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ドラゴンの転生  作者: 藤塲美宇
第三章 過去と魔王
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「人間の女。弱い癖に、出しゃばるな」


「出しゃばりますよ。昊くんは、わたしたちの大切な家族ですから」


「あいつの魔力は人間のモノじゃない。魔物のモノだ。それでもあいつを庇うのか?」


「ええ! あのコの居場所はここよ!」


「ふーん、で? このオレと戦って命を落としたいわけだ!」


「わたしは簡単に、死にませんよ。うーん……一応、この木刀持ってきて正解だったかな?」


 長い布袋から出てきたものは、本当に木刀だった。


「光の精霊よ。我が剣に力を与えよ」


 泉さんの体が一瞬光に包まれた。その光は木刀に移りの刀身を包み込む。


「魔王バアルさん。()()、わたしと勝負しましょう。それで勝敗が決まるわ」


「ふーん……それで、人間がオレに勝とうって?」


「戦えば、分かるわ」


「泉さん! ダメだ! いくら何でも」


「昊くん。あと少ししたら、樹さんと葉月がここに来るわ。だから大丈夫よ」


「泉さん!」


 泉さんは俺から少し離れたところで立ち止まり、持っている木刀を構えた。


「参ります!」


 泉さんは一瞬で、バアルとの間合いを詰める。横に振られた木刀は、バアルにひらりと交わされるが、その後も目にもとまらぬ速さで木刀が振られていく。


「チッ……」


 バアルが横に逃げれば、それを泉さんが追っていき、魔力の塊を放てば木刀で防ぐ。攻防がしばらく続き、バアルは距離をとり体勢を立て直そうとするが、泉さんは容赦なく切り込みに入る。


「はぁぁぁぁ!」


 泉さんお雄叫びと共に横一線、木刀が振られた。それがバアルの右わき腹に思いっきり入り、光が突き抜ける。


「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 バアルの脇腹は避け、血が噴き出していた。すると、泉さんは木刀を空に向け掲げた。


「精霊よ。彼の者に剣の雨を振らせよ」


 掲げられた刀身の先で、無数の光が剣の形になっていく。木刀が振り下ろされると、その光の剣はバアルに向かって飛んでいった。


「ハハハ! 面白い! 面白いぞ!」


 バアルはその無数の剣をうまいこと避けている。稀に、避けきれないものもあったが、致命傷にはなっていない。


「ハッ……ハハハ! 思ったより楽しませてくれるじゃないか、人間! たかが棒切れで、ここまでやるとは!」


「はぁ……はぁ……この木刀は……精霊が宿る木から削り出したもの、わたしのこの力を使うのに、最も適した物よ」


「だが、この程度! これくらいじゃ、オレ様は倒せないぞ?」


 泉さんは、少し息が上がってきていた。一方、バアルはまだ余裕の表情を見せている。


 すごい……泉さんがここまで戦える人とは思わなかった。でも、さっき言ったことが気になる。泉さんの息がかなり上がっている。五分で勝敗が決まるって……もしかして、五分が限界ってことなんじゃ……。


 泉さんは、「ふぅ」と息を吐くと上段の構えをし、腰を落とす。バアルはそれに合わせるように、両手に溜めていた魔力を炎に変化させた。


「次で、決めさせていただきます」


 そう言うと、泉さんはバアル目がけ走り出した。


 バアルは手にある炎を凝縮させて、豪速球のように泉さんに投げつける。だが、泉さんはそれを弾き、間合いを詰めていく。泉さんは二つ目の炎を投げられると、ジャンプしてかわし、そのままバアルに切り込もうとする。しかし、バアルは最後の炎を隠し持っていた。


「残念だったな! 人間!」


「!」


 泉さんのがら空きになった腹部狙って、バアルはその炎を投げつけた。それに気づいた泉さんは瞬時に木刀を盾に防御姿勢を取ったが、足が地面についていないせいもあって、吹っ飛ばされてしまう。


「う……くっ!」


「泉さん!」


 俺の位置から遠い所で、泉さんは必死に木刀を支えに立とうとしている。すぐに駆け寄りたいが、足が折られて立つことができない。

 そんな俺の前に、バアルが立ち塞がった。


「……バアル」


 バアルは屈んで、挑発するかのように顔を近づけてくる。


「ソール……お前にはガッカリだ。折れた足くらい、すぐ治せよ」


「くっ!」


 俺は、闇の力を纏った手刀でバアルの首を狙ったが、簡単に止められてしまう。


「まさか、この程度とはな」


「……っ!」


 俺が掴まれた手を振り解くと、バアルはその場に立ち上がった。


「弱くなったお前には、魔力を使うことすらもったいない。オレの爪でその首、掻っ捌いてやろう」


 どう足掻いても、今の俺が敵う相手ではないと悟った。俺は目を瞑り静かにその時を待つ。

 バアルの鋭い爪は俺の首を狙って、振り下ろされている。

 すると、誰かが駆け寄ってくる音がする。俺は何かに顔を包まれた。目を開けると、先程、木刀を支えに、やっと立とうとしていた泉さんが、庇うように抱きしめていた。

 バアルの爪はそれに構わず、泉さんの背中を切り刻む。


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!」


 泉さんの悲鳴と共に、目の前が真っ赤に染まる。


「い……ずみさん?」


 俺にもたれかかった泉さんは、かろうじて意識があった。


「……らくん。にげ……」


「泉さん! 泉さん!」


 がくりと力が抜けた泉さんは、何度呼んでも意識は戻らない。背中からは止めどなく血が流れ出ていき、その辺りを赤く染める。


「何だ。面白いやつだったから、生かしておこうと思ったのに……自分から殺されに来るとはな」


「……昊君!」


 その時、樹さんの声が聞こえた。

『樹さんが近くにいる。これで、泉さんは大丈夫だ』と、そう思ったら何故か急に体が軽くなった。さっきまでの折られた足の痛みが嘘のようになくなっていた。抱きかかえていた泉さんをバアルから遠ざけようと、樹さんの近くにいった。


「昊君? 昊君だな? 何があった? その姿は……」


「樹さん……すみません。泉さん……お願いします」


 そこからは、ほとんど覚えていない。ただ、頭の中でずっと、『殺せ』と叫んでいた。

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