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ドラゴンの転生  作者: 藤塲美宇
第一章 記憶と魔力
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 次に目を覚ましたのは、葉月の家だった。


「良かった! 目が覚めたのね」


 そう優しく声をかけてくれたのは、葉月の母親の(いずみ)さんだった。声を出そうとしたが、喉が張り付いたようで、まったく出ない。そんな俺を見て泉さんは優しく頭をなでて「大丈夫」と笑いかけてくれた。俺はその手と笑顔に、すごく安堵した。


「無理しないで、昊くん……五日間、目が覚めなかったのよ」


 どうりで体が重いわけだ。体がまるで、あちこち接着剤で固められたかのように動かない。


「起きてみる? ゆっくりでいいからね。今、水を持ってくるから……」


「母さん、持ってきてるよ」


 泉さんの後ろに、水差しとコップをトレイに乗せた葉月が立っていた。


「葉月……ありがとう。昊くん、手伝ってあげるから、少しずつ飲みましょう」


 そう出された水を少しずつ口に含みながら、コップ一杯を飲み干した。


「お医者さんを呼んでくるわね。葉月……昊くん、見ててあげてね」


 泉さんの背中を目線で追いながら部屋の入口を見ると、葉月の父親の樹さんが険しい顔で立っていた。しかし、樹さんは俺と目が合うとすぐにその場から去っていった。

「見ていてくれ」と頼まれた葉月は、俺を睨みつけていたが、少し涙目だった。


「……何? 葉月……怒ってる?」


「私に何か……隠してること、ない?」


 またそれか……いっそのこと言うか? あそこに来た人は、確実に俺が人間じゃないと気付いたはず。それに渡瀬家は全員、異能持ちだ。気付いていても、おかしくない。あの場所に来ていたのは葉月なのか……。違ったら、変なことに巻き込みそうだし、説明するのが面倒だ。でも、あそこで聞いた声は? ここはとりあえず――


「……俺をここに運んでくれたのは?」


「父さんよ」


「葉月は? あそこにいなかった?」


「私? あー、私は……家にいたの。そしたら……父さんが、あんたを連れてきたのよ」


「……そうか」


 じゃあ、樹さんが? でも、あの声……女の声だった気がするんだけどな……。葉月じゃなかったのか。


「あのさ……オジさん、誰かと一緒じゃなかったか?」


「え? い……一緒じゃなかった……よ? なんで?」


「んー……いや」


 何となく、また嘘をついていると思った。きっと、樹さんだけじゃなかった。葉月は何かを隠している気がした。


「……ねぇ。昊」


「うん?」


「本当に隠してることない?」


 お互い様だ。葉月は何かを隠してるから、俺も言いたくない。


「……うん。ない」


「……そう」


 葉月は少し寂しそうに笑った。その顔を見た瞬間、俺は心臓がぎゅっと痛くなった気がして、葉月の顔を見ていられなくなった。


「でも……良かった。何事もなくて」


 葉月は小さく呟いた。


 その後は、お互い下を向いたまま目を合わせず、医者が来るのを待った。


 医者からは特に異常はないと言われ、倒れたのは何かストレスを与えられたのでは、と説明された。たぶん、溜まった魔力が暴走しかかって、あそこにある『何か』にそれが反応したように思うが、そういう事にしておいた。

 樹さんに、どうしてあそこに行ったのか尋ねられ、俺は「あの木が気になった」と答えた。すると樹さんは、困ったような顔をして、


「あの山は人の手が入ってなくて、いろいろ危険だから入ってはいけないよ! 君はまだ小さい……こんな危険なことはしないでくれ」


 と、約束させられた。


 次の日、葉月は俯いたまま目線を合わせてくれない。


「……私に隠してることは、ないんだよね?」


「……うん」


「そう」


 威圧感もなく、ただ静かに聞いてきた。今までの勢いがない分、なんとなく張り合いがなかった。

 

 ――あの後俺は、力の発散方法を見つけた。定期的に力を使えば暴走を抑えられるとわかり、その辺りで悪戯をしている魔物や霊の類を見つけては力を使い、追い払うようにしていた。

 けれど、そんな都合よく魔物や霊がいるわけでもなく、俺は結局、樹さんとの約束を破り、あの塚へ月に一度通うようになった。不思議と、そこでは力が自然と制御できた。


 葉月はあの時以来、挨拶はするが会話はせず、俺の返事を聞いたらその場を離れていく。 

 そんな葉月の姿を見ると何故だか、あの時の寂しそうな顔がふと浮かぶ。


 これで良かったのか、正直に言うべきだったのか――


 心が、疼く日々が続いた。

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