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ドラゴンの転生  作者: 藤塲美宇
第四章 恐怖と失敗
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 バアルとの戦いから三週間。

 夜中の三時。


「うっ……今日はこんなに、疼くなんて」


 あの時から魔力を使っていない日は、右腕が疼くようになった。皮膚が硬質化していき、腕に心臓があるのかと思うくらい脈を打っている。

 まるで、魔物化が進んでいるようだった。

 こういう現象は大体、夜中に起こる。修練場は母屋から少し離れているので、何かあってもすぐ皆に被害が及ばない。この疼きが治まるまで、ここに籠らせてもらっている。

 俺は修練場の真ん中で、大の字になって寝そべった。

 修練場の中はひんやりとして、静かだ。


「ふぅ……困ったな」


 こう静かだと、いろいろ考えてしまう。

 両親の事、魔力のコントロール、これからの事。


 両親のことは寝耳に水だった。まさか、バアルが犯人だったとは思わなかった。

 あとで、あの火事のことを調べたら『漏電による出火』となっていた。当時の俺は五歳。目の前で、両親が殺されたのを見ている。だが、誰かに「魔物が犯人だ」と伝えたとしても、信じてもらえなかっただろう。

 でも一つ疑問が残る。


 俺はどうやって助かったんだ?


 自分一人で逃げたとは考えづらい。両親が殺された後ことは、思い出せずにいる。


 それと困ったのが、魔力のコントロール。あの戦いの後、体の一部を魔物化しないと、上手く使えなくなっていた。

 今のところ、魔力を使う場面に出くわしてはいない。最近の修行は体術が中心で、魔力を使うことが無かった。その代わり、そういう日の夜、こうして腕が疼くようになっていた。この状態になっていることは、他の人にバレていないと思う。


 バアルに対抗するには、もっと魔物の力を引き出せないと、太刀打ちできない。ただ、魔力を使うたび、魔物化が進んでいるような気がする。これ以上魔物化して大丈夫なのか、不安が募る。


 人間の体で、魔物の力を使うことがこんなに難しいなんて……またいつ、襲撃されるか分からない。早く竜王に、会いに行かないと……。


 竜王は、この地で起きたことを把握する力を持つ。会えば何かしら、ヒントをくれるはず。

 しかし、それ以前に竜王の所に行きたくても、人間が簡単に行ける場所ではない。今の俺の力では、すぐに行くのは難しい。それに、前世がドラゴンだったとしても、今の俺を相手してくれるかわからない。

 どうしても、気持ちだけ焦ってしまう。


 とりあえず、今はできることからやろう。


「っ……それにしてもこの腕、こう毎晩だと……さすがにきついな」


「昊?」


 その声に思わず飛び起きた。


「! ビックリしたー! 葉月かー!」


 俺はとっさに右腕を葉月に見えないように隠したが、すでに様子がおかしいことに気付いたらしい。すぐに血相を変えて、駆け寄ってきた。


「何? どうしたの? この腕!」


「あー……ちょっとね」


「皮膚も固くなってる……昊がワザとやってる訳じゃないでしょ? もしかして魔物化、進んでるんじゃないの?」


「いや、進んでは、いないと……思う」


 本当に、葉月は良く気が付くな。


「もしかして、あの時、半分魔物化したから?」


「うーん、そうかな? まぁ、日が昇れば治ってくるんだけど……」


「! もしかして、あの時からずっと?」


「え? ああ……まぁ」


「何で早く言わないのよ!」


「いや、我慢してれば、そのうち良くなるかなーって……」


「……それで? 少しは良くなってるわけ?」


「……なって、無いです」


「…………」


 葉月は俺の腕を見ながら、だんだん眉間にしわが寄っていく。


 うわっ、すっげぇ怒ってる?


「ねぇ、あの時、『手伝えることがあったら言って』って……私、言ったよね?」


「言ってましたね」


 あの日のことは、葉月に醜態をさらしてしまったから、俺としては消し去りたいんだけど……。


「私、力不足?」


「ち……違う! 夜中だから、気を使っただけだ!」


 葉月は少し寂しげな顔を見せた。


 俺はどうもこの表情に弱い。これは罪悪感なのか、それとも……。


「あー……本当に! 起こすの、悪いなって思っただけ」


「本当に?」


「うん」


「わかった。でも、本当につらいんだったら言ってよ?」


「はい」


「それで? コレはどうしたら治るの?」


「まぁ、朝には治るんだけど、こうなるのは、魔力をあまり使っていない時に起こりやすいんだよな」


「最近、体術の修行しかしてなかったもんね。あの塚の所に行くのは?」


「一回行ったんだけど、あまり効果はなかったな。むしろ魔物化を助長している感じがした」


「逆効果なのね。じゃあ、魔力を使うほうがいいのかしら?」


「たぶん、そうかな。一人で暴れる訳にも行かないし……腕が疼くくらいだから、朝まで我慢してたけど」


「そうだったのね。うーん、光属性の力があれば、少しは違ったのかしら?」


「え? 光属性?」


「うん。光属性は、体の傷を癒す魔法もあるんだけど、魔力を安定させる魔法もあるの。昊が小さい頃、暴走して、(うち)に運び込まれてたことがあったでしょう?」


「ああ、五日間、目が覚めなかったって言ってたときか?」


「あの時は、母さんが定期的に光の魔法を昊に使って安定させてたの。だから、変な暴走はなかったでしょ?」


「うん、確かに……え? じゃあ、完全にドラゴンになった時は?」


「ああ、あの時は玄関先で抱きしめられたでしょう?」


「うん……え? あの時、光の回復呪文使ってたのか?」


「うんそうよ。あの時は、あまり魔力がなかったから傷を治すことは難しかったけど、魔力を安定させることはできたみたいだからね。母さんそういう事、さりげなくするから、すごいわよねー」


「あの時、抱きしめられたのは、そういう事だったのか」


「ショック?」


「いや、ショックじゃないし!」


「本当かなー」


 葉月は目を細め、ニヤニヤと俺の方を見てくる。


 本当に違うのに。


「お前な、この間から……」


「うーん」


「ってオイ! もう聞いてねぇのかよ」


 葉月は何か考え込みながら、修練場の壁に向かって歩き始めた。


「うん。魔力の発散をしよう! 昊、動ける服装に着替えてきて」


「え? 今から?」

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