届けもののお願いです
「異世界?異世界なのここ?」
「そうだよ」
木の声にこずちゃんは嬉しそうに尋ね、のんびりした口調で木は答えた。
「うわー。ここが異世界なんだ。私初めて来たー」
「はっはっは。それで君に頼みたいことがあるんだ」
のんびりと話す木の言葉に、こずちゃんはほっぺたを膨らませた。
「むー」
「どうしたんだい?」
「私には小梢恵って名前があるの。こずちゃんって呼んでよ」
「これは失礼。私の名はレンと言う。よろしく、こずちゃん」
「よろしくね、レンさん」
「まずは自己紹介だったね。久しぶりだったから忘れていたよ」
「そうなの?」
「ああ。それで、こずちゃんに頼みたいことがあるんだ」
改めてこずちゃんに話しかけるレン。
「なあに?」
「近くに岩があるだろう?」
こずちゃんが周囲を見渡すと、霧の中に大きな岩があった。
「あったよ」
「その岩を軽く押してごらん」
「押したよ。動いた」
「その下に宝箱があるんだ」
「うん。箱があるよ。開けていい?」
レンが良いよと言うと、こずちゃんは箱を開ける。
「何か入ってる……カードと木のお人形?」
「そのお人形をこの霧の先にある建物に届けてほしいんだ」
「良いよ。行ってくる!」
こずちゃんはさっそく出発しようとして、足を止める。
「その建物ってどこにあるの?」
周りに霧がたちこめる中、こずちゃんはレンに尋ねた。
「そのためのカードさ。これからいう言葉を真似して唱えてごらん」
レンは言葉を紡ぐ。
その言葉をこずちゃんは復唱する。
――言葉よ、言葉、言の葉よ
この人形の、届け先
しめし続けてくれまいか
こずちゃんが言葉を紡ぎ終えると、カードの上に矢印が浮かぶ。
「その矢印に向かって進んでいくと建物があるよ」
「ありがとう、レンさん」
「これから先になにかあったら、そのたびにカードを使って乗り越えるんだよ」
「わかったわ。それじゃあ行ってきます」
こずちゃんはカードをポケットに、箱に入っていたリュックに人形を入れる。
そして、レンに手を振って矢印のさす方向に歩いて行った。