分からぬが、闇は少し癖があるが良いのか?」
「はい」
「ふむ。継承の儀式を執り行える者は近くにおるのか?」
「はい。両親ができます」
「そうか。しかし、光なら分かるが闇を欲するとは珍しいな」
「そ、そうですか?」
「……ふむ」
ミーティスは、葉月のまごまごした動きを見て、俺を今度は睨んできた。
「な、なんだよ」
「やはり、罪深き男よ」
「さっきから、何なんだ! 葉月の闇属性取得が、俺と何の関係があるんだ?」
「義兄様は……」
「何だよ」
「何でもないわっ!」
ミーティスは、つんとした顔をして腕を組んだ。
「はぁ……それにしてもミーティス。何で人間の姿が……十四、五歳か? 俺より年下って、どういうことだよ。それも、その服!」
どこかのお嬢様学校の制服に似ている。それが容姿と相まって、よく似合っていた。
「え? ああ、この姿と服はコウから聞いたのじゃ。『人間と会うときは子供の姿のほうが良い』って、言っておったのでな。しかし、近頃の人間はドレスを着ないのじゃな。よくわからないから『がっこーのせーふく』というのを模してみた」
「じゃあ、全部、コウの入れ知恵か?」
「そうじゃ? コウはこの姿は『かわいい』と、言ってくれていたぞ? どうじゃ?」
ミーティスは、くるりと回って俺に見せてきた。ダークブラウンの長いストレートの髪がさらりと舞う。
「はぁ……アイツ、何を教えてるんだ? ミーティスはドラゴンの姿でも、十分綺麗なのに」
すると、何故か皆、口をポカンとあけて、俺を凝視した。
「に、義兄様? わ、わらわを褒めても何も出んぞ?」
ミーティスはチラチラ葉月を見ている。
「ソラ君……そういうところ、ありますよね」
中川は、葉月を慰めるようにため息をついた。
「え? 昊の好みって……そっかぁ、そうなんだ」
葉月は何故か、がっかりした表情を浮かべた。
「え? 綺麗だろ?」
「……うん。そーだねー」
葉月は遠い目をし、感情のない返事をしてきた。
「しかし、ドラゴンの姿は少々、動きづらい! 大きいからな! 寝るときは人の姿のほうが楽じゃ! そう思わぬか? 義兄様」
「え? どうだったかな」
皆が何故、葉月に気を遣っているのか、俺には分からなかった。