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ドラゴンの転生  作者: 藤塲美宇
第一章 記憶と魔力
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 夢を見るようになったきっかけは、両親との死別。五歳の時に家が火事になり、二人同時に亡くした。俺は奇跡的に助かったが、あの時、何が起こったのか覚えていない。

 その後、面倒を見てくれる親族はおらず、児童相談所の判断で養護施設に引き取られた。


 両親がいなくなり、悲しみはあったが寂しいとは思わなかった。たぶん、その頃から前世の記憶が徐々に戻り始めていたからだと思う。


 最初の頃は、この記憶が何なのかわからず混乱し、よく泣いていた。周りの大人たちは、両親がいなくなったので泣いているのだと思っているようだった。半年も経てば大半を思い出し、周りの状況を理解するようになった。


 この養護施設に入所してから、隣に住んでいる同い年の女の子が俺に会うたび、言ってくることがある。


「ねぇ。隠してることない?」


 彼女の名前は、渡瀬葉月わたせはづき。養護施設の理事の娘で、三歳下の弟・弥生やよいもいるせいか、年下の面倒をよく見ていた。

 

 隠してること……。ない人間はいないと思うが……もし、前世のことを言っているなら、ある。


 しかし、前世のことを話したところで、信じてもらえないだろう。だから言わないと決めていた。

 その日から、前のめりになって聞いてくる彼女の威圧に耐えながら「ない」と答える日々が続いている。


 十歳の頃。あの夢で出てくる風景は、今住んでいる所だとだんだんわかってきた。昔に比べたら、現在は人が住めるようにかなり整備され、建物も多くある。だが、変わっていない場所を何箇所か見つけた。

 特に気になったのが、渡瀬家の裏にある小高い山。その頂上に一本の木が植わっているのが見える。昔の記憶では、あまりに小さく細い幹だったが、今ではかなり立派な大木となっていた。

 しかし、その山は『関係者以外立ち入り禁止』にされている。


 ん? 『関係者以外』?


 あの土地は、ほとんど人の手が入っていないらしく、木々が生い茂り森となっている。山の管理者は渡瀬家になっていると聞いた。


「昊。あの山、よく見てるけど、何かあった?」


「ん? なぁ、あの山は葉月の家が管理してるんだろ?」


「……うん。そう……だよ」


「何で入っちゃダメなんだ?」


 そう聞くと、葉月は少し悩んでいた。


「さぁ? 知らない」


 あ……嘘だ。


 すぐにそう思った。

 少し悩んだ後、取り繕った顔は何かを隠している。


 まぁ、俺も隠し事をしているからそこは同じか……。


「あそこにある木が気になったんだよ。何か大きいし、近くで見たいんだけど……」


「ああ、あの木? あれは確かご神木だよ。それ以外何もないから行ってもつまらないよ」


「ふーん」


 俺の記憶が正しければ、あの二人と戦った場所は、ちょうどあの木のあたり。何か形跡が残っているような気がしてならなかった。


 葉月の家族は、全員異能持ちだ。

 異能者は昔、魔法を使うことができた人の子孫だという。異能の力は良く思われないこともあるが、この地域の人たちには良く理解されている。

 今は導師と名乗り、魔物による被害拡大の抑制と鎮圧。魔道具の不正使用の抑止、管理等……。異能の力を必要とするときに、召集される者たちだと聞く。そんな中で育っている葉月は、樹さんのもとで導師になるべく、修行をしているらしい。

 そんな渡瀬家は養護施設をやっている傍ら、葉月の父、(いつき)さんは、その仕事を引き受けているらしく、たまに家にいないことがある。


 渡瀬家があの場所を管理しているということは、何か危険なことがあるのか、それとも隠さないといけないものがあるのか……。


 葉月に聞けば、きっと『なぜ気になるの?』と問いつめられそうで、それ以上は聞けなかった。



 そんなある日。俺は無性に苛立っていた。できるだけ周囲の人……特に葉月には悟られないようにしていた。しかし、夜中になると、その苛々は抑えるのも難しいくらいに達し、このままだと誰かを傷つけてしまいそうだった。

 見回りの職員に見つからないようにこっそり抜け出し、この苛立ちをどこかにぶつけたくて走り出していた。

 気が付けば、あの山の封鎖された入り口の前に立っていた。『立ち入り禁止』の看板を無視し、頂上の木を目指してずんずん進んで行く。まだ小さかった俺は入ってはいけないという罪悪感と、あそこに行かなければならないという感情の板挟みの中、うっそうと生えている草を掻き分け進み続けた。

 山の頂に着くと、何故かそこだけ草が生えておらず、大木が一本どっしりと聳え立っていた。

 そこには初めて来たはずなのに嫌に懐かしい。

 木の根元に古びた塚があり、文字らしきものが彫られている。


「……封?」


 読めたのはその文字だけだった。

 塚の近くに盛土があった。その近くに行くと、体の中から何かが込み上げてくるのがわかった。 


「……体が……熱い!」


 手を見た時ゾッとした。爪は鋭く伸び始め、皮膚はごつごつと硬くなっていく。顔は強張りひきつっていき、体中の骨が軋む。


「な……何なんだ? これ……」


 体が変化していくのと同時に、恐怖が込み上げてきた。


 顔の形が……変わってきている? 前世の体になろうとしているのか? このままいくと人間の姿に戻れなくなるんじゃ……。


 一瞬で頭の中にいろいろなことが駆け巡った。人間になって特に不満はない。衣食住は確保され、親がいなくても生きていける場所にいるからだともいえる。


 ――いやだ。


 それに、今の時代、魔物のほうが生きづらい。やっと、安住の地を見つけた。


 ――嫌だ! このままだと……また……。

 

 前の姿に躊躇している自分がいる。だが、意思とは反し覚醒した力が溢れてくる。体の中心が熱い。


 この力をどこかにぶつけなければ、爆発する!


 力は暴走する寸前で、意識も朦朧としてきていたその時、誰かが俺の名前を呼んでいた。


「そ……め……今、力を使っちゃ!」


 その呼び声は、聞いたことがあった。俺はその後、意識が途絶えた。

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