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「あっ、ごめんなさい、リウここ来ちゃだめだったんだ!じゃあね、ルーカス!」
『リウ』は手を振るとバラ園を飛び出して、ネウトラルと別れた所へと走っていく。
「……」
その『リウ』を見つめるルーカスの目が、昏い喜びを目に宿していることに気づかない『リウ』。
リウは、ルーカスのことを知っていた。前世で楽しんでいたゲーム、そこに出てくる一番最初の障壁。
ルーカスは、『リウ』の能力『女神の加護』さえあれば幸せになれる、と『リウ』を都会へと向かう前にどうにかして手に入れようとする。
(自分大好き幸せになりたい男!大っ嫌い!)
ルーカスは『リウ』が教会にいる間、何度も話しかけてくる。見た目は怖いが優しく接してくるので、『リウ』は騙されるのだ。『リウ』は見た目のことは気にしないようなので。
見た目が怖いせいで逃げられてしまう、仲良くしたい、と言っていたゲームのルーカスに最初は騙されたものだ。
リウの前世で、ルーカスによるバッドエンドに辿り着いてからは憐れみなど向けられなかった。
(どの選択肢選んでも、追い払っても寄ってくる…都会に出発してやっと諦めるけど、それまではずっと付属品みたいになってる………鬼ごっこには、絶対ならないようにしなくちゃ)
『鬼ごっこ』
それが、ルーカスによるバッドエンド名だ。
あの手この手で『リウ』の気を引き、一緒に出かけようとする。教会の外で二人きりになった時点でバッドエンド確定。
教会にいる間は安全。
(あ………)
一瞬浮かんだ考えを、リウは首を振って消す。動かせる首はなかったが。
◆◆◆
「ご、ごめんなさい、ネウ…ネウトラウさん!ちょっと散歩してて…」
「バラ園の方に行ったのか?」
「………ごめんなさい」
元の場所に戻ると、『リウ』を探していたらしいネウトラルの姿があった。申し訳ない、と項垂れる『リウ』。
「いや……確かにここは何も無いからな。待っていて暇だっただろう。すまないことをした」
「えっ、リウが約束やぶったからリウが悪いよ…!」
「子供に対する配慮が出来てなかったのは、私の責任だ。それと……バラ園には噛み付いてくるバラがいるから気をつけて、と言ってなかったしな。怪我がないようなら何よりだ」
「えっ」
噛み付いてくるバラ、という言葉に『リウ』の表情は固まる。リウも固まった。
「運がいいんだな。良い事だ。……それと、私の名前はネウトラルだ。君はさっきから私のことをネウトラウと言っている。………それとも、あだ名だったりするか?」
「ごめんなさい…まちがえていました……それと、何も言わずに約束やぶってごめんなさい」
リウにとって危険な行動ばかりする『リウ』が、心から申し訳なさそうにぺこりと頭を下げたのを見て、ちょっとスッキリしつつも……自分も名前を間違えてたことにリウは頭を抱える。抱えられる頭は無いけれど。
「君は仕事のためにここに住むと聞いた。仕事については、私は聞かされてないから分からないが……気になることがあれば言ってくれ」
「うん!わかった!」
ネウトラルに対して信頼でも湧いたのか、『リウ』はニコニコと笑ってついていく。
リウはいまいちネウトラルを信用しきれていなかった。
(教会は敵、教会は敵、教会は敵!相手は子供をこき使ってお金儲け、権力手に入れて理想の世界とかいうのを創ろうとしてるヤバいやつら!………それに、ネウトラルだってあのルーカスの範囲内かもしれない)
ルーカスは神学者であり、教会のことを誰よりも詳しく知ってる、という設定だった。実際には精神を操って自分の駒を増やし、教会の権力による恩恵を余所者でありながら受け、探し物のために利用していた。
その探し物が『女神の加護』の能力者で、つまり『リウ』なのだから最悪だ。
(ルーカスは教会の偉い人には関われない、けど低い地位の…例えば、『リウ』の面倒を見ることになる、協会に預けられた孤児とかはいくらでも駒にできる…!ネウトラルは、じゃらじゃらアクセサリーをつけてないから孤児の可能性が高い)
いくらネウトラルが善人であったとしてもルーカスの精神汚染には逆らうことは出来ないのだから。
だから、教会では誰も信じてはならない。
だがリウが疑っても、『リウ』は、リウの感情など見向きもせず信じきるのだ。馬鹿げている。
◆◆◆
「───ようこそ。女神の愛し子」
教会へと踏み込んだ『リウ』を出迎えたのは、ネウトラルと違ってアクセサリーをじゃらじゃらとつけた初老の男性。
骨と皮のような痩せた見た目で、黄金に着飾って、目だけがギョロリと熱を持っている。そんな男性が恭しい態度で『リウ』に対して頭を下げる。
「……だれ?」
「ここで一番偉い司教だ」
人の見た目を気にしない『リウ』でも、目の前の男性の姿はアンバランスさが行き過ぎていて怖いと思ったのか、ネウトラルの後ろに隠れる。
「ご苦労、ネウトラル。下がってよろしい」
「はい」
ネウトラルが司教に対して頭を下げて、教会から出ていく。『リウ』は思わずネウトラルの手を掴むが、ネウトラルは『リウ』の手にチョコレートの包みを乗せると去ってしまった。
(この人は、知ってる…!都会に行く時の付き添い人、そして選民思想をこの田舎で広めまくってる張本人…!)
「…リウ様。どうか怯えないでください。女神は愛し子に悪き者を近づけさせないのだから、私は女神に認められてここにいるのです。決して、悪き者ではないのです」
『リウ』はまだ怯えが宿りつつも、差し出された手に自分の手を重ねる。
一方でリウは司教の言い分に頬を引き攣らせる。動かせる頬は無いが、もしもあったら物凄いしかめっ面になっていただろう。
(その悪き者の代表みたいなルーカスにはもうすでに会ってるし、目の前の司教だって今の時点ですでに人殺しになってるし、ルートによっては『リウ』は神父に足を切られたことだってある…!)
『女神の加護』はちっとも『リウ』を助けはしない。リウは自分の体を奪った女神なんかに祈りたくは無い。
「名前は…?」
「これは失礼を。私はアシェル・ホーク。ホーク司教と呼ばれることが多いですね」
「ホーク司教、あのね、リウここに何しに来たか分かってなくて」
「リウ様の『女神の加護』は素晴らしいものです。女神の愛し子であることの証明ですから。だからこそ我々がリウ様を導き、その力のサポートをするのです」
「えっと、つまりリウは何を…」
「────ただ、私たちを信じて、私たちがリウ様に求める行動をすれば良いのです」