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ドラゴンの転生  作者: 藤塲美宇
第四章 恐怖と失敗
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「まず確認ね。武器は無し、魔力での肉体強化と魔弾は有り」


「魔弾?」


「魔力の塊。属性はないから、かなり弱い。やったことない?」


「ああ、ある。弱い魔物とか追い払うのはこれで十分だしな」


「勝敗はどっちかが、床に倒されるまで、でいいかしら?」


「うん」


「うん、よし! じゃあ、やろうか。体術は手を抜かないわ。いいわね?」


「ん、わかった」


 お互いある程度の距離をとった所で、大きく深呼吸をした。

 筋力を上げるために、魔力を全身に流す。それと同時に、力が湧き上がってくるのを感じる。


 葉月と手合わせは初めてだな。でも今まで、弥生との手合わせを見てきたから、大体の手の内は分かっている。葉月はいつも、突っ込んできて、パンチを繰り出してくるはず。


「「よろしくお願いします」」


 二人同時にお辞儀をする。


 葉月、どこから来る?


 顔を上げて目が合うと、それを合図かのように先に葉月が動いた。

 ゆらりと動いたかと思ったら、フッと視界から消えた。目だけで周囲を確認すると、左方向から気配を感じる。葉月の姿を捉えた時には、右手の拳を振りかざし、突っ込んできていた。


 予想通り。


 葉月の動きは、何とか目で追えている。拳を受け止め、静止させようと手首を掴もうとするが、うまく逃げられてしまう。かわした葉月はバク転をしながら俺の手を弾き、その最中、魔弾を打ってきた。


「くっ!」


 俺は顔の前で腕をクロスさせ、それをガード。すかさず、開いた間合いを詰め、下段廻し蹴りを入れようとするが葉月に避けられてしまった。


「昊、体術覚えて動きが良くなったね。せっかくだから魔弾、打ってきたら?」


 くそ! 余裕見せやがって!


 まるで、指導だ。拳技や蹴り技を出しても、流れるように避けられてしまう。

 ここに来る前はがむしゃらに殴っていたが、ここで格闘の基礎を習って体の使い方を学んだ。だが、葉月たちに比べれば、まだまだひよっこなのは事実。


「お前はピョンピョン跳ねるな! まどろっこしい!」


「だって、力じゃもう、昊に勝てないもの。私は捕まったら負けでしょ?」


 俺の強みは魔力の多さ。まず、葉月の動きを封じないと。


「じゃあ、遠慮なく魔力を使わせてもらうぞ」


 俺はできる限り、多くの魔弾を創り出した。


「え? ちょ……多くない?」


「これぐらい避けられるだろ?」


「わぁ! ちょっと、嘘でしょ?」


 いくら弱い魔弾とは言え、当たれば衝撃はある。葉月は俊敏さを生かして逃げ回っているが、俺が放ったのは追跡弾なのでどこまでも追っていく。


「さすが、というべきか……数が多い! それも追跡弾だなんて……」


 うん。これで少し、動きが読みやすくなった。

 もう一度、魔弾を放ち挟み撃ちにしようとしたところで、葉月が急に立ち止まり、身構えた。


「はぁぁぁぁぁ……」


 パァァァァ……ン!


 葉月は気合と共に魔力を放出させ、俺の放った魔弾は全て掻き消された。


「だが、これで!」


 この瞬間を待ってたんだ。


 すぐに、葉月に近づこうとするが、衝撃波の様なもので体が押される。それにも負けず、葉月の腕を掴もうとした。ところが、逆に捕まれ、気付けば俺の体は宙に浮いていた。


 ダァァァァーン!


「うぐっ!」


「はぁ、はぁ、はぁ……危なかった。昊、大丈夫?」


「はぁ……くそ、やっぱ、つぇーな」


「ふぅ……ふふ。でも今回は、私も危なかったわ」


 ベェィン!


 すごい音が修練場の中に響き渡る。


「おかしいわね。外の音が聞こえる何て……あっ」


 入口の方を見ると、樹さんが結界に顔を押し当て、中を覗き込んでいた。


「あー、ははは……父さん、起きてたの?」


 葉月は空笑いして、何故か焦っている。



 結界を解くと、樹さんはずんずん修練場に入ってきた。


「と、父さん! おはよう! もうそんな時間だった?」


「もう、そ・ん・な、時間だよ。葉月? 昊君?」


 修練場の窓から外を見ると、だいぶ明るくなってきていた。


 樹さんは苛立っている。夜中にこんなことをしていたせいなのか?


「あの、葉月は別に悪くないって言うか、俺に付き合ってくれただけで……」


「うーー! 何で、お前たちだけで、面白そうなことやってるんだ?」


「へ?」


「あー……やっぱりね」


 葉月は頭を掻きながら、苦笑いをしている。樹さんは何故か、もの凄く悔しがっていた。


「乱取り稽古。私も昊君とやってみたかったのに!」


「しょうがないでしょ? それに父さんと昊がやったら、絶対怪我どころじゃなくなるわよ?」


「樹さん、怒ってるわけじゃないんですか?」


「怒らないよ。もうそろそろ、昊君と魔力を使った手合わせは、したいと思っていたんだ。体術もだいぶ覚えてきたしね。でもぉ、私が一番に相手したかったぁ! 葉月ー……私の楽しみとらないでよぉ」


「た、楽しみ?」


「あー、父さんは弟子の成長を一番最初に感じたい人なの。だから、こういう乱取り稽古は、いつも父さんが最初だったんだけど、今回は私が奪っちゃったってわけ」


「あー……」


「葉月のせいで、楽しみが奪われたー」


「そんなにショックだったら、さっさとやればよかったのよ!」


「やるつもりだったさ! 今日あたり言おうと思ってたのに!」


「はいはい。ごめんなさい! じゃ、私、朝食当番だから戻るわね」


「え? 葉月?」


「じゃあ、昊、頑張ってね」


 葉月、樹さんを俺に押し付けていきやがったな。


「あー、葉月」


 樹さんは先程の態度から一転、急に真面目な口調で呼び止めた。


「何? 父さん」


「今日、契約の儀式やるからな」


「うん……分かった」


 葉月は、こちらを見ずに静かに答え、母屋の方へ行ってしまった。


「契約の儀式? ああ、泉さんが使ってた『光属性』の?」


「うん、そう。昨日、泉も帰ってきたからね」


「今日、するんですか……」


「うん。『光属性』は貴重だからね。早急に決めておきたいんだよ。血縁者がいれば、優先して契約できるか試せるんだ。まぁ、血縁者のほうが、引き継げる可能性が高いっていうのもあるけどね」


「へぇ……」


 すると、弥生が神妙な面持ちで修練場に入ってきた。


「おはようございます」


「おはよう。弥生! ちゃんと準備をしておきなさい」


「はい」


「弥生、おはよう。何か、最近元気ないけど……」


「え? そんなことないよ! 何言ってるんだ?」


 弥生は何となく、俺を避けている気がする。ここの所、俺と目が合うと、顔を背けてどっか行ってしまうことが多い。

 それも、あのバアル戦の直後から。


 俺、何かしたっけな?


 そう考えている中、後ろから俺の肩に手を置き、樹さんが話しかけてきた。


「昊君! まだ魔力残ってそうだね?」


「え? あー、いやー……」


 さすがに疲れたので「休みたい」と言うと、樹さんは不満げに弥生の指導をしていた。

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