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ドラゴンの転生  作者: 藤塲美宇
第四章 恐怖と失敗
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番外編2

 みんなで、二階に上がる一段下の階段から様子を探る。

 二階は更に怖さが増して見える。一階より、乱雑に置かれた家具。いたるところに蜘蛛の巣があり、気をつけないとすぐにひっかかりそうだ。


「ねぇ、大神くん……本当に、ここ行くの?」


「だって、人影が見えたの、二階だぜ?」


「でも、人の気配はないよね。昊は? 何か感じる?」


「葉月が感じないんだから、俺が感じる訳ないだろ?」


「それも、そうね」



 恐る恐る、ゆっくり進んで行く。静かに踏もうとしても、古い床はきしむ音を鳴らす。


 度々、誰もいないはずの部屋から、何かがぶつかったような音が聞こえる。それを聞くたびに、みんな一斉に体をびくつかせた。

 葉月は先頭を切って歩いて行く。真っ先に乗り込んでいった大神は結局、芙美花と一緒に葉月の背中に、ぴったりとくっついていた。俺はその後をただついて行った。


 二階は四部屋あった。また、一つ一つ部屋を確認していく。部屋によっては家具がそのままだった。「ここには誰もいない」という証明のように、どこも埃だらけだ。

 そして、最後の部屋へたどり着いた。


「よし、これが最後の部屋ね。ドアを開けるわよ」


「「うん」」


 大神と芙美花は、同時に相槌をした。


 ドアの立て付けが悪いのか、凄い鈍い音を立てた。

 全員、開いたドアの隙間からこっそり、中を覗き込んだ。

 何かいるようには見えない。

 この部屋だけ、何も置いていなかった。


「ふー……何だ! 何もないじゃん」


 大神は、何もないことを確認すると、一番に入って行った。


「ねぇ、ここで最後なんでしょ? 何もいなかったんだから、早く帰ろうよ」


 最期に入ってきた芙美花は、怖がりながらも部屋の真ん中まで歩いてきた。

 その時、開いていたはずのドアが大きな音を立て、急に閉まった。


「え? 何?」


 葉月はすぐに気づいてドアに向かおうとしたが、俺のほうが近かった。ドアが開くか何度もドアノブを回すが、一向に開く気配がない。


「ダメだ! 開かない!」


「昊、嘘でしょ?」


「え? これってもしかして、オレ達、閉じ込められた?」


「ええ? どうなってるの? あたしたち帰れないの?」


 みんな、パニックになっている。


「このドア壊す!」


「待て! 葉月! ドアを壊したら器物損壊。ここに入ったことが、バレるぞ?」


「でも、閉じ込められてるんだから……」


「葉月。冷静になれ! ここに霊的なものを感じるのか?」


「え? ううん。感じない」


「本当に、感じないんだな?」


「うん。感じないわ」


「じゃあ、何で閉じ込められてるんだよ。真空寺」


「もしかして、建付けが悪いだけかも。もう一度、確かめる」


 俺は、もう一度ドアノブを回した。


「やっぱり、開かないな」


 すると、部屋の外で誰かが歩いている音がする。


「ねえ。あ……足音、聞こえない?」


 足音は、階段の方から聞こえてきていた。階段に一番近い部屋の前で立ち止まったのか、ドアを開ける音がする。


「誰かが、廊下を歩いてるわ」


 足音とドアを開ける音が段々近づいてきていた。


「ドアを開けて、部屋の中を確認してるんだ」


 足音は、隣の部屋の前まで来ていた。ドアを開け、しばらくすると閉まる音がする。やはり、凄い音をさせていた。


「どうしよう! 次、この部屋だよ!」


「シー……芙美ちゃん。静かに」


「皆こっちだ。ドアが開く反対側にいよう」


 ドアは、内側に開く。この部屋のドアと壁の間に、子供四人が収まるくらいの、隙間ができそうだった。俺はそこにみんなを誘導した。


