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ドラゴンの転生  作者: 藤塲美宇
第三章 過去と魔王
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10

 その日の夜。俺は泉さんの病室を訪ねた。


「わぁ嬉しい。ほんとに来てくれたのね。昊くん!」


「どうしても、聞きたいことがあって……」


「? なぁに?」


「なぜ俺を庇ったんですか? 一歩間違えば、泉さん死ぬところだったんですよ?」


「…………」


「母親でもないあなたが、俺に対してあんなふうにするのは、どう考えてもおかしいです!」


 泉さんはいつもと同じように笑みを浮かべていたが、だんだん表情が曇っていった。俯いたまま、しばらく沈黙が続き、目を閉じ大きく息を吐いた。


「あなたは、わたしの親友の忘れ形見。どうしても守りたかったの」


「忘れ形見?」


「あなたの母親は『宝条華(ほうじょうはな)』。結婚したから『真空寺華(しんくうじはな)』ね。学生の頃、親友だったの」


「え? 母さんと?」


「ええ、大学進学と共に交流は絶えてしまったので、どこで何をしていたとかは、昊くんがここに来るまでわからなかった」


「そうだったんですね……俺は火事で何もかも燃えてしまったので両親の顔は分かりません。でも、泉さんは知ってるんですね? 母のことを」


「ええ……親友って言っても、実は喧嘩友達だったの。当時のわたしは、ちょっとやんちゃだったから……エヘ」


 泉さんは少し照れながら笑っている。


 しかし、今の泉さんからあまり想像ができない。この泉さんがやんちゃ?


「あなたのお母さんは当時、導師見習いだった。もうすでに魔物も退治していたくらいだったし、わたしは何度も助けられたわ」


「母は導師だったんですか?」


「ええ、わたしは何かと取り憑かれやすい体質で、いつも問題を起こすほう。取り憑かれた時の対処法も教わったのに、学習しないからよく喧嘩になっていたの」


「は、はぁ……」


「彼女は優秀だったわ。何でもできて、体力も魔力もあって」


「そうなんですね」


「あっ、話に聞くと巫女の家系に生まれたとかで、憑き物を払ったりするのは、小さい頃からやっていたって聞いたわ。だからわたしの体質にも気付いてくれて、何かあればすぐに助けてくれたの」


「母の家系が巫女?」


「あなたの父親、真空寺家はちょっと変わった家柄だったみたい」


「そうなんですか?」


「あなたの父親は『真空寺隼士(しんくうじはやと)』さん。会ったことはないのだけれど、導師をやっていたらしいわ。でも導師の中でも、あまり知っている人はいなくて……その」


「? 何ですか?」


「真空寺家は昔、魔物と契約して力を得ていたと言われているの」


「!? そ……それは、本当ですか?」


「不確かなことだから、信憑性に欠けるのだけれど、真空寺家と関りがあった人から聞くと、そう言っていたらしいの」


「それで、なのか……」


 バアルが言っていたことは、ある意味正しかった。普通の人だったら、この眼は使えない。でも、真空寺家の人間が魔物と関わっていたのなら、あり得ることだ。俺の中にもう一つの魔物の力が存在する。だから、人間の体で魔眼球が使えているんだ。


「あなたのお母さんとは喧嘩ばかりしていたけど、当時のわたしには救いだったわ。だから、どうしてもあなたを守りたかったの」


「……でも、いくらなんでもやりすぎです」


「ふふ、心配かけてごめんなさい。でも、もうわたしは戦いの場に出ることはないから、安心して」


「? それはどういう……」


「体がもうボロボロで、精霊たちに嫌われてしまったの。力が使えなくなっちゃった」


「え? そんなことが、あるんですか?」


「まぁ、あまり好かれてはいなかったから、仕様がないのだけれど……これで、引退。でも葉月も弥生も、まだまだなところがあるから、心配なのよ。あの子たち大丈夫かしら?」


「俺からすれば、あの二人は強いとは思いますけどね。特に葉月は」


「あら? ドラゴンだった君が言うんじゃ大丈夫かしら? ふふ。昊くんも無理はしないでね。もう、わたしはあなたを守れないんだから……」


「いえ、もう守られる側は沢山です。今度は守る側になります」


 ふと、泉さんお顔を見ると頬を赤らめて目をキラキラさせている。


「やだ! ちょっと! なんか告白されているみたい! 昊くんてば! 相手はわたしでいいの? でも、わたし樹さんの奥さんだし……」


「え? あ、あの……泉さん?」


「昊くん? やっぱりわたしには、樹さんという素敵な旦那様がいるから諦めて!」


「あ……あの、諦めて、も何も……」


「でも、わたしは昊くんを葉月の婚約者にすること、諦めていないですからね! ふふ」


 その後すぐ、見回りの看護師さんがきて、「うるさい」と怒られた。

 ここまで読んでいただき、ありがとうございます! 第三章完です。


 どうぞ、これからもよろしくお願いいたします。

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