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「で? 義兄様。知恵を借りたいとは、どのようなことか?」
「俺は人間と魔物の魔力をもっている。力が暴走しやすいのは人間の体だからなのか?」
「そんなことはない。ただ、義兄様には封印が施されておるから、そのせいじゃろう」
「俺に封印?」
「属性のバランスが悪くなっておる。魔物の魔力がそのせいで暴走しやすくなったのじゃろう」
「属性のバランス?」
「ふむ、本来なら得手不得手関わらず、魔力のバランスは整えられている。しかし、今、義兄様は一つの属性を完全に封印されておるので、そのバランスがおかしくなってしまったのじゃ。それで、なのじゃな? 義兄様、今は火の属性が使えんのではないか?」
「ああ、よくわかったな」
「義兄様は火属性が得意じゃったはずなのに、先程のわらわとの戦いで、全く火を使ってなかったからな。火の属性が封印されておるから、その力を補おうとして体に負荷がかかっておるのじゃ。それが人間の魔力ならまだしも、魔物の魔力となるとかなりの負担になっておったと思うぞ?」
「それで、人間の体が耐えきれなくなって暴走しているのか? でも、封印? そんなの、いつかけられたものだ?」
「え? ああ、うーん……五歳……くらい、じゃな」
ミーティスはあからさまに俺から目を逸らした。
「ミーティス……お前、何か知っているのか?」
「な、なな、何を知っておるというのじゃ?」
「俺の力を封印した奴の事、知ってるんだろ?」
「し、知らぬ! わらわは知らぬ!」
必死に首を振り、否定しているミーティスは、明らかに何かを隠しているようだった。
しかし五歳と言うと火事にあった頃だ。バアルではないだろうな。じゃあ、いったい……。
「ふーん、今は問いつめても言わないだろうから、これ以上は聞かないけど……あとで覚えてろよ。で? その封印はどうやって解くんだ?」
「うー……本当に解きたいのか?」
「? ああ、それはもちろん! バアルも動いている。またいつ来るか分からないからな」
「……やはり、バアルが動いたのか。本当に……解いていいものか」
「ミーティス、いったい何を隠してる?」
「わらわは……隠してなどおらぬ! 封印を施した者が誰で、なんのために封印したのかなんて、わらわは知らぬ!」
「ミーティス……それは、自分は知ってるって、言っているようなもんだぞ?」
「うー? ど、どうしても封印を解きたいというなら……と、説き方を教えてやろう! じゃが、その前にどうして魔力をコントロールしたいと思ったのじゃ?」
「魔力を使っただけで、見ろ! こうやって魔物化する」
俺は魔力で風の手刀を作って腕がドラゴンの皮膚に変わっていくところを見せた。
「ふむ、なるほど。これは無意識なのじゃな?」
「それに使っても使わなくても、魔力が暴走してしまうんだ。このままだと、いつか誰かを傷つけてしまうんじゃないかって……」
「…………」
「自分のせいで誰かが傷つくのは見たくない。俺は今まで、周りの人に守られてきた。でもそのせいで、傷つけられた。もう嫌なんだ! 俺は守られるより、守りたい。今居るあの場所が、俺にとって、大切なんだ!」
ミーティスはしばらく黙っていた。小さく頷くと大きくため息をついた。
「分かった。なら、教えよう。でも、良いのじゃな? 封印した者が……何故そうしなければ、いけなかったのか、そこに理由があったとしても?」
「何を迷うことがある?」
「しかし、一つ断っておくが、もし、封印を解いたとしても魔物化は防げぬぞ?」
「え? そうなのか?」
「ただ、自分の意思でドラゴンの姿になれるようになる。その腕のように勝手に魔物化することはなくなるじゃろう」
「魔力を無理に使わなくても暴走することもなくなるんだよな?」
「うーん、どうじゃろうな。それは義兄様次第じゃろう。義兄様が冷静さを失わなかったら暴走しないで済むとは思うのじゃが……昔から義兄様は血の気が多いから……はっ!」
「うーん、確かに……そうだな」
ミーティスの言うとおりだった。前世では嫌なことがあるとすぐブチギレていた。
「少し、これからは冷静に……ん? 何でそんなに震えているんだ? ミーティス?」
ミーティスはぶるぶる震えながら、口元を手で抑えていた。
「いや、何でもない。余計なことを言うところじゃった」
「ん? 余計なこと?」
「何でもないぞ? ふ、封印の解き方! 封印を解くには、他のドラゴンの力が必要なのじゃ」
「え? 他のって?」
「義兄様、わらわ……アクア姉様」
「え? アクア?」
「それと……いや、なんでもない」
「まさか……コウも……か」
ミーティスは下を向いたまま、黙ってしまった。すると、中川と葉月が俺の後ろで、コソコソ話し始めた。
「葉月さん、『コウ』って誰だかご存じですか?」
「確か昊の前世の弟、だったかな」
「へー……ソラ君の……へー」
「ああ、コウのほうは……わらわがなんとかしよう! 義兄様はアクア姉様を探してほしい」
「え? でもコウとは喧嘩別れしたんだ。協力するかな?」
「だ、大丈夫じゃ! ちょっと前に話したら、義兄様の事を凄く心配していたのじゃからな」
「? 心配? 俺はずっと封印されていたのに?」
「ん? んーそうなのじゃ! 封印されていて、苦しくないのかなぁ……とか言っておったぞ?」
ミーティスは明らかに目が泳いでいた。
なんか、あやしい。
「そ、それより! アクア姉様のことを探して欲しい!」
「アクアねぇ? 確か、俺と同様封印されていたような……」
「うむ。じゃが、わらわも姉様が今どうしているのか、わ、分からぬのじゃ。しかし、解くにはアクア姉様の持つ『ドラゴンの涙』がどうしても、必要なのじゃ。む、無理なら諦めるしかないがな!」
弱った。アクアの封印された場所なんて知らないぞ。でも、もしかしたら……。
「アクア……人間に転生して……?」
「え? もしかして、義兄様も人間に転生した姉様と夢で……あっ」
ん?
ミーティスは、また「しまった」という顔をして、口を両手で塞いだ。
「ミーティス。やっぱり何か隠しているな?」
ミーティスは口を塞いだまま、首を何度も降った。