Now Pray...1
5を辻褄合わせのために少し修正してあります。
アランがこんな近くに!?と驚いたあとアラン関連のアイテムが登場するのは違和感があったので…
話の大筋は何も変わっていませんので読み返す等は大丈夫です申し訳ないですm(_ _)m
リウ──の1つ前の自分。前世といえばいいのか、前世の私にとって、あれは救いだった。嫌悪だった。憎悪と言ってもいい。色んな感情を込めた上で、私はこの世界に救いを求めたのだ。助けてほしいと願った夜が、あった。あったのだ。叩きつけて壊してやりたい時もあった。それでも、だから?だから私は、リウはこの知識を、感情を、記憶を、×を、捨てきれず。
こうして私は、リウは。
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これが第1章の、最後の──バッドエンドに繋がる、分岐点だ。懇願する瞳は、『リウ』のことをずっと見ている。女神の愛し子である『リウ』のことを。
──とっくに、決まっていたのかもしれなかった。
リウはどうしたってこれを選ぶことになると。揺れる緑色が、今はどうしようもないぐらいに、苦しい。『リウ』がいなければ、体が動かせていたら、きっと今泣き出してしまった。
泣き出せる体は無いが、それが今はよかった。
【手を取る】【手を取らない】
頭の中で選択肢も揺れる。急かすように頭の中を占める。『リウ』に干渉できるリウの唯一のもの。間違えないように、間違えないようにと選んできた。
ふ、と笑う。笑える体はないが。
隈の酷い顔は最初に会った時からずっと変わらない。瞳は揺れている。覚悟と良心で揺れている。
もうとっくに決まっていた。ずっとずっと悩み続けた、この選択肢はずっとずっと頭にあった。
金髪が窓から吹く風になびいて揺れる。季節は夏真っ只中だった。白色のワンピースもひらひらと舞う。違う世界にいるというのに、夏を訪れを知ったのは五月蝿いほどに聞いたいつも通りの蝉時雨だった。今も、ずっと蝉は鳴いている。
ふと、部屋に残してきたぬいぐるみのことを思った。──あれを見ることは、もう二度と、無いだろうとも。
【手を取る】
(リウは、バッドエンドを選ぶ。…この先には進まない)
「わあっ、行きたい!いいの!?リウ、王都に行ったらルーカスに会えなくなるの、本当は悲しかったんだよね…最後に一緒に遊べるんだね、嬉しい!」
バッドエンドに辿り着いた瞬間に、世界が終わってしまったら──と、考えたこともある。
ゲームではコンテニューあるいはエンド、という画面が出た。もしそれを選ぶことになったとして、コンテニューを選べば最初へと戻るのだろうか。エンドを選んで全てが消えてしまったら、と考えるとあまりに恐ろしい。
とはいってももう1回最初からやり直す気力は、もう、リウにはなかった。神経をすり減らしすぎた。──発狂する、1歩手前ギリギリでとどまっている状態だった。これ以上続けることは出来ない。
リウに、リウの全てを返してほしい。
選択肢でしか世界に干渉できない。『リウ』が人々に求められていく。
それならリウはどうして生きているのか。存在している意味はあるのか。自分が消えた方が、いいのではないか──とさえ思った瞬間もあった。怖かった。全てが、恐ろしかった。
リウがリウを取り戻せるのなら、バッドエンドであってもいいとさえ思えるほど。
「……ありがとう、リウちゃん。外出許可取ってくるから、どこか…部屋で待っていてくれる?」
「うん、わかった!楽しみだね、ルーカス!」
『リウ』は手をするりとルーカスから離した。ルーカスは何かをずっと考えている。
ふんふん、と『リウ』は鼻歌を歌いながら部屋へと戻っていく。リウは、心臓がバクバクとしてお腹らへんがぎゅっとなるような──そうなる体は、まあもちろんないが──感じだった。
これは紛れもなく賭けだ。
ルーカスのバッドエンドを迎えたあと、その後具体的にどうなったのかはゲームで語られなかった。
とはいえ、勝算というほどでもないけれど──ルーカスのバッドエンド『鬼ごっこ』は、バッドエンドの中で数少ない、その場で『リウ』が死ぬことはなかったエンドだ。
この先進んで、死ぬことによるバッドエンドを迎えるよりかはまだマシと、言えるのではないか。
それと──、いや、これ以上理由は無い、とリウは首を横に振った。振れる首は、まだ、無い。
「リウ様?」
呼びかけられた声で、はっとリウは声の主に意識を向けた。
「アラン!どうかしたの?」
「言祝ぎを、と思いまして。リウ様、今日で全ての教育が終わったでありますね。おめでとうございます!女神の愛し子がこのように成長していくのを見られるとは…俺はこれ以上無いほど幸運であります…!……ところで、何か楽しいことでもあったのでありますか?」
(えっ…!?何で今ここに、アランが…)
ゲームでは、【手を取る】を選んだらすぐ時間が飛んで商店街だった。その間は省略されたのだろう──省略されていた以上、何か大変なことはないと分かってはいるけれど、心臓が嫌な音をたてる。
アランは重要人物のうちの1人で、この後の物語に深く関わってくるのだから。
「ありがとう!楽しいことはね…んふふ、うん、今からあるの!でも内緒だよ」
また後で!と『リウ』は手を振る。
そのまま歩き出そうとした『リウ』は、あれっ、とアランが声を上げたので振り返った。アランは不思議そうにじっと『リウ』のことを見ている。
何か変なことでもあった?と『リウ』は問う。
「リウ様の瞳の色って…黄色、でありますよね?」
(…瞳の、色?)
