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ドラゴンの転生  作者: 藤塲美宇
第四章 恐怖と失敗
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 お昼過ぎ、弥生が一人修練場に入って行くのを見かけた。

 この時間に、弥生がここに来るのは珍しい。


 ついて行ってみると、光属性に慣れるためなのか、必死に魔法を繰り返していた。


「はぁ、はぁ……くそ!」


「弥生……何してるんだ?」


「! あ……そ、昊」


 弥生は俺の顔を見るなり、そっぽを向いて修練場から出ようとしていた。


「オレ、もう行くわ」


「お、おい! ちょっと待った!」


 この機を逃すものかと、俺も必死に弥生の腕を掴んだが、すぐに振り払われてしまった。


「そ、昊もここ使うだろ? オレはまた後で来るよ」


「待てって! 弥生に話があってきた」


「え? オレ?」


「うん。最近、弥生……俺を避けてる?」


「あー……うん」


 明らかに、俺と話したくなさそうだった。


 これ以上、聞かないほうが良いのか?


「ああ、悪い! 昔から弥生は俺のこと、嫌ってるのは知ってるんだけど」


「別に昊の事、嫌ってない……ただムカつくだけ」


「それって、どう違うんだ?」


「だって、姉さんは……あー、別にいいんだけど! それは!」


「?」


「オレ、ここ最近、昊のこと避けてたよ。申し訳なくって」


「申し訳ない?」


「オレ……昊と、あのバアルって奴が戦っているとき、全く動けなかったんだ」


「うん」


「何にも役に立ってないオレが、悔しくて……情けなくて」


「え? それで? 俺の事避けてたの?」


「だって、『怖い』って思ったらダメだろ? オレたちは、そう言う奴らと戦わなくちゃいけないんだから! それなのにオレは、姉さんに『結界張ったら安全な場所にいなさい』って言われて安心しちゃったんだ!」


「でも、結界張って、皆を守っていたんだろ?」


「安心しちゃダメだろ? オレ、導師になりたいんだぞ? それなのに、足が震えて動けないって……皆はどうして動けるの? 怖くないのか?」


 ああ、なるほど……ここの人たちは当たり前のように、バアルみたいな奴らと戦っている。だから、委縮してしまったのか? そう言えば、葉月も同じようなこと、言ってたな。


 俺は弥生とじっくり話をしたくて、修練場の真ん中で、お互い向かい合って安座した。


「怖いよ? 俺も」


「でも、昊は戦ってたじゃないか」


「戦ってたのは、過去の力。俺自身じゃない」


「? どういうこと?」


「俺の中の魔力が勝手に暴走して戦っていただけだから、正確には俺に意識はない」


「それも、昊の力なんだろ?」


 意識あるときの俺は、バアルに全然、敵わなかったんだけどなぁ。


「んー……弥生は魔物との実践は、あれが初めてか?」


「弱い魔物の捕獲とかは手伝ったりしたことはあったんだ。でも、あんな強い奴を見たのはのは初めてで……」


 確かに、バアルは飛びぬけて強いから、アイツが特別なんだけど……それを言ったところで、納得はしないだろうな。


「母さんも戦ってた。どうして戦えたんだろ?」


「泉さんは……実践経験が多いからっていうのもあるけど、守りたいものがあったから、だと思うよ」


「守りたいもの?」


「ここの皆だよ。弥生や葉月、樹さん。俺も含め、皆。だから、戦えたんだ。そう言えば、弥生はどうして導師になりたいんだ?」


「最初は、姉さんも修行してたし、強い自分ってカッケーじゃん! って思ってた。普通の人とは違う能力あるのスゲェ! って……でも昊とか見てたら、『カッケー』とか言ってるの恥ずかしくなっちゃたんだよね」


「ん? 何で俺?」


「昊って常に、何かに狙われてるだろ?」


「う……うん」


「ずっと、そうやって戦っている人がいるのに、オレ、何もできてないなって……人を助けるために導師はいるのに。で、実際、魔物を前にしたら動けなくて」


「でもそれって、経験値の差じゃないか? 自分で気づけたんだから、すごいな」


「じゃあ、もっと戦えば平気になるのか?」


「どうだろ? それは、弥生次第じゃないか? まぁ、まだあんな奴がいるって認識できたわけだし、あの場にいただけでも凄い経験になってると思うけど?」


「そうなのかな?」


 弥生は俯き、そのまましばらく黙ってしまった。いつもの弥生からすると、こんなに沈んでいることは珍しい。


 バアルのことが相当怖かったんだろうか?


「アイツは怖いよな」


「……え?」


「バアル……人間になって、つくづく思うわ」


「ドラゴンだった時は、感じなかった?」


「んー……感じなかったな。『やべぇ奴来た』って感じだった」


「そうなんだ」


「昔はあんなのゴロゴロいたんだな。考えるだけでも恐ろしい」


「昊は、怖いって思ったことはないのか?」


「ついこの間、バアルと戦った時?」


「そうじゃなくて! んー……じゃあ、初めては?」


「前世だな」


「前世? てことは魔物だった頃?」


「ああ」


「聞きたい!」


「えー……」


 弥生は、興味津々だ。コイツが俺の前世に興味を持つのは珍しい。


 うーん、恥ずかしい話だし、参考になるようなことでもないんだよな。

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