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ドラゴンの転生  作者: 藤塲美宇
第三章 過去と魔王
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 遥か遠い記憶。


「次はあの村を襲う」


 バアルは小高い丘から、森に囲まれた小さな村を指さす。


「あんなちっぽけな村を襲ってどうするんだ? バアル……もっと大きな街にしないか?」


 ドラゴンの姿の俺は、ため息を吐きながら問う。


「はは! あの村に『賢者様』が隠れている。そいつの顔を拝もうと思ってな」


「賢者って……まさか」


「そうだよ。お前もよく知っているアイツだ! 噂通り、本当に死なないのか確かめてやる!」


 そう意気込みながら、その丘から村まで大きくジャンプした。


「先に行っているからな! お前の楽しみはとっておいてやるよ!」


「はぁ……賢者か……まぁ、いつかは戦う相手だが……これは、長くなりそうだ」


 これをきっかけに、人間と魔物の戦いは長期に亘る。


 異界はこの人間界とは別の空間に存在する。瘴気で草すら生えていない。魔物であふれ、常に殺し合い、強い魔力か生き延びる知恵を持っていなければ、大抵は死んでいた。


 異界は魔物でも住みづらい土地だった。


 多くの魔物は力を求めた。何時しか、唯一の道である(ゲート)を通って、人間界へ入り込むようになった。

 人間を食えば腹が満たされ、強い魔力を手にすることができたからだ。

 あの頃、魔物たちは血と力に飢えていた。

 前世の俺もその中に入る。


 この時、多くの魔物は人間たちを制圧し、支配しようとしていた。


 その魔物を束ねていたのが、バアルだった。

 バアルは異界で『魔王』と呼ばれることもあって、魔力は桁外れ。辺り一帯吹き飛ばす自然災害に似た力を使った。

 自由奔放な性格で、自分が楽しいと思うことは何でもやっていた。


 人間界に来たのは、「面白そうだから」という理由な気がする。


 俺は誰かを伴って行動することが苦手で、いつも単独でいることが多かった。

 しかし、バアルは違った。力が強い、弱い関係なく連れて行った。


 アイツの基準はよくわからない。


 俺は何故か気に入られ、行くところにバアルが現れた。


 バアルと行動を共にするようになったのは、確か弟の『コウ』と喧嘩別れした後だった。しばらく単独で行動していた俺に、バアルが話しかけてきたことがきっかけだった。最初は面倒くさいのが現れたと思ってあしらっていたが、意外と面白い奴だったので一緒にいることが多くなった。 


 それからバアルは、賢者に勝てば人間界を手中にできると考え、多くの魔物を集めた。

 日に日に戦いは激化していく。

 次第にバアルから離れていく魔物も現れ始めた。力は圧倒的に魔物が上回っていたが、戦略では人間たちのほうが上だった。更に『コウ』が人間たちの味方をしているのも大きかった。

 そして、魔物たちは、賢者と呼ばれる人間が率いる軍に敗北。


 それと同時に、一つの発達した文明が大陸と共に海の藻屑となって消えた。この戦いの記録は残っていない。



 その後、多くの魔物は討伐されるか、異界に逃げたと聞く。そんな中、人間界に紛れ込み何とか生き延びている魔物もいる。現在、見かけるのがそいつらだ。


 俺はこの戦いに参戦したが、『コウ』との戦いで負傷し東へと逃れていた。バアルが敗北した時には、すでにこの地まで逃れていたが、賢者に見つかり封印された。


 前世では弱肉強食。

 封印されるとき、戦いを強いられるこの生活に嫌気がさしていた。



 あの夜、中川から『バアル』のことを聞いてから、心が落ち着かない。バアルは味方のときは心強いが敵に回すと厄介な相手だ。


 今のアイツからすれば俺はどっちなんだ?


 もし敵だと見做されたなら、今の自分では太刀打ちできないだろう。

 それと同時にここ一帯が、人の住めない場所になるかもしれない。


 俺はこの場所を離れるべきなのか?


 狙いが俺ならば、ここにいたら皆を巻き込んでしまう。

 そう思うと、気が気ではなかった。

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