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ドラゴンの転生  作者: 藤塲美宇
第二章 鑑定と紋章
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 渡瀬家で寝泊まりするようになってから、妙な夢を見るようになった。


 今まで見ていたものが過去のものなら、この夢は未来。つまり、予知夢だ。

 前世では、何か危険が迫るとよく見ていた。流れていく映像の中には、目を背けたくなるような最悪なものもある。ほとんどは目が覚めると忘れてしまっていて、鮮明に覚えている夢が近い将来起こりえる事なのだろう。


 しかし、最近見た夢が何とも後味の悪いものだった。俺は椅子に座りロープで拘束されて、身動きがとれない。

 どこかの会場なのか多くの人が集まり、スポットライトを当てられ注目されている。その会場の客席で、弥生が大声で何か叫んでいるが聞き取れない。ライトの光が遮られ暗くなったと思ったら、誰かが俺の前に立ち、にやりと笑みを浮かべていた。


「この時を待っていた……」


「血迷ったか……葉月!」


 とっさに出た言葉だった。そして、それと同時に目を覚ます。


 あの声は葉月だったのだろうか?


 この後、何が起きようとしているのかは、わからない。それより、葉月に裏切られるのかと思うと衝撃的だった。


 葉月が裏切る? 何のために?


 そもそも、夢を見たからって現実になるとは限らない。そうは言っても、気にかかる。

 今はまだ、この暮らしに慣れていないだけだ、と思うことにした。



 あれから一か月経ち、自分の役割も与えられた。

 結局、葉月との婚約話は泉さんの『暴走』ということで白紙。葉月と弥生は胸を撫で下ろしていた。

 そして、渡瀬家に身を寄せる理由として、俺は樹さんの弟子になった。


 渡瀬家で住むことになるのは、とてもありがたいことだった。魔力を持て余していたので、これを使って仕事をすることができるのだったら丁度いい。

 基本的に導師見習いとして異能力の修行もしていくが、最近泉さんの体調の悪い日があるらしく家事の手伝いもしている。ただ、洗濯物は葉月が「自分でやる」と言い張ったので、手を出していない。


 渡瀬家の朝は早い。

 朝五時、ダシの匂いがする。台所に行くとすでに泉さんが朝食の準備をしていた。

 施設にいた頃は六時には起こされていたが、更に早い。


 泉さん……いったい何時に起きてるんだ?


「泉さん、おはようございます」


「おはよう、昨日はありがとうね。昊くん来てくれて、早速助かっちゃった」


「体調、大丈夫ですか?」


「ええ。昨日ゆっくり休ませてもらったから、今日は元気よ」


「それは良かったです」


 昨日は、泉さんの体調が悪く、起きるのが辛そうだったので、葉月を呼んで二人で簡単な朝食を作った。


「すみません……昨日、俺は卵焼きくらいしかできませんでした。あとは葉月がやってくれたから……」


「十分よー。昊くんの卵焼きの味付け、おいしかったわぁ」


 まぁ、葉月にも文句は言われていないからいいのか。


「昊くん。施設でも料理してたの?」


「いえ、たまに簡単なものを作るくらいです」


「昨日の卵焼きとか?」


「まぁ……本当にそれくらいのレベルです」


「ふふ。でもやればできるみたいね。料理は健康のためにはもちろんだけど、一番幸福感を味わえるものだから覚えておいて損はないわよ。これからもお手伝い頼んでも大丈夫かしら?」


「はい……でも、もう少し早めに起きないと、手伝いになりませんね」


「そんなことないわよぉ。まだまだやることあるから、手伝ってくれると嬉しいわ」


「はい……わかりました。オバ……」


「『泉さん』! 昊くん、『泉さん』って言って!」


 俺が言おうとしていたことに、食い気味で否定してきた泉さんは、膨れっ面をしていた。


「い……泉……さん」


「あぁ……やっぱり若い子にそう言われると嬉しいわぁ。何だったら呼び捨てでもいいわよ?」


「それは……やめておきます」



 朝食の準備がある程度終わると、敷地内にある修練場へ向かう。そこには、すでに葉月が準備運動をして待っていた。


「おはよう、昊。今日は母さん大丈夫そうだった?」


「葉月、おはよう。泉さん『昨日休んだから、今日は元気』とは言ってたけど、まだ顔色悪かったな」


「そっか……あ、今日は母さんと朝食の準備できたんだ」


「ああ。それにしても泉さん、早く起きすぎじゃないか? 俺が起きた頃には、もうほとんど終わってたんだけど……」


「そうなのよ。もうずっとお弟子さんなんていなかったから、昊が来てくれたのがうれしいみたいで……張り切りすぎなのよ。ここ最近調子悪い日が多いっていうのに……」


「俺もあれじゃあ、手伝いになってないんだよな」


「なんか、ごめんね。半ば強引に弟子にして……」


「別にそれはいいよ。俺が望んだことでもあるんだから、人間の体での力の使い方を覚えなきゃいけないんだし」


 あの後聞いた話だと、前世持ちは言われなくても力の使い方はわかるらしい。でもそれは、人間から転生した場合で、魔物から転生すると体の気の流れが違うらしく、使い方を覚えないと暴走しやすいそうだ。


 元々、樹さんは導師の育成もしていると聞いた。導師見習いの多くが訳ありの宿無しのため、渡瀬家で寝泊まりして修行をしてもらうことがあったらしく、部屋数は多い。そのおかげで、俺みたいな人間も転がり込める。

 今は泉さんの体調があまり良くないのと、異能持ちの子供が減少しているのもあって、他に教え子はいない。


「おはよう! 準備はできてるみたいだな? 二人とも!」


「おはようございます」


「おはよう。あれ……? 父さん、弥生は?」


「オー……ッす」


 樹さんの後ろで、まだ眠そうにしている弥生がふらふらと入ってきた。


「相変わらず弥生は朝が弱いのね。ほら、しっかりしなさい! 手合わせした時、怪我しても知らないわよ」


「ウ……ス」


 十分に体をほぐし、魔力を落ち着かせ体の中での流れを感じるため瞑想をした後、手合わせをする。俺は武術が未熟なので、これに加わることができない。

 弥生はとても器用だ。半分寝ている状態でも避けることだけはうまい。葉月も手加減しているとはいえ、弥生になかなか当てることができない。


「弥生……そろそろ……」


 一瞬、葉月から背筋が凍るような殺気を感じ、それが体を突き抜ける。弥生は葉月からの左・右の中段突きをとっさに払ったが、右上段廻し蹴りは避けるのが精一杯で顔をかすめた。


「……っ!」


 その一瞬で弥生もさすがに目を覚ましたようで、今までぐにゃぐにゃに動いていた体がしっかりした足取りになった。


「ね……姉さん。いくら何でも弟に殺気は酷いんじゃ……」


「あんたがいつまでたってもそんなのじゃ、練習にならないでしょ! 最近のあんたは、魔力のコントロールもうまくできてないっていうのに!」


「――――」


 声にならない悲鳴とはこのことか……。


 葉月の顔はまさに鬼の形相だった。弥生は恐ろしいものを見たという顔で脂汗が止まらない。いつぞやのあの男も、この顔を見てしまったんだと納得した。

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