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ドラゴンの転生  作者: 藤塲美宇
第四章 恐怖と失敗
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番外編3

 葉月と芙美花とは、同じ帰り道だったけど、「コンビニによりたいから」と言って、俺は途中で別れた。そして、コンビニで「トマトジュース」を買って、俺はもう一度あの洋館へ戻った。


 洋館へ入るのはさっきと同じ、勝手口の近くにある、割られた窓から鍵を開ける。実は、この割られている窓には、怪我をしないように、透明なテープでコーティングがしてある。そのことに、誰も気づいていなかった。


 二階に上がっていき、俺たちが最後、閉じ込められた部屋に向かった。

 その部屋の窓際に、青白い顔をした細身の若い男性が立っている。俺が来たことに気付き、こちらに振り向くと、笑顔を見せた。その男に俺は、何の躊躇もなく話しかけた。


「危なかったね。ドラクラ伯爵はくしゃく


「はぁー……よかったぁ。昊くんのおかげで、見つからずにすみましたぁ」


 この笑っている男性は、昔、皆に恐れられていた『吸血鬼』だ。俺が転生して、初めてできた魔物の友達で、人間界の魔物事情をいろいろ教えてもらっている。


 伯爵は数年前から、この洋館に無断で住みついている。何があったか聞いてはいないけど、気が向くまま流れ歩いていたら、ここに辿り着いたらしい。

 本来、吸血鬼は人の血を栄養源としている。しかし今は、血を吸うと、気持ち悪くなってしまうそうだ。その代わり、「トマトジュース」や「イチゴジュース」を好んで飲んでいる。そのおかげか、吸血行動は起こらず、もう何年も人を襲っていないという。



「葉月が『ドア壊す』って言った時はマジで焦ったけどな。あ、これ、お土産の『トマトジュース』」


「わぁ! いつもありがとう! 昊くん!」


 みんなからこの『肝試し』の計画を知った後、学校帰りにこの洋館へ立ち寄り、伯爵に子供たちが来ることを伝えた。



 計画はこうだった。


 俺達が来る時間を伯爵に伝えておいた。

 まず、勝手口の窓から侵入することは想定していたので、伯爵はそこから子供たちの後をついて行ってもらった。途中、窓を開けておいて、カーテンが揺れるようにしておいたり、俺たちがいる部屋の隣で大きな音を立ててもらったりしていた。

 最後の部屋に辿り着いたら、俺達のスキを狙って伯爵がドアを思いきり閉める。

 閉まったドアを俺が確認し、閉じ込められた演技をする。

 そして、もう一度開かないことを確認すると、これを合図に伯爵が廊下を歩き、部屋を確認していく。俺たちのいた部屋の前でドアノブを何回も回して、なかなか開かないフリをする。

 ドアの後ろに隠れているよう俺がみんなを誘導。伯爵は少しだけドアを開け、部屋の中を見て、その場から立ち去る。地区の人が、洋館の見回りに来ることは知っていたので、俺がみんなを窓の外に目を向けさせ、その人たちだと思わせた。



「はぁー……僕は普段、こんなに動かないから、疲れたよ」


「でもよく、この軋む床を音立てずに歩けたね」


「それにはちょっと、コツがいるんです。聞きたいですか?」


「んー……どーでもいいや!」


「昊くーん」


「でもこれで、しばらくは子供も近寄らないでしょ」


「子供はねー」


「ん? 他に誰かくるの?」


「来ますよぉ。最近は大人もここに来て、何やら撮影して行きますからねぇ」


「……そうなんだ」


「ふぅ……だからねぇ。昊くん、これを機に僕はここを離れることにしたよ」


「え?」


「元ドラゴンの君と離れるのは、すごく名残惜しいんだけど、だいぶ噂が広まってしまったでしょう? そろそろ潮時かなって……ね」


「そ……そんな、せっかく」


「ごめんねぇ。せっかく、計画まで立てたのに……」


「嫌だ」と言いたかった。でも、この先もしかしたら、ここにいたせいで、伯爵が誰かに見つかってしまうかもしれない。そう考えたら、俺は言えなかった。

 伯爵は俺の頭に、優しく手をのせ、そしてそっと抱きしめた。


「君と過ごした時間は短かったけれど、とても楽しかったよ」


「伯爵……いつか、また会える?」


「ああ、僕はずっと生きてきたからね、見つからない様にするのは得意なんだよ。僕が太陽さえ浴びなければ、また夜、会えますよ」


「……うん」


「その時は、君の笑顔も見たいなぁ」


「え?」


「昊くんは笑顔だけは、見せてくれなかったからねぇ」


「笑顔……なってなかった?」


「うん、君は人間の友達もいるみたいだから、きっと自然に、笑顔を見せられるようになると思うよ?」


「うーん、できるようになるかな?」


「大丈夫です。できますよ。次はお互い笑顔で、また会いましょう。昊くん」


「……うん」


 伯爵はもう一度、俺を抱きしめた。

 そして、この夜、伯爵は洋館を去っていった。 


 俺はあの日、人間になって初めてできた魔物の友人と、別れを告げた。

 そう、あの時、あの洋館にはずっと、『吸血鬼』という魔物が住んでいた。


 この秘密は、誰にも言っていない。

 ここまで読んでいただき、ありがとうございます! これにて、第四章は本当に完となります。


 ここまで、書けているのも皆様のおかけです。本当に感謝しております。日々精進、書けることに幸せを感じております。


 どうぞ、これからもよろしくお願いいたします。

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