私の取り上げた赤ちゃんは? 私の前世のお兄ちゃんだった。
私の名前は、梅澤 マツヨ 78歳 助産師。
私は、たくさんの赤ちゃんを取り上げてきたベテランの
助産師なんですよ。
もう、私も随分と歳を取ってしまったけど、、、。
現役の助産師です。
私には、6つ上の兄がいました。
とっても優しい兄でしたが兄が16歳の時に結核になり
亡くなってしまいました。
何処に行くにも、私は兄の後ろを着いて回っていて。
兄は、私を本当に可愛がってくれました。
当時は、食べる物もなかった時代で芋ばかり食べていました。
わずかな食べ物を、兄は私に分けてくれました。
兄も、お腹がすていただろうに、、、。
我慢して、私にこう言ってくれたのです。
『マツヨは、食べ盛りだから! 兄ちゃんのご飯もお食べ!
そうじゃないと? 大きくなれないぞ!』
『・・・でも、兄ちゃまの晩ごはんがなくなっちゃうよ。』
『マツヨが気にすることはないんだ! さあさあ~お食べ!』
『・・・ううん!』
兄は、私が嬉しそうに食べている姿をニコニコしながら見ていました。
本当に、優しい兄です。
今でも、たまに私の夢に出てくるのです。
兄の姿は、あの頃のまま。
私は、すっかりお婆ちゃんになってしまったけど。
私は、一度でいいから! 兄ちゃまに会いたいのです。
あんなに、優しい兄はいません。
“私の尊敬する人は兄だけです。”
兄には、右腕に大きなアザがありました。
産まれてきた時からついていたアザです。
そのアザを持った赤ちゃんを、私が取り上げてしまったのです。
私の孫の女の子から赤ちゃんを取り上げてほしいと頼まれました。
【血縁関係】は、間違いありません。
産まれてきたのも、兄が産まれた誕生日と同じでした。
その日の、AM10:14分 53秒でした。
赤ちゃんの右腕には、はっきりと大きなあのアザがありました。
しかも!? 兄のアザは少し特徴的なアザだったので私もはっきり
と憶えていたのです。
“元気な男の子”兄に、何となく似ているように見えました。
『まりも! 元気な男の子が産まれたわよ~』
『お婆ちゃん、ありがとう!』
『可愛い赤ちゃんだねぇ~』
『うん。』
私は、この男の子が【兄】だと確信していました。
この子は、兄の生まれ変わりに違いありません。
そして、この男の子が産まれてきて5年後。
私の命が尽きようとしていました。
私は、大きな病院のベットに寝ていました。
そこには、孫に連れられてあの男の子が私のお見舞いに来てくれたのです。
『お婆ちゃん、大丈夫?』
『・・・あぁ、大丈夫だよ。』
『ほら? 見て! お婆ちゃんが取り上げくれた福登だよ。
さあ~お婆ちゃんに挨拶して!』
『・・・お婆ちゃん、元気になってね!』
『おうおう、なんて! 可愛い子なんだかねぇ~』
そこに孫の携帯に旦那さんから電話が鳴り、男の子を置いて
孫が、部屋を出て行きました。
そうしたら? 男の子が私にこんな事を言いだしたのです。
『・・・マツヨ! 僕だよ! 分かるか? 兄ちゃまだよ。』
『・・・やっぱり! 兄ちゃまなの?』
『うん! 生まれ変わったんだ!』
『私も、右腕にアザを見つけて! 兄ちゃまだと思っていたわ。』
『・・・マツヨ、マツヨ、』
『兄ちゃま泣かないで! 私もいつか、生まれ変われるわよ。』
『・・・ううん、そうだな! きっとそうだ!』
『兄ちゃま、こっちにきて! よく顔を見せて!』
『あぁ!』
近くで見ると? 兄が小さい時にそっくりでした。
小さな体に、小さな手が私の手をしっかりと握ってくれました。
私は、静かに目をゆっくりと瞑りました。
最後に、兄と会えてよかった。
私の最後の願いが、叶えられました。
涙を流している兄の顔を見ながら、小さな兄の手を握って。
そして、私は安らかな顔で亡くなったのです。
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