瞳の色が関わってくる章やセリフはあっただろうか──と考えてみたけれど、何も思い浮かばない。
「リウの瞳の色は…黄色だよ?」
『リウ』も困惑した声で返事をした。うーん、とアランが首を傾げる。
「今…いや、多分見間違いでありますね、お時間取らせてしまって申し訳ないであります!それではまた!」
「えっ、うん、またね!」
(リウの目は生まれてから黄色だし…何を見たの?ただの見間違い、なんだよね?)
バクバクと手が震える。震える手は、まだ、ない。
バッドエンドを選んでしまった時点で緊張は限界まで達している。いつもと違うことが起きると、ゲームの流れで見たことがないことが起きると──この後どうなるのかが不安になる。
もしゲームにバグがあって、本来辿るべきストーリーを外れていたら──リウは死ぬかもしれない。ルーカスに殺されるエンドになるかもしれない。そんな、そんな今まで無かったことまで考えてストレスを増やしたくないのに。
(やだ!何なの!?何も無いんだよね!?)
「ルーカス、まだかな〜」
いつの間にか部屋に戻ってきていた。ベッドに腰掛け、足をぶらぶらさせながら『リウ』はぬいぐるみを抱きしめる。もう見られないかもしれないと思ったそれを見るのは、なんだか不思議だった。いや、今が最後になっただけだが。
「あれ…?やった、ぬいぐるみに魔力移ってる!」
『リウ』が嬉しそうに言うので、リウもぬいぐるみの方に目を向ける。確かにぬいぐるみに残る魔力残滓が──自ら、魔力を発するようになっていた。
魔力残滓とは、本来魔法行使中において1部の魔力が魔法とならずにふよふよ漂っているもののことである。魔法が使えるなら、誰であっても魔力残滓は出る。
ところがそのなんの害もない魔法が行使されたということしか分からないはずの、魔力残滓が何かのものに溜まり(今回で言うぬいぐるみ)、自ら魔力を発するようになることがある。
先生が言うには、身近なものに魔力が移るほどになれば、つまり魔力残滓が自ら魔力を発するように、なれば───。
伝説へと、手が届くだとか。
清掃のためにと教会の人たちが『リウ』が教育を受けている時に部屋に出入りしている。実際には家具や持ち物に魔力が移っていないかを確かめているのだと、そう気づいた時にはぞっとした。
(そうだ…思い出した、ゲームのリウはこれで、学園に入ることが認められたんだ)
学園。
ドーナツ型の大陸の真ん中に存在する孤島、永世中立都市アカネディアにおけるアカネディア学園は、実力のある者なら何人たりとも拒まない。
アカネディア学園に認められた者は名誉を手に入れる。卒業証書は大陸におけるどの国でも有効である。そして何より──。
(ルーカスから逃げ出して何とか学園に入ってしまえば、王都にいるよりもずっと手が出しにくい…!殺そうとしてくるルーカスの友達はいるけど、ルーカスの方は既に絶交したと思ってるから連絡を取ろうとすることも、ない…!)
「リウちゃん…!外出許可取ってきたよ、行こう…?」
「わっ、ありがとルーカス!行こう!」
リウは、穏やかな生活が送りたかった。今はもう叶わないことも知っている。
だからせめて殺されないように、死なないように、最悪の『クソゲー』から最良の選択肢を選ぶために、4年間の庇護の中、実力と縁を手に入れる───これしかない。
(ルーカスから逃げ出して、学園に入る!)