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ホーク神父を司教、アランを補佐司教に修正しました。
※教会等に関して独自設定があります。
「アラン補佐司教。君は、神の愛し子の行いを止められるほど偉いとでも?」
「先生、しかし…」
アランの後から遅れて部屋へと入ってきた人は、おそらく『リウ』に一般常識やマナーを教える教師だろう。
跪いて低い位置から見上げるその目は、ドロドロに信仰心で満たされていた。
「あぁ……神の愛し子様。どうか我々を導いてくださいませ……」
『リウ』はその姿を一瞥したあと、部屋を出て歩き始めた。『リウ』を閉じ込めた犯人を許せるほど、『リウ』の持つ『女神の加護』は優しくない。
「孤児はどこに集まってるの?案内して」
「リウ様……」
「神の愛し子様、教会に併設された孤児院がございます。案内させていただきます」
縋るようなアランの声を置いて、『リウ』は先導する教師のあとをついていく。
ちらちらと『リウ』を恍惚とした表情で見てくる教師に、歩く『リウ』を見て頭を垂れて道を開けていく助祭たち。
太陽の光をそのまま凝縮したような金髪は、寝る前に濡れたタオルで汚れを拭き取ったおかげか、見るもの全ての目を眩ませるような黄金の色だ。
まっすぐ歩いていく『リウ』によって、その長髪は自然とたなびいている。
強い意志を持った黄色の目は、進む道をしっかりと捉えている。
幼さが全面に出た小さな体に不釣り合いと思われた強い意志の瞳は、しかし『リウ』の神秘的さに拍車をかけていた。
開け放たれていた孤児院の扉をくぐると、頭を地面に擦れるほど垂れ、膝も腕も床について、一心に祈りを捧げる子供たちが『リウ』を出迎えた。
『リウ』の顔に、年相応の恐怖や驚きといった表情は見当たらない。冷たい視線で、ぐるりと全員を見渡した。
「リウが聞きたいのは、一つだけ。───誰が、リウを、閉じ込めた?」
その言葉を聞いた瞬間に、『リウ』の周りに控えていた教師や助祭といった──大人たち、がみな一様に子供全員を殺すかのような、鬼の形相となる。
子供たちは縮こまるか、目を見開いて必死に首を振るか、ぶつぶつと祈りを加速させた。
あるいは───じろりと、ある特定の子供たちへと向けて、非難するような視線を浴びせた。一斉に。
「ああ、神の愛し子様、どうかお許しを……!この子たちはまだ来たばかりで日が浅く……!」
ぼたぼたと汗を垂らし青を通り越して真っ白な4人の、その前に飛び出したシスターは涙を流して縋り付く。
(これ……リウ、知ってる)
【許す】【許さない】
(選択肢……)
『リウ』が動いていく。自分の意思を持って、揺るがない信念とさえ言える芯を持って、『リウ』は喋り歩き選び生きている。
ならば───選択肢を選ぶだけになった、リウは、なんのためにいるのだろう。
リウの、リウの体だ。リウの人生だ。自分のものを取り返そうとして何が悪い。それなのに、でも、周りが望んでいるのは、神の愛し子の『リウ』ではないのか。
(許すのも、許さないのも、リウは──『リウ』の意思は、関係ない。神の愛し子に手をだしたから、ここの人達は許さない。それが、事実。リウじゃ、変えられない)
【許す】、【許さない】、どちらを選んだとしても、結果的に4人の孤児とシスターは死ぬ。それが今になるか、後になるかの違いだけだ。
▶【許す】
(でも、リウは、人が死ぬのに耐えられない。絶対死ぬとしても今はいや)
「悪意がないなら、リウは許す。でももう二度とやらないで、来たばかりだとしても全員にちゃんと言って。リウを、リウのこの力のせいで人殺しにしないで」
(ああ……あなたたち5人は死んではならない、とでも『リウ』が言ってたら。『リウ』のこの言い方だと、抜け穴がおおすぎる)
リウは許す。──だが教会の人間は許さなくてもいい。
二度とやらないで。──見せしめにした方が二度とやるなという神の愛し子の言葉をもっと真実にできる。
ちゃんと言って。──シスター1人に向けられた言葉ではない。ちゃんと言う人間を他の人間が担ってもいい。
リウを力のせいで人殺しにしないで。──神の愛し子の力を借りずに殺しさえすれば、言葉は守られた。
「あぁ……お慈悲を、ありがとうございます、神の愛し子様……あなたたちも感謝なさい。神の愛し子様のお慈悲で、あなたたちは生かされました」
ありがとうございます。ありがとうございます。ありがとうございます。ありがとうございます。ありがとうございます。ありがとうございます───
終わらない感謝の言葉に、ただ、この先を知っているリウは耳を塞ぎたいと思った。
◆◆◆
翌日。
死体が5つ、教会から遠く離れた川の中洲に引っかかっているのが発見された。内側は溶けきった状態であり、かろうじて皮が被さっていた。
毒あるいは病気によるものと判断され、被害を広げないため発見者は『消毒』の能力者へ協力を要請。
死体のおぞましさから、『消毒』の能力者は『火炎』の能力者に協力を要請。
『消毒』および『火炎』の能力者によって、死体は骨ひとつ残らず消去された。