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第一話

 瞼を開けると、風呂屋の暖簾が見えた。

 久しく観る、女と書かれた暖簾、は赤色の膨張色の為か、はたまた、彼女の(ゆき)との間で、お家デートへ進展せずに女への関心が大きくなっている為か、とても大きく思えた。否、事実として大きかった。というより、自分の身体が異様に小さいどころか、二足歩行出来る体ではなく、驚きを越え、訳が分からなくなり、冷静を装っていった。

「吾輩は(ハエ)である……」

 いつしか、左前足で、額の様な目の様な場所を覆えず、撫でていた。


 少し待ってくれ、いや、待ってくれ、おかしくはないか。いいや、おかしい。輪廻転生も異世界転生も何もあったものじゃない。そもそも死んだ覚えがないし、もし、寝ている間に事故が起こって即死だったのだとしても、どうして、蠅などにならなきゃいけない、どうして、記憶を残したまま蠅にならなきゃいけない。確かにゲームで蝿の王(ベルゼブブ)を使っていた事はある。けれど、それに生まれ変わりたいなんて理由な訳がないし、思ったことは一度としてあるはずがない、断言出来る。

「おぉ……マイゴッド、イズベルゼブブ……」

 腹這いに寝転び肘を突く様に、女の裸と湯煙を眺めていた。

 何も感情が湧かない。欲情の、よ、の字も湧かない。壁画の女を見てるのと同じ、いや、そんな僅かながらの救いすらない。もう人ではないからなのだろうか。山の家的な場所に行った時に、馬の後尾を見て何も抱かなかったのと同じなのだろうか。だったら、蝿を見れば欲情して、この四千個にも別れた目をギンギンにするのだろうか。ギンギンにして(うじ)達を量産するのだろうか。嫌だ。嫌すぎる。もしそうなら、見る前に死んでもいい、いや、死んでおきたい。

「入水ならぬ入湯(じゅゆ)っつてか……響きわエロい気がするけど」

 嘆息を残して、飛び上がった。風呂まで来る時から本能的に飛べていて、それと同じ様にして、自分を戦闘機と思い込み、ブゥン、と言って、女の子に続いてサウナへ突入した。

 流石に女の子の喘ぐ様な悲鳴を聞けば……、何ら欲情などしなかった。

 虚しさと寂しさとを覚え、自分が蝿であることを自覚し、拒絶された悲しみを背負って、背を向ける。

 どうして人は、女は虫を嫌うのだろうか。毒があるならまだしも、蝿に毒は無い。糞を食べるから汚いというなら、どうして、トイレの手すりは触れるのだろうか。

 などと考えているうちに体は熱くなり、脱出方法を考え始めた。しかし、扉を開ける手段が無い。体は熱くなるばかりで、思考も鈍り始めた。

 いやいやいや、ちょっと、待ってくれよ、命を大切にしようよ……。

 ポトリと音を立てて気を失が遠くなるのを感じていた。

 安堵の声が聞こえた気がした。クラスで虐められていた女の子を思い出し、しかし、そんな余裕は消え、自分のことだけを考え、ピクピク羽を動かす。

 これは、流石に一片の杭も残るだろ……。もっと過激な事だったら興奮したのかな。

 俺は意識を失い、また目を覚ました。

 っ嘘だろ……。

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