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「君はここで待っててくれ。すぐ戻る」
「う、うん…」
『リウ』は不安そうに教会の中へと入っていったネウトラルを眺めた。
「どうしよう…」
(ああ、もう!何で思い出せないんだろう…ネウ、えっと…ネウトラウ?の顔見ても、何も分からない…これからどうなるんだっけ…?)
「…ちょっとだけ」
リウが思い出そうと悩んでいる間、『リウ』はきょろきょろと辺りを見渡したあと、そろりと周りを探検し始めたのを見て、リウは叫び出しそうになった。
『リウ』は主人公だ。好奇心旺盛で、自分から危険へと走っていく。そんなことを、リウはしないのに。
この体を動かす誰かはリウじゃない。だがリウの意識は『リウ』に残っている。その状態が気持ち悪い。
「ここ、きてみたかったの」
んふふ、と笑いながら教会の裏手へと回る。
立ち入り禁止、という札がかかっているのが『リウ』には見えないのか。『リウ』は、だだっ広い、無駄に豪華な庭園の中の、バラ園へと入っていく。
「きれい…!」
実際、そのバラ園はこんな状況でなければ綺麗だった。バラのアーチをくぐると、そこには見渡す限り多様なバラが広がっており、『リウ』ははしゃいで駆け出す。
バラの魅力とは無縁な平民であっても、ここは美しさの象徴のような世界だと感じるほどであった。
笑いながら、『リウ』は軽やかに踊った。踊ったと言っても、くるくると回ったり、飛び跳ねたりと思うままに動いているだけであったが。
(リウはそんな子じゃない!偉い人に見つかったら、叩かれるだけじゃ済まされないのに…!ゲームのリウ本当に嫌い!)
心ではリウが激昂していることにも何食わぬ顔で、『リウ』は踊り続ける。そして───
(たんぽぽ…?)
白い光がふわふわと、『リウ』の周りに浮かび上がる。その中心で踊っている少女の髪は、太陽の光を浴びて黄金色に光る。否、髪が光っているのだ。
『リウ』は金髪の髪に、黄色の目の少女。その顔立ちは絶世の美女というほどではないが、あどけなく可愛らしい。薄汚れた服に、外見を整えていない今では『リウ』はあまり目立たないが、見る人が見れば磨けば光るということが分かる。
白い光に照らされ、また実際に自身が光っている『リウ』の全身から汚れが消えていく。正しく聖なる光だ。
汚れが落ちその顔立ちが明らかとなり、鼠色に変色していたワンピースは雪のような白さへと戻った。
深紅の薔薇に囲まれながら、金髪の髪を風にたなびかせ、白色のワンピースで踊る『リウ』は、誰がどう見ても『女神の愛し子』だった。
リウは『リウ』の表情を動かせないが、もし動かせていたなら顔がさあっと青ざめていただろう。
(だめ!これ、崇められて女神の使徒へとまっしぐら…!)
「綺麗だ…」
ポツリと上から聞こえてきた声に、『リウ』は顔を上げる。風がさぁっと吹き、薔薇の花が少女の辺りを舞う様子は、まるで絵画のワンシーンのように厳かで美しい。
上から見下ろすその人の顔は、逆光で見えない。
「あなたは、だれ?」
「僕は───ルーカス。神学者だ」
窓から体を放り出し、『リウ』の前へと降り立った青年。無造作な黒髪に目の下の隈、昏い緑色の目。全身を銀と黒の狭間の色のローブに身を包み、十字架のブローチを付けている。
じっと見つめてくるその青年の目に──『リウ』は一切恐れを見せず、にこにこと笑い返す。
その恐れを知らない無邪気な生き方に、リウはガタガタと震える。震える身はないが、精神が恐れているのだ。その青年に。
だって、その青年の姿を、リウは前世で飽きるほど見たのだ。
「────君は」
懇願するような声に、『リウ』は笑みを浮かべて名前を紡ぐ。あまりにも『リウ』は、女神の使いそのものだった。
「リウ。リウだよ、ルーカス!」
薔薇の花が、二人を包んで吹き荒れる。
ルーカスと名乗った青年は、その昏い緑色の目から一粒一粒涙を落として、『リウ』の手を恐る恐るとった。『リウ』は満面の笑みでその手を握り返す。
(一番最初の、ボス…!お呼びじゃない!)
リウが心の底で叫んでること以外は、完璧な、美しいワンシーンだった。