プロローグ
これは、俺が五歳の時から見ている夢だ。
俺の目の前に二人いる。一人は今にも泣き出しそうな少年、もう一人は不格好な杖を構えている男。一方、俺は体中の夥しい傷から血を流し、目は霞み、抵抗する気力もない。もう事切れそうだった。
少年は、俺の死が近づいているのがわかったのか、悲しみのあまり泣き崩れた。男は構えていた杖を下ろし、ゆっくりと近づいてきた。
「すまないが、ここに封印させていただく。お前のような……は、この世には不要なのだ」
ああ……やっと終わる。次、生まれ変わるなら――。そう思いながら目を閉じた。
そして、息を吹き返すように目が覚める。
その夢を見ると、必ず自分の手を見て、体に傷がないか確認してしまう。
生々しく感じる体の傷、流れる血、吐息、感情――。それと、あの言葉。
〈――お前のようなドラゴンは不要なのだ〉
夢の中の俺は、ドラゴンだった。あまりに鮮明な映像に、また自分がドラゴンになったのではないかと錯覚するくらいだ。
あれはたぶん、前世の記憶。ドラゴンだった俺が、あの二人に倒された時の記憶だ。
今は魔物をあまり見かけなくなり、世界は人間が支配している。
何千年も昔、人間が歴史を刻む前、伝説の時代には多くの魔物がいたらしい。俺にはあの頃の記憶があっても、魔物がどれだけいたかは把握していない。
だが、その中でも恐れられていたのがドラゴン族だった。
特に前世の俺は、他の魔物より知識や言語も理解していた。生贄を捧げさせては血肉をむさぼり、気に食わないことがあれば人間たちだけじゃなく、動物や魔物すら襲った。人間や他の生き物からすれば邪悪な存在。自分の前世ながら極悪最低な生物だ。
今の俺からすれば封印されて当然だと思う。
今世の俺は、真空寺昊という人間に転生している。
そんな夢を、俺は五歳から見ている。