「真空寺ナイス。もし、開けられても、そこならすぐに見つからない」


 全員、いつドアが開けられてもいいように、壁際に並んだ。

 部屋の外では、誰かが歩いてくる音がする。この部屋のドアの前で止まっているのか、一瞬静かになった。


 ガチャ……ガチャガチャ、ガチャ、ガチャ、ガチャ、ガチャ、ガチャ……。


 ドアが壊れるのかと思うほど、勢いよくドアノブを何度も回された。

「ガチャン」と大きな音がしたと思ったら、鈍い音を立てながら、ゆっくりドアが開けられた。

 一番前にいる葉月は、いつ見つかってもいいように、持ってきた木刀を握り締めている。その後ろにいる俺達は、徐々に開けられるドアの影になるように身を潜めた。 

 ドアは少し開いて、しばらくすると、そのまま閉まってしまった。ドアの向こうにいた誰かは階段の方へと行ってしまった。


「……行った?」


 葉月はみんなに確認するように聞いた。


「うん、行ったみたいだな」


 俺は小さい声で答えた。


「よ、良かったー!」


 大神はそう言いながら、俺にすがりついて来た。

 葉月と大神と芙美花は、部屋の真ン中で安心したのかへたり込んでしまった。


「真空寺。さっきの何だ? 幽霊か?」


「幽霊だったら、すり抜けるだろ?」


「ええ? じゃあ、何だったの?」


「さぁ、なんだろう?」


 みんなが無事を確かめ合っている中、俺は窓際に歩いて行った。気付けば、だいぶ日が落ちてきていた。その部屋からは、正面玄関側の道が見える。


「ん? おい! 皆、あれ……」


「「「え?」」」


 俺はみんなを窓際に呼んだ。正面玄関の道を数人の大人が懐中電灯を持って歩いている。近所の大人たちだろうか。談笑しながら公園の外に向かっているようだった。


「なぁ、真空寺、あれって?」


「そう言えば、この地区の大人たちが、夕方この洋館を見回ってるって、聞いたことがある」


「じゃあ、さっきここに来たのは、見回りの人か?」


「もしかしたら、そうかもな」


「なぁーんだ! つまんねぇーの!」


「あたし、もう疲れたよ」


「大丈夫? 芙美ちゃん。全部の部屋を確認できたんだし、誰かに見つかる前に、ここを出ましょう」



 俺たちは入ってきた窓を通り、来た時と同じように鍵をかけその場を後にした。

 公園内の街灯の下まで来ると、みんなほっとしたのか大きくため息を吐いた。


「ああ、怖かった! あたし、こういうの、もう無理!」


「オレは楽しかったけどな! 特に渡瀬が、何かあるたびにその棒振り回してるし!」


「それは! 皆に何かあったら大変だから……大神君こそ、私の後ろに隠れてたじゃない!」


「えー! だって怖かったんだもーん」


「ムカつくわね!」


「でも、渡瀬の慌てっぷりが見られたから、いいか!」


「ちょっと! こっちは気を張って……」


「ひどいよ! 大神くん! 葉月ちゃんのおかげで、何もなかったんだからね!」


「あ、赤岩……そんなに怒るなよ」


 芙美花が珍しく、大神に怒っていた。普段、おっとりしているから、怒ること自体珍しい。それが効いたのか、大神はかなりへこんでいた。


「なぁ、葉月。あそこには、何にもいなかったってことで、いいんだよな」


「まぁ、うーん……そうね」


「あーあ、結局、何にもいなかったか! 残念!」


「ふぅ……皆が無事で、本当に良かったわ」


「お疲れ様、葉月ちゃん」


「やべっ! 結構、遅くなっちゃったな! じゃあ、皆、また面白そうなことがありそうなら連絡するな! またなー!」


「二度と行かないからね! 大神君!」


 葉月は大神に息巻いたが、届いてなさそうだった。


「じゃあ、あたしたちも帰ろう」


「そうだね」


 みんなは家路へと向かっていく。

 俺を除いて。

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