表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドラゴンの転生  作者: 藤塲美宇
第五章 竜王と封印
43/76

 俺は着地をしてすぐ、ミーティスに駆け寄った。


「悪い! 思いっきりやった!」


「う……昊、と言ったか……お主からソール義兄様(にいさま)の魔力を感じた」


 ミーティスは体を起こすと、俺をじっと見てきた。


 戦意は感じない。話を聞いてくれそうだ。


「うう、ソール義兄様……まさか本当に人間になっておるなんて」


「ミーティス、大丈夫か?」


「うう……うー」


「ミーティス?」


 ミーティスは痛そうにして動かなくなった。


 そんなに強く……やった、な。


 俺はミーティスがどこかに大怪我をしているのではないかと、焦り始めた。すると、ミーティスはすごく苦しそうな声をあげると、ドラゴンの姿から十四、五歳の人間の美少女へと姿を変え、俺に飛びついて来た。


「ソール義兄様! お会いしたかったです!」


「ミーティス! おい! くっつくな! それも、滅茶苦茶元気じゃねーか!」


「うう……酷いです! あれから、ずっと……わらわはここで」


「あー……悪かった! あの時、お前を騙す形になって」


「本当ですよ!」


「でも、今はミーティスが竜王だ。そんな情けない顔をしていたら、他の魔物に舐められるぞ?」


「もう、他の魔物なんて、人間界にそう居りませんよ」


「う、うん……まぁ、そうかもな」


 ミーティスは俺を睨みつけ、頬を膨らませた。ふと、ミーティスは扉の近くにいる二人に視線を向けた。二人はあっけにとられ、ひどい顔をしている。 


「あそこにおる女子(おなご)……と、人間じゃない者は義兄様のお仲間か?」


「ああ、今、世話になっている人と、中身が悪魔の人間だ。ミーティス、お前は……相変わらず、人間嫌いか?」


「……昔ほどでは……コウにも言われたからな。じゃが、多くの同族が殺されたので、少し、思うところはあるのじゃ。それに、ここは人間の来るところではないゆえ、どうしてもきつくあたってしまうのじゃ。先程は義兄様にも……申し訳ない」


