Now Playing... 6
響いていた足音が教室の前で止まり、閉められていた鍵をガチャガチャと開けた後、ドアが開く。
「リウ様、申し訳ないであります!鍵はなぜ…いや、全ては俺らの不手際であります!申し訳ございません!」
アランは教室内へと飛び込んできて、『リウ』の無事を確認するとほっとした顔をする。そして謝罪の言葉を『リウ』の目を見て紡いでいるが、その言葉を『リウ』が遮った。
「誰がかぎしめたの?」
「え?あ、それはもちろん見つけ次第厳重注意と」
「リウ、閉じ込められるのいやだった。誰がやったの?」
「リウ様?…いや、おそらく、引き取られたばかりの孤児なのではと、思っているでありますが……」
「じゃあそこまで案内して」
「リウ様!?」
にこにことしていた『リウ』なら思い通りになるとでも思っていたのか。ホーク神父と会った時点で、『リウ』の異常さは見ていたはずなのに。
驚いた顔のアランを押しのけて『リウ』は外に出る。
「ホーク神父が言ってたよ。リウの能力は、影響がおおきいって。なら、ここで閉じ込められたことは大したことじゃなくても、リウはちゃんと探さないといけない。神の愛し子なら、ほうっておいちゃいけない」
「リウ様が動かれては、事が大きくなってしまうであります…!お待ちください!」
「リウがここで動かないで、事を小さくしちゃ駄目なの」
『リウ』は振り返って、アランを見据える。『リウ』の強い意志を持った瞳に、アランは気圧されたのか1歩後ずさる。
「リウ様を閉じ込めたのはきっと、来たばかりの孤児であります…!その子らに死ねと言うでありますか!?」
「リウがこれを許せば、リウのことを軽んじてもいいって思う人が出てくるでしょ。でも、女神はリウにたいして悪いことしたらその人を許そうとはしない。けっかてきに、人が多く死ぬのはどっち?」
「は…?でもですね、リウ様──」
「リウは、リウの持つ能力と相応の行動をしなくちちゃいけないの。力があるのに、それに見合わないことをして、それでリウにふりかかる災難は全部リウのせいなんだから」
リウは知っている。
『リウ』は会ったばかりの人をすぐ信用するけれど、それは『リウ』が優しくて何もかも許すということではないこと。
『リウ』には『リウ』自身の譲れないものがあること。
『リウ』は決して、己に降りかかる災難を誰かに任せはしない。必ず自分で動いて、それを解決しようとする。
『リウ』は決して、「アランのせいじゃないよ」「大丈夫だよ、鍵閉められただけだし」などとは言わない。
『リウ』は選択肢次第では、世界を滅ぼす魔王、世界全てを救う救世主、女神の使徒として相応しい聖女になる。
『リウ』の行動は、良くも悪くも女神の愛し子として相応しいものだ。
紛れもなく『リウ』は主人公だ。
「リウ様、相手はまだ幼い子供であります…!どうか考え直してほしいであります…!」
「この教室が鍵を閉められたところを、アランは見たの?」
「え?いえ、見てないでありますが…」
「なら、どうして幼い子供って言えるの」
「それは…教会にいる、一定の年齢以上の者には全員、リウ様は女神の愛し子であるから丁重に扱えという命令がありまして」
「リウのことを知らない子供なら注意、リウのことを知った上でこんなことするなら注意じゃすまさない」
「教会にリウ様に対して危害を加えるものなどおりません!!」
アランが叫ぶ。
『リウ』は取り乱しているアランをただ眺める。
「リウが、女神の愛し子らしくしてるのが、なんでそんなに怖いの?」
「怖くなど…!」
「アランは、子供が死ぬのが怖いの?」
「!?」
リウから見れば『リウ』の発言は的を得すぎている。
一つ一つの発言が、何もかも知っているかのようにアランにとっては聞こえるだろう。
(アランは、教会の反乱分子。革命軍の一人。そして、アランは『リウ』に女神の愛し子になってほしくない。子供に目の前で死なれるのが怖い)
リウはそこまで考えて、眉をひそめた。ひそめる眉は無いが。
ゲームスタート直後では何一つとして思い出せなかったのに、段々と記憶が蘇ってきている。リウも『リウ』もまるで知能がたった1日で発達したかのように、使える言葉が増えている。
拙い喋り方だったのが、いつの間にか『リウ』はハッキリと喋るようになっている。リウもゲームに関する情報が明瞭となりはじめ、考える時に出てくる語彙も増えた。
リウは不思議に思ったが首を横に振る。動かせる首は無いが。
目の前のアランのことを、リウも見つめる。
(『リウ』が女神の使徒として相応しいと、ボスに判断されたら『リウ』は殺される可能性が上がる。それがアランは怖い。孤児たちにも死んでほしくない)
リウは不思議に思う。
リウは前世でゲームで遊んでいたから、アランの事情を知っている。
ならば『リウ』はどこまで知っているのだろうか、と。
それともこれこそが、『女神の加護』によるものなのだろうか。
「リウのすることを止めようとしないで」
(アランは、『リウ』のことすら助けようと思ってる)
「アランはいつまでそうしているつもりなの?」
(アランは、理想から抜け出すことが出来ない)
「何を…どこまで知って…!」
「リウのことを可哀想だって思うの、やめてよ」
(可哀想な人)
『リウ』は、アランの瞳の奥にある『リウ』に対する憐れみの気持ちを、見抜いていた。