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「あぁ、神の愛し子様…すばらしいです。畏れ多くも1ヶ月間神の愛し子様の教師という立場にいさせていただきました……!!私奴わたくしめが教えさせていただけることの全て、今日で最後です……!!」


「もう最後?リウ、もっともっと学びたい」


「そのようなことを言ってくださるとは……!!これ以上ない誉です……!!ああ、あぁぁぁ、神の愛し子様、どうか、どうか神の国へと我々を導いてくださいませ……すくいあげてくださいませ……」


 1ヶ月が経った。


(毎日毎日、ずっとずっとずっと!導いてくれってあらゆる人から願われ続けた。もう、疲れた……)


 ゲームでは本来カットされている部分だけど、『リウ』はこの世界を生きている。たくさんの知らない人たちに祈られひざまづかれ、貢物をされ、狂いそうだった。もう狂ったかもしれない。

 リウが縋れるものは知識だけだった。マナーや基礎知識を教えられるこの部屋には、教師とアランしか入って来れない。外がうるさくてどうしようもなくイライラして気持ち悪くて死にそうなときは知識にすがった。すがるしかない。それしかない。『リウ』はどうして平気なのだろう。今体を返されたら一日で発狂する。でも体は返してほしい。だってこれはリウの、リウのものなんだから!リウはリウなんだから、リウは───。


「おほん、それでは最後の授業をさせていただきます…!一番行ってはならない禁忌、それは───攻撃魔法です」


「攻撃魔法?ええっと、今までリウが習ってきたのは、基礎生活魔法だったよね?」


「はい、そうでございます神の愛し子様!

 基礎生活魔法は魔力を持つ者全員が習う魔法です!他にも基礎魔法というものもありまして、魔術師等の魔法を専門にする方々が使いますが、ほとんど実行不可能な……理論上可能でしかない魔法ですので、これは省きます」


 ───頬が、笑みの形をかたどっていることを、きっとこの教師は気づくことは無いのだろう。無意識の笑顔なのだから。


(この教師、たしか………拉致されて、ここにいるんだっけ。『リウ』には魔法も使える神の使徒になってほしいから、だからこの人は、この女性は………)


 拉致をして、抵抗するこの人の目の前で親族の命を一人一人奪っていく。洗脳魔法、漂白魔法と麻薬をもって思考能力を削っていき、完全にそれ以前の記憶に鍵がかかってしまったところで魔法と薬をやめて、教育を施して───神の愛し子に忠実な下僕のできあがり、だ。


 『リウ』の教育が終われば、口封じに殺されて埋められる。それでおしまい。



 自分が本当に好きだったもの、無意識に笑顔となるほど好きだったもの、そのせいで失われたもの、それを思い出せもせずにこの人は殺される運命なのだから。


「そして攻撃魔法。これは、使うことが禁止されている魔法です」


「ええっと、基礎生活魔法の炎とかも攻撃ができると思うけど、これは攻撃魔法じゃないの?」


「さすがは神の愛し子様、すばらしい慧眼でございます…!たしかに基礎生活魔法において、攻撃が出来る魔法は数多くありますから、攻撃魔法というと紛らわしいのですよね。私奴たちは通称、禁止魔法と呼んでいます」


「禁止魔法…?」


「ええ、この魔法は魔力だけでなく寿命と血も用いて行われます。例えば、洗脳や悪魔召喚、魔物創造、奴隷契約など……一度使えば魔力は一瞬で闇に染まります。汚染されて戻ることはありません。悪魔の声がして、禁止魔法を使う毎にその声が強くなってくるのだと───そう言った被検体がいます。失踪したきり行方がわかっていませんが……」


「えぇ、怖い…リウ絶対使わない。ねえ、もし禁止魔法を使う相手がいたらどうすればいいの?」


「聖魔法です。聖魔法は禁止魔法を阻みます。聖魔法は基礎生活魔法が使える者なら誰でも使えますが、如何せん威力が弱いので…ですが!神の愛し子様なら禁止魔法を完全に封じ込められるほどの聖魔法が使えるでしょう!!」


「じゃあ、今日は聖魔法の実践!?」


「はい!!神の愛し子様なら、それもあの慈愛の女神様の愛し子であるリウ様ならすぐに習得できます…!!」


(やっとここまで……これで、洗脳を使うルーカスへの抵抗手段ができた)


 ふう、と息を吐き出せる体はないがそんな気持ちでリウは胸を撫で下ろす。

 ここまでは、絶対にここまでは選択肢を間違えてはならないと気を張っていた。ルーカスの外へ出ようという誘いを断り、ホーク司教とも1人で会わないようにするなど。精神が削られていく中で正しい選択肢を選び続けなければいけなかった。


「ねえ、これはできてる?」


「ええ、出来ております神の愛し子様!流石でございます、これなら並大抵の禁止魔法を退けることが出来るでしょう…!!!」


 ようやく、ここまできた。


(このまま『リウ』に体を渡し続けてたら、第2章に入っちゃう。神の使徒として1度王都に行くことになる。ありとあらゆる暗殺を、全部把握して、防がないといけない)


 思い出してきているとはいえ、それはキャラクターの設定だったりバッドエンドの内容ばかり。具体的にどの選択肢を選べばいいのかは分からない。このまま進めば、死を避けられないことが起こるかもしれない───。だから。




「リウちゃん、教育が今日で終わったって聞いたよ…!お疲れ様、本当に、本当に…リウちゃんは神の使徒として相応しいね…」


「えへへ、ありがとうルーカス!」


「………ねえ、リウちゃん。このあとリウちゃんは神の使徒として王都まで行くことになるよ。きっと大変だろうけど、でもリウちゃんならきっと神の使徒としての仕事を果たせると思う…」


「え、ほんと!?リウね、期待してくれる先生とかアランには言えないんだけど……本当は、すっごく不安。ずっとこの町から出たことなくて……でも、ルーカスのおかげで、頑張ろうって思えたよ!」


「そう?それはよかった。……………ねえ、リウちゃん、今までは勉強頑張ってて邪魔しちゃいけないなって思ってたけど………最後にさ、2人で出かけない?きっと、きっと楽しいから、楽しくさせるから」


【手を取る】【手を取らない】


───だから、決断の時だ。

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