 ミーティスは俺に向かって頭を深く下げた。


「いや、ちゃんと役目を果たしてるってことだから、いいんだ。それより思いっきり喰らっていたけど、大丈夫か?」


「大丈夫じゃ! あれくらいなんともない」


 うん、結構、魔力強めにしたつもりなんだけど……複雑。


「しかし、凄い組み合わせじゃな……ふむ。瘴気を一時的に薄くしよう。あの二人もここに呼ぶと良い」


 俺は葉月と中川を高座の近くに来るように呼んだ。ミーティスは気流を操り、俺たちの周りだけ瘴気を薄くしてくれた。


「本当は浄化者がおれば、人間も留まりやすくなるのじゃが、今、ここにはおらんからな」


「ん? 浄化者? ああそうか、光属性の魔法か! 弥生を連れてくれば良かったんだ」


「なんと、義兄様の近くに浄化者がおるのか?」


「ああ、光属性の使い手がいる」


「ふむ、そうじゃな。その者がおれば人間でもここの瘴気は影響がない」


「すみませんね! 役立たずの者がついてきて!」


「いや別に……役立たずとは、言ってないだろ?」


 葉月は「ふん」と言って俺からそっぽを向いた。しかし、ミーティスの前に立つとにっこり笑いお辞儀をした。


「竜王様、お初にお目にかかります。私は導師見習い、渡瀬葉月と申します」


「ふむ、わらわはミーティス。竜の王となったが、本来、王ではない。義兄様の友人なら、そう固くならずとも良い。わらわのことは気軽にミーティスと呼んでくれ」


「ありがとうございます。ミーティス様」


「『様』などつけるな! わらわは本来、王などではないのじゃ!」


「では……ミーティスさん?」


「うーん、まぁ、良いじゃろう。じゃが、そこの人間もどき! お主は別じゃ」


「えー! いいじゃないですか? ボクもソラ君の友人ですよ?」


「中身は悪魔じゃろう? 人間の魂を喰らいおって……」


「これにはいろいろと、理由があるんですよ?」


「ふん、お主の様な奴は元々好かん!」


「まぁまぁ、ミーティス。俺は中川がいなければ、ここに来られなかったんだ」


「わらわは、お主ら悪魔のやり方がどうにも気にくわぬ。まぁ、義兄様がそう言うから、ここに居ることを許すだけじゃ! 良いな!」


「はい。ありがとうございます。竜王様」


 中川はミーティスの怒りに対しても綺麗な笑顔を見せ、かわしていた。


「それで、義兄様。ここに来たということは王に舞い戻るため、こちらに?」


「え? 違う違う! 俺はミーティスの知恵を借りに来たんだ」


「え? そんな! わらわはずっと待っておったのですよ? やっぱり……あの時、わらわを騙したのですね?」


「あー……いやー……」


 俺は思わず、詰め寄ってくるミーティスから、目を逸らしてしまった。


「ミーティスさん? 昊はいったい何をしたのですか?」


「うむ。竜王とは名ばかり。その役割はここの門番みたいなものでな。ここ場所に縛られる。このようにな」


 ガチャン。


 ミーティスが門のほうから何かを手繰り寄せる仕草をすると、手足に鎖の様なものが現れた。


「な……何、これ?」


「言わば、この門を守るための生贄なのじゃ」


「そんな」


「ただし、この場に(とど)めるということは、体の時間が止まる。不老の体が手に入るという訳じゃ」


「それで、昊が騙したというのは?」


 ミーティスは「説明しろ」と言わんばかりに俺を睨んできた。


「オホン。当時の俺は強い魔物と戦えればいいと思っていたから、竜王になれば、強い奴に会えると思っていたんだ。で、ここを通る奴らに『通りたければ俺を倒してみろ』って言って、挑んでいた。だけど、一か月もすると、ここに誰も来なくなったんだ」


「誰も?」


「義兄様は元々強いから、挑む者がおらんくなったのじゃ。この場に飽きたソール義兄様は『少しの間だけここを守ってくれ』と言って、後継者を据えてここを逃れた」


「後継者って……まさか」


「わらわじゃ」


「ひどっ!」


「いや、ミーティスは綺麗だから結構モテていたし、コウとも仲良さそうだったから、すぐ後継者ができると思っていたんだ。そうすれば、ミーティスは解放される。そしたら、そのうち大戦がはじまって……」


「終結とともに、大陸が沈んでしまったのじゃ」


「俺もまさか、大陸が沈むとは思ってなかったよ」


「わらわにはこの役目は重すぎる。でも、きっと義兄様が来てくれると思って、ずっと待っておったのじゃ。しかし、まさか人間に転生しておるとは……」


「でもなぜ昊のこと『義兄様』って、呼んでいるのですか?」


「それは、ソール義兄様とわらわの姉、アクアは(つがい)だったのじゃ」


「「つ、番?」」


 葉月と中川は目を丸くして驚いた。


「え? ってことは、竜王様のお姉様とソラ君は夫婦……?」


「前世の話な。魔物の番なんて、そんな大したものじゃない。アクアとは……まぁ、それなりに仲は良かったかもしれないけど、それだけだ」


 それを聞いた葉月は、何かブツブツ言い始めた。


「番……夫婦……?」


「あー……ハヅキさん。大丈夫ですか?」


「はっ! あ、え? 何が? 大丈夫よ? そ、そっか、それで『義兄様』って呼んでいるのね」


「? 葉月……お主は……ふむ、なるほど」


 ミーティスは俺のことを睨むと、ニヤリと笑った。


「? 何だ? ミーティス」


「ふぅ、罪深き男よ」


「何だそれ?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