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「おはよう」


「……あれ、ルーカス?なんでここに?」


「ネウトラルさんにお願いして、代わってもらったんだ」


 昨日はあの後、ホーク司教の傍に居た男性、彼が言うには補佐司教という位の人によって、部屋へと案内された。

 もういつも寝る時間だったので『リウ』は、夜ご飯抜きにより存在を主張してくる腹を宥めて、眠りについた。


 翌朝、『リウ』が目が覚めきらぬままぽやぽやとしていたら、ノックの音がして扉を開ける。

 そこにいたのはルーカスだった。



 その時、ぐぅー……と『リウ』のお腹が音を発した。『リウ』はえへへ…とルーカスに笑いかける。

 ルーカスも目の下に酷いクマを作りながら、『リウ』へと笑いかけた。正直言って神学者よりマッドサイエンティストと言われた方が似合う笑顔だったが、『リウ』は気にしないようだ。


「リウ、お腹すいちゃった」


「ネウトラルさんが夕食のために呼びに行ったらしいけど、寝ていたからそっとしておいたと言っていたよ」


「そうなの?あとで謝らないと」


 『リウ』はルーカスの方を見てにこにこと笑いかける。

 一度会って話をしただけの人に、『リウ』は信頼を向けるのが早すぎる───とリウは思う。



「君が嫌なら、断ってくれていいんだけど……………君のことを、名前で呼んでもいい?」


「!!もちろん!それに、リウ、最初にあったときからずっとルーカスのことルーカスって呼んでるし!」


 驚いたような顔をしたあと、『リウ』はにっと笑う。『リウ』は黄色の目でじっとルーカスを見つめている。



「……リウちゃん」


「なあに?」


「いや……僕はずっと、こんな見た目だから知り合いが少なくて……名前で呼ばれたのも、呼べたのも久しぶりなんだ」


「そうなの?」


「だから……嬉しくて……」


 目尻に浮かんだ涙を振り払うために、ルーカスは慌ててゴシゴシとこする。



(ちがう!その涙は知り合いができて嬉しい、じゃなくて、幸せの象徴と話せることへの狂愛による涙!)


 ゲームによる知識でルーカスの異常性が分かっているリウは叫ぶが、当然『リウ』には聞こえない。

 ルーカスの瞳に宿る歪んだ愛に『リウ』は気づかない。『リウ』の黄色の瞳の無垢さへ、あどけない顔つきへと───幼い子供に向けるものとは思えない、その昏い瞳に、気づかない。


 むしろ『リウ』の主人公らしさに、その涙は拍車をかけてしまった。


「じゃあ友達になろう!ルーカス!」


「……僕と?」


「うん!リウ、ここに来るとき不安だったけどね、ルーカスにあの場所で会えて、それで今もう一度会えて、すっごく嬉しいの!だから友達になりたい!」


「ああ………嬉しい。嬉しいよ、ありがとう……リウちゃん。僕もリウちゃんに会えて、心の底から嬉しい。僕が……リウちゃんの、友達。うん…ありがとう」


「リウは嬉しい、ルーカスも嬉しい。うぃんうぃんってやつだ!」


「うぃんうぃん?」


「よく知らないけど、どっちもうれしいって意味だったはず!」


「うん………リウちゃん、本当にありがとう」


 涙が出てきたのを、今度はルーカスは止めなかった。『リウ』はにこにこと、ルーカスから見れば慈悲深い瞳をして笑う。



(……これで、ルーカスが監禁へと走りさえしなければ、良い話で終われるのに)


 リウは、目の前のルーカスをただじっと、見つめた。

 そこにいたルーカスは、先程宿していた暗い喜びは見当たらず、ただ穏やかに涙を流して笑う、一人の青年だった。


 ◆◆◆



「おいしかったー!」


「そう?」


 家では食べたことの無い料理を目の前にして、『リウ』は目を輝かせて楽しんだ。いつもは、苦味がある野菜を入れたスープやパサパサのパンのみであり、たまにシチューとか硬い肉が食べられるくらいだった。

 名前の分からない食事をたくさん楽しみ、『リウ』は満足しきった様子である。


「この食事は、いつもと変わらない。…リウちゃんがここで初めて食べるものが、こんな貧相なものだなんて」


「なにかいった?」


「ううん」


「そう?あのねルーカス、リウね、白いふわふわのパンも、柔らかいお肉も初めて食べたよ」


 喜びに溢れた『リウ』の笑顔を見て、いつもと変わらぬ食事に眉をひそめていたルーカスは固まる。


「リウちゃんは………食事に困っていたの?」


「……?ううん、なにも食べなかった日はないよ」


「……白いパンも、この程度の柔らかい肉も…庶民にも普及してもう数十年が経ってるけど」


「…?」


 不思議そうな『リウ』。ルーカスも首を傾げている。

 貧民街の人間ならば食べたことがないのも無理はない、とのことらしいが。

 『リウ』の家はそこまで貧乏ではなかったはずだ。

 しかし先程の言葉に続いて、わざわざパサパサのパンや苦味のある野菜を買う方が手間がかかるのだと───そう言ったルーカスに、『リウ』は困惑を強める。



(え?どういうこと?)


 リウも話が上手く飲み込めない。

 何故ならば、リウの記憶では白いパンも柔らかいお肉も、それは全て貴族のものだった。リウと母はもちろんのこと、周りの住民だってそんなもの食べていた覚えは無い。


 それに、リウは何回か食材を買いに行く母についていったことがある。何の変哲もない、周りの人皆が行く市場で、パサパサのパンとシチューの具材を買ったことを覚えている。

 あれは普通の、日常であった。

 当たり前のように売ってあるものを、当たり前のように買い、当たり前のように食べた。そう生きてきた。それだけの話だったのに。



(どっちがおかしい?───リウ達か、教会か)



「うーん…ふしぎ、だね?」


「え、あ、ああ…」


 この奇妙な出来事を不思議の一言で片付けた『リウ』にルーカスは虚をつかれたようだ。

 しかしその後、何かを思いついたのかブツブツと呟きながら目をさ迷わせる。



「女神の……なら……………いや……なぜ………なって……まるで……………それなら本当に………」


「ルーカス?どうかした?」


「あ……あ、えっと…」


 先程消え失せた昏い光が再び瞳に宿る寸前で、ルーカスは『リウ』の言葉にはっと現実へと戻される。今度は、ルーカスは『リウ』の真っ直ぐな瞳からそっと目を逸らした。

 ほんの少しの罪悪感を表情へと浮かび上がらせながら。



「……不思議だね」


 ぽつりと、『リウ』と全く同じセリフをこぼした。

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