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ドラゴンの転生  作者: 藤塲美宇
第三章 過去と魔王
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 葉月が居てくれたおかげで、気持ちが落ち着いた。まだ背中には、さすってもらった優しい手の温もりが残っている。


「ありがとう……葉月。少し落ち着いた」


 俺は、どうして葉月の前で醜態をさらすことが多いんだ?


「そう? 良かった」


 ふと、自分の掌を見ると、赤い痣の様なものが腕のほうまで続いていた。


「その痣、しばらく消えないそうよ? もしかしたら一生残るかもって言ってた」


「? この痣?」


「うん」


「もしかして、これは魔物化した痕か?」


「たぶん、そう……幸い顔にその痣は残らなかったんだけど、首のところから、残ってる」


 俺は病室の隅にある鏡の前で、病衣の襟をめくり首筋を見てみると、右半分、痣の様なものが広がっていた。


「これは……」


「なんか炎みたい……だよね」


「俺は……火を使ったのか?」


「ううん、使っていない」


「あの時、何があった?」


「んー……聞きたい?」


「そりゃ、聞きたいだろ? どうしてあんなことになったのか」


「半身……魔物の姿になってたの。右半身」


 葉月は俺に近づき、右手の病衣をまくり上げた。


「その赤くなってる部分は、ドラゴンのような皮膚に覆われていたわ」


「これは、その痕?」


 葉月は深く頷いた。

 右半身、首から太腿くらいまで痣がある。葉月に眠らされる前、自分の体を見た時は、確かに右半身がドラゴンの皮膚で覆われていた。


「ごめん……昊が戦っている最中、全く手が出せなかった」


 葉月は下を向き、申し訳なさそうにしている。


「まぁ、俺も意識がなかったとはいえ、なんとなく想像がつく」


「それでも! 私たちは導師で……それを食い止めるのが役目なのに……」


「いや、止めに入って怪我されるほうが俺は嫌なんだけど? 魔眼球に溜めていた魔力全部使い果たしているから、相当暴れてたみたいだし」


「あ……うん。バアルは昊の体を何度も引き裂いていたの。でも、昊は腕を千切られてもそこから生えてくる。それを何度も繰り替えしていたわ。バアルは急所を狙っていたけど、なぜか弾かれていたの」


「俺が防御してた、とかじゃなくて?」


「うん、違う。魔物の皮膚みたいに硬質化していて、切り裂くことができなかったみたい」


「そこまで、変わっていたいのか」


「すごい速さでお互いぶつかり合っていたから、止めることができなくて……結局、昊がバアルの首を掴むまで、動きを封じることができなくて……」


「そうか、それで止まったから、俺も意識がはっきりしてきたのか」


「…………」


 葉月は暗い表情で、あまりこちらを見ようとしなかった。何となく空気が重い。気の利いた言葉も思い浮かばない。俺は沈黙に耐えられなくなり、話題を変えるしか、思いつかなかった。


「あー……それにしても、何でさっき、泉さんの容体聞いた時、すぐ教えてくれなかったんだよ」


「え? ああ……母さんも昊が気付く、数時間前に目が覚めたの。二人とも目が覚めたから、安心しちゃって……」


「びっくりしたんだぞ? 何も答えてくれないし、何か……泣きそうだし、泉さんに何かあったのかもって……」


「ごめんね」


「最悪のことを考えてたよ。まったく!」


「ねぇ……昊って、母さんの事好きでしょ? 女として」


 俺は、思わず噴き出した。


「え? なんで、そうなる?」


「んー……私らの前では何か気張ってる感じがするんだけど、母さんといると和やかだし、なんとなく……目つきが、エロい」


「何でだよ! 違う! 泉さんのことは確かに好きだけど、その……『お母さん』て、こうなんだなって実感してたって言うか……」


 首から上が異様に熱い。まさか、葉月にそう見られているとは思わなかった。


「へぇー……ホントかなぁ?」


「それに、俺が好きなのは……」


 あれ? 俺、今、何を言おうとした?


「え? なになに? 好きな人いるの? 私の知ってる人?」


「好きなヒトは……イナイデスヨ」


 あれ? なんでこんなに……。


「何で棒読み? 昊からこういう話聞くの、珍しいよね」


 心臓がバクバク言ってるんだ?


 俺は思わず、葉月の顔をじっと見ていた。


「なに? どうしたの?」


 でも、居た堪れなくなって目線を逸らしてしまった。


「あー……それより……俺、戦ってる最中の記憶飛んでるんだよね。何があったかもう少し、教えてくれないか?」


「あー! 話逸らした! 絶対教えない気でしょ!」





 俺は人間に転生して、前世よりはるかに穏やかな世界で暮らしている。

 前世では、戦い付けで弱肉強食の世界。兄弟にも見放され、孤独の日々。それが、当たり前で普通だった。

 だが、最期に辿り着いたこの地の人々は、そんな俺を献身的に見てくれた。


 そして、最後に願った。


『次生まれ変わるなら、ここの人間の様な優しい人に生まれ変わりたい』



 バアルは去るときに「またな」と言っていた。次会う時までに、俺は力を使いこなせて置かないと、守りたいものも守れない。


 もう、守られてばかりではダメだ。もっと、力を使いこなせなければ……。


 たぶん、今もあの場所で生きているはず。


 俺は()()に、会いに行かなければならない。

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