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ドラゴンの転生  作者: 藤塲美宇
第四章 恐怖と失敗
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 その日は、光の精霊と契約の儀式が修練場で行われるというので、見学することにした。バアルとの戦いで、泉さんが光の精霊の力を失い、早急に後継者を決めなければならないという。


 泉さんはまだ全快していないが、ある程度動けるようになったので、昨日退院していた。


「樹さん、光属性って、誰でも習得できるものでもないんですね?」


「うん、使う人が限られていてね。素質がないと、受け継ぐことができない」


「泉さんが『精霊に嫌われた』って、言っていたんですけど」


「泉はちょっと、変わった契約の仕方をしていたからね」


「? 変わった?」


「声を聞こえることをいいことに、滅茶苦茶脅してたみたいだよ」


「え? 精霊を脅す?」


「まぁ、泉は当時、ちょっっっっっ……と、やんちゃなところがあったからね」


「相当、やんちゃだったんですね」


 本当に、今の泉さんからは想像できないけど……。


「魔法を使うには、精霊との対話が第一条件。これは他の精霊にも言えることだが、それができないと、使うことはできない」


「他と言うと、地水火風の精霊もですか?」


「うん、そうだよ。地水火風の精霊は比較的優しいけどね」


「精霊との対話、ですか」


「んー……昊君も今は人間なんだし、精霊の声が聞こえれば使えるよ? 今回の継承の儀式、参加してみれば?」


「いや、いいです。多分、合わないと思います」


「何故だい?」


「元々俺の魔力は、闇を基本にしている力なんです。前世で光属性も使えましたが、ほとんど役に立たない力でした。もし、光の精霊の言葉がわかったとしても、使うことは難しいと思います。相性が悪いので」


「ふむ、それは確かに言えるな……それにしても、いつか君の魔力の解明もしてみたいな。闇の力がベースか……いいね!」


「前々から思っていたんですけど、樹さんは魔物に対して……何というか、やさしい? 違うな……興味がある? 感じがするんですけど」


「うん、あるよ。興味! 昔、魔物に助けられたことがあるからね」


「え? 助けられた?」


「うん。小さい頃にね。それからかな? 魔物も悪い奴だけじゃないと知って、興味を持ち始めたんだ。ある意味、前世の昊君も最後のほうは人間に対して、悪い考え方を持っていなかったみたいだし」


「それは……まぁ、そうですね」


「その辺り、後でじっくり聞こうと思っていたんだ。魔力の事も……そういうことを知っておきたいんだよね。今後のために」


「そうなんですね」


 樹さんは、こういう話はすごく楽しそうにする。


 人間を助けた魔物か……いったいどんな魔物だったんだろう。もしかしたら、樹さんはバアルと話してみたいとか思っているのだろうか?



「さて、そろそろ始めようか! 葉月! 弥生! ここに来てくれ」


 二人は、普段と違う雰囲気に緊張しているようだった。

 修練場には、大きく魔法陣のようなものが書かれている。その真ん中に葉月と弥生が座ると、そこへ泉さんがやってきた。


「二人とも準備はいい?」


 二人はお互い目を合わせると、深く頷いた。


 泉さんが二人の前に立ち、手をかざす。


「光の精霊よ。次なる者を見定めよ」


 すると、二人は白い光に包まれた。


「二人とも、何か声が聞こえる?」


「オレ……聞こえる」


「葉月は?」


 葉月は険しい顔をして、首を横に振った。すると、弥生は驚いた顔を葉月に向けた。


「そう……それじゃあ、次の光の精霊との契約の資格があるのは弥生ね」


「え? ちょ……」


「弥生? どうかした?」


「あ……いえ」


「そうしたら、葉月はこの場から離れてくれる?」


 葉月はしばらく下を向いたまま「はい」とだけ返事をし、魔法陣の外に出た。

 だが、弥生は何故か、納得いっていない様子だった。



 そのまま、儀式は続き、無事、弥生が次の光属性魔法を引き継ぐこととなった。

 儀式が終わるとすぐに、弥生が葉月に駆け寄った。


「姉さん! いったいどういう事だよ」


「どういう事って?」


「姉さんも声が聞こえていたはずなのに、何で、嘘をついたんだ!」


「…………」


 樹さんはそれを聞いて、葉月に詰めよった。


「弥生、それは本当か? 葉月! どういうことなのか説明しなさい!」


「聞こえていなかったわよ? 私には。だから答えなかった。本当よ?」


 葉月はそう言い残すと、足早に母屋の方へ行ってしまった。普段あまり怒らない樹さんが顔を真っ赤にして葉月の後追っていく。


「葉月? 待ちなさい!」


「ね……姉さん?」


「弥生? さっきの話は――」


「昊ごめん! オレも今は一杯一杯で……」


 弥生は顔を背けたまま、その場から去っていった。


「あ、弥生……」


 やっぱり俺、避けられてるよな?


 弥生には、あのバアルの戦い以降避けられている。俺が弥生に、何かした覚えもない。たぶんあの時、弥生の身に何かあったんじゃないかと思っている。


「あらあら、葉月どうしたのかしら?」


「泉さん……葉月は聞こえてないと、嘘を言てるんでしょうか?」


「そうだとしたら、あのコなかなかやるわね!」


「驚かないんですね?」


「もし、弥生の言うように嘘を言っているなら、あの場で何か考えが変わったのかもしれないわね」


「継承の儀式をしてる最中に?」


「精霊の『喋り方が気にくわない』とか、『性格が悪い』とか、『何か偉そう』……とか?」


「それって、泉さんが持った印象ですか?」


「そう! だから、私が継承したときは『ちょっと黙っていただけません?』って、言ってやったの」


 話を聞く限りだと、絶対、こんな丁寧に言ってないな。


「まぁ、こればかりは本人に聞いてみないと、ね? 昊くん」


「ん? 俺が聞いてくるんですか?」


「たぶん、わたしたちには話してくれないと思うし……昊くんにだったら、打ち明けてくれるかもしれないでしょう?」


「は……はぁ」


「ここはわたしが片付けておくから、葉月と話してみてくれない?」


「え? でも、泉さんもまだ全快してないですから、ここは……」


「これくらいヘーキよぉ! 少しは動かないと、体が鈍っちゃうわ。それに、樹さんじゃ、たぶん喧嘩になっちゃうだろうから、ね?」


「ふぅ……分かりました。大丈夫そうなら、すぐ戻ってきます」


「ふふ、じゃあ、お願いね? さぁ! 明日から弥生を扱かなきゃいけないから、忙しくなるわぁ」


 気のせいか、泉さんは楽しそうだった。

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