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ドラゴンの転生  作者: 藤塲美宇
第四章 恐怖と失敗
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「今ここに結界張るわね」


「結界?」


 葉月が修練場の壁に手をつけると、膜の様なものが全体を覆いつくしていく。


「よし! これで大丈夫」


「結界って?」


「ああ、結界は普段、魔物や異能者と戦うとき使うの。一般の人を巻き込まないようにするためにね。前に昊が河川敷で戦った時も、この結界を弥生に張ってもらってたのよ」


「てことは、魔力で造った壁か?」


「そうね。試しに、この結界に何か魔力を使ってみて」


「ああ」


 俺は魔力で風の玉を作って、壁に向かって投げた。すると、風の玉は壁にぶつかった瞬間、はじけ飛んでしまった。


「あれ? 結構、魔力強めで作ったんだけどな」


「結界が張ってあれば、そこに当たった魔力は飛び散ってしまうの。防音にもなるし、中で大暴れしても、ある程度は大丈夫」


 手で触れると、ガラスを触っているような感じだった。


「へぇ……でも外からは? 入れないのか?」


「そう滅多には、ね。例えば、私より相当強い術者でも壊し方を知らなければ、入れない。それと、魔力が無いと、いつもと同じ風景にしか見えないの」


「外から遮断できるのか。便利だな」


「あとは術者が弱ったりしなければ、結界は張り続けられるかな」


「弱ったり?」


「魔力が無くなったり、攻撃されて意識が無くなったり」


「なるほどね」


「さぁて! これで父さんたちも起きてくる心配はないし! 大いに暴れられるわ!」


 すると、葉月は念入りに準備運動を始めた。


「ん? 暴れる?」


「だーかーらー! 私と手合わせしましょ?」


「え?」


「何よ! 嫌なの?」


「嫌だ! 葉月と手合わせなんて、冗談じゃない!」


 ただでさえ、葉月のほうが強いのに!


「何でよ! 昊にとっても魔力の発散になるし、丁度いいじゃない!」


「いや、だって……葉月と戦うのは……」


「昊もだいぶ体術慣れてきたし、そろそろ相手してほしかったのよね」


「いや、そうは言っても、もしかしたら……」


「何? 私に怪我させたくないとか、思ってるんじゃないでしょうね?」


 正直、思ってます。


「私がそんな柔な人間だと思ってる? ああ、昊はバアルと戦って、自分は強くなったって思ってるんだ」


「違っ! そんな事思うかよ! ただ、魔力の加減ができないから、大怪我させて傷でも残ったら……」


「私が、皆から白い目で見られるとか?」


「う……」


「ぷっ! あはははははははは!」


「な……何で笑う! 大事だろ?」


「傷の一つや二つ、増えたところで変わらないわよ」


 そう言うと、着ている七分丈のTシャツをめくって見せた。かなり薄くはなっているが、腕に傷跡が無数についている。


「え? この傷」


「どうしても、腕でガードしちゃってねー。家族以外の前ではできるだけ、見せないようにしてるんだ」


 そう言えば、夏の暑い日でも長袖を着ていたな。あれは、腕の傷を隠していたのか。


「ありがとう気遣ってくれて……でも大丈夫よ? ほら、顔には傷、作ってないでしょ?」


 葉月は自分の頬を指しながら、屈託のない笑顔を見せた。


「う、ん」


「ね? 避けるの、上手いんだから! まぁ、だから気にせず、手合わせお願いします」


 俺に手を合わせて、懇願している葉月の腕は、他の同級生の綺麗な腕とは違っていた。


「俺の魔力、分けてあげられれば良かったのに……」


「ん? 昊、何か言った?」


 小さい声だったから、葉月には聞こえなかったらしい。でも本心だ。

 俺は魔物の魔力のおかげで、傷の回復は早く、傷跡もほとんど残らない。

 葉月にとったら、この腕の傷跡は名誉の様なものだから気にしてはいないのだろう。しかし、他から見れば痛々しい。だから余計、これ以上傷を作ってほしくない。


「なぁ、葉月やっぱり……」


「やらないとか、言わないわよね?」


「え?」


「許さないわよ? 私だって、あんな戦い見せられて、悔しいんだから!」


「あんな……? ああ、バアルと戦った時か?」


「何なのアイツ! あんなのがまだこの世界にいるっていうのが信じられない! よくあんなのと戦ったわね! 昊!」


「俺は全く覚えていないんだけど?」


「手が出せなかった自分が情けない! もっと修行しないといけないのよ! こんな近くに、あんなのと戦える力を隠し持っている人はいるし!」


「だから! 覚えてないんだって!」


「でも、昊自身、このままじゃ太刀打ちできないって思ってるんでしょ?」


 コイツ……俺の心、読んだのか?


「いや、でも葉月……」


「とにかく! 私は実践を積みたいの! 魔力を使った実践をね!」


「まぁ、それは分かるけど……」


「そうでしょ? こればっかりは実践あるのみなのよ!」


「うーん。まぁ、そうだけど」


「魔力を思いっきり使う事なんて、修行でもなかなかできないのよ? こうやって結界張るのだって大変なんだから!」


 結界を張るのが、大変そうには見えなかったが?


「でもまぁ、確かに魔力を思いっきり使えるのはいいけどな」


「でしょ? ということで、始めましょうか!」


「えー……あー、うん」


 うーん、うまく乗せられた気がする。

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