月が見守る夜の中
「んとね、お花さんと話して動物さんが歌っててカードで冒険してた」
「いい夢だったのね」
母は楽しそうに話すこずちゃんの髪に手を伸ばし、何かを手にする。
「カタバミついてるわ」
母は髪についていた黄色いハートの形をした葉っぱの花をこずちゃんに渡す。
「カタバミ……あ!そうだお母さん、お願いがあるの!」
「なあに、こずちゃん」
「んとね、んとね。この花でね、押し花を作ってほしいの」
こずちゃんは母にお願いする。
「良いわよ」
こずちゃんのお願いを聞き遂げる母。
「さて、石もあったし運びましょうか。その間にカタバミ、乾燥させちゃおう」
「おなかすいたー」
「あらあら。そうねえ、お土産にいただいたお饅頭があるから食べちゃおうか」
母は喜ぶこずちゃんと手をつなぎ、蔵から外に出て行った。
★
髪についていたカタバミは、押し花に変わるころ、空には月が出ていた。
月あかりが家に差し込む。
家の中では、絵日記をかきたいと話すこずちゃんがいる。
「気分転換とか思い出せるようにしておきたいの」
こずちゃんの言葉に頷いて、父はこずちゃんに絵日記帳を差し出す。
月がのぞく窓の下、こずちゃんは、文字を書きクレヨンで絵を描いていく。
「できたー」
夢中になっていたのか、こずちゃんの手にはクレヨンがついている。
「こずちゃん、お風呂沸いたわよ」
月明かりの中、返事をして日記を閉じるこずちゃん。
「忘れてた」
こずちゃんは、書いていた絵日記帳のページを開く。
そこに押し花のしおりを挟んで、もう一度閉じた。
その絵日記を月明かりが照らす。
月明りは神社も包む。
月明かりが家を、神社を、蔵を照らす。
蔵の窓から月明かりが差し込む。
こずちゃんが取り出した魔法陣がひとりでに本に戻る様子も映す。
雲が月を覆う、月明かりが消えていく。
こずちゃんが開いていた本も、ゆっくり消えていった。