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ドラゴンの転生  作者: 藤塲美宇
第三章 過去と魔王
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 中川からバアルのことを聞いて、約三か月経った。今のところ、バアルが現れる気配はない。


 あの後、樹さんにはバアルのことを話した。

 すると「そんな魔物が今まで姿を見せていないことが不思議だ」と言っていた。

 確かに、敗北したとはいえ、一時期魔物たちを率いた立場の者が、静かにしているのはおかしい。

 樹さんが詳しく調べてみる、と言ってくれた。



 学校も夏休みに入り、八月のある日。


 買い出しから帰ると、居間に誰かがいるのか、テレビの音が玄関まで聞こえてきていた。どうやら、ニュース番組を見ているようだ。

 ニュースの内容は、つい先日、この街の近くで起きた竜巻被害のことを取り上げている。

 居間に行くとソファーに腰かけ、テレビを食い入るように見ている女性がいる。

 その女性は、特殊警察官の影原綾音(かげはらあやね)さんだった。影原さんは異能者や魔物が起こした事件を担当している。

 昔、渡瀬家で導師の修行をしていたらしく、その馴染みで次の日が非番のときは、よく渡瀬家に来ていた。


 つまり、樹さんは師匠になる。俺にとっては兄弟子……女性だから姉弟子か?


 影原さんはオークションの事件を担当している。中川の取り調べも受け持っていると聞いた。

 真剣にテレビ見ているので、邪魔はしたくない。だが、一応挨拶はしておこうと小さい声で呟いた。


「ただいま戻りました」


「あ、来たね、真空寺昊くん。待っていたよ」


 本当に小さい声で言ったのに、気づかれた。それとも気配を察知したのか、すぐに俺の方を見てきた。


「あー……影原さん。何しにここへ?」


「そりゃあ、昊くんの作ったご飯を頂きに?」


「え?」


「君はすぐ顔に出るのだな。すごく嫌な顔をしている」


「そういうわけでは……まさか、居るとは思わなかっただけです」


「ふふ、そうか」


「では、夕飯の支度があるので」


 俺は軽く会釈をし、台所へ向かうと影原さんもついて来た。


「ふふ! 樹さんに用事があってここへ来た。でも、昊くんのご飯を食べに来たのは本当だ。今日は何にするつもりだ?」


「今日は暑いから『冷やしうどん』にしようかと思ってます。でも、影原さんも食べていくんじゃ……これじゃ足りないですね」


 影原さんは異様なくらい食べる。一食で五人前はペロリだ。それでいて、痩せている。本人は「魔力が体に合っていないから」と言っていた。


 どういうことなのか、さっぱりだ。


「大丈夫、足りない分はコンビニで何か買ってくるから。『冷やしうどん』は半熟ゆで卵付きか?」


「はい。豆腐とキムチも付きます」


「うん、いいね。おいしそうだ!」


 そんな話をしていると、樹さんが台所に顔を出した。


「お! 昊君、おかえり。綾音君、待たせて悪いね」


「いえ、昊くんと楽しくお話しさせてもらいましたから、全然待っていないです」


「はは! そうか。ああ、そう言えば昊君。最近、付けられていることはないか?」


 ドキリとした。実はここのところ、妙な気配を感じている。それも人間と、そうではない気配。


 気のせいかと思って、人通りの多い場所を選び、毎日ルートを変えて帰ったが、それでも付けられている気がする。

 だが、こうなることは予想していた。あの時、大勢の前で『魔眼球』を晒してしまったから、樹さんにも狙われるだろうと言われていた。

 樹さんが一応、会場にいた全員に「あれは手品で偽物だった」と伝えたが、一部の人は信じていないようだった。


 人間はともかく、それ以外の気配はいったい?


「確かに妙な気配は感じますが……やっぱり、目的は俺ですかね?」


「まぁ。あんなことがあった後だ。狙われてもおかしくない」


「話には聞いていたが、昊くんは『魔眼球』の持ち主だったね。樹さん何か対策を?」


「ああ……最近、昊君には肉体強化の訓練をさせてる」


「ああ、あれか。あれは正直、あたしにはきつかったな」


「昊君は魔物の魔力のおかげか、飲み込みが早くて助かるよ」


「へぇー。昊くん、もうクリアしているのか?」


「いや、きつかったですよ。かなり詰め込まれましたから」


 肉体強化は、自分の魔力を筋肉に流し、一時的に筋力を上げる。これをすれば人間離れしたジャンプ力や肉弾戦での攻撃力、防御力もかなり上げることができる。この三か月の間で、十五階建てビルなら、難無く越せるようになった。


 樹さん曰く、これは「逃げるため」だという。


 前回の事件で魔眼球のことが知れ渡ったこともあるが、バアルのこともあるからだ。


「昊君の場合、戦う相手は人間とは限らないからね。それと、この間渡したお守りはいつも持っているのだろ?」


「ああ、はい。コレ……ですね?」


 そう言ってポケットに入れておいた。透明な石を見せた。


「これ……『アミュレット』? でも何か特殊効果が施されている?」


「そう、綾音君はさすがだね! これは普通、防御に使うんだけど、ちょっと加工して、自分以外の魔力を受けたら我々に居場所を知らせるようにしたんだ」


「へぇー。それじゃあ、昊くんが攻撃を受けたら、すぐわかるようにしてあるのか」


「そういう事! だから昊君、私たちがいるから安心しなさい!」


「あー……はい」


 俺は守られているかもしれないが、監視されてるみたいで嫌なんだけど。


「ふーん……じゃあ、葉月ちゃんも感知して、駆けつけられるんですね?」


「葉月? ああ、そうだな。ただ、一番動けるのは私か泉だろうな」


「? どうしてです? 学校は違うけど、あの距離だったら、葉月ちゃんもすぐ駆けつけられそうだけど?」


「もし、昊君が学校で何かあった場合、渡瀬家(うち)が一番近いんだ」


「あー、そういうこと。あれ? 弥生くんは? 一番近いのは中学ですよね? 昊くんと弥生くんの学校は確か隣同士……」


「弥生にはあまり無理せず、援護に回るように言ってある。魔力が安定したとはいえ、昊君と違って、実践経験はまだまだ少ないしね」


「確かに、昊くんを狙っているのは、面倒な奴しかいないみたいだね」


 それは、俺も思う。


「ふむ……わかるようにしてあると言っても、すぐには行けない。昊君、不安なら葉月を護衛につけてもいいんだぞ?」


「え? いや! 大丈夫です!」


 俺は、まだ守られる側か。


「そうか? じゃあ、できるだけ一人で出歩くのは避けてくれ」


「そこまで心配しなくても、大丈夫ですよ。買い出しにも行けなくなります」


「んー、そうか? まぁ……そうだな」


 まだまだ力不足だということは分かっていたが、それをはっきり言われたような気がして、悔しさと惨めな気持ちになった。

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