星の降る夜
「星が降る夜になるよ」
人類滅亡だか、地球滅亡だか分からないが、そんな本を眺めながら弟が呟いた。
「…そんなわけないじゃん。」
大学受験を控えた私は英単語の辞典と睨めっこをしながらそう言う。
「じゃあ勝負しよう。」
弟は嬉しそうに笑いながら私に言う。
「お姉ちゃんはどんな風に地球が滅亡すると思う?」
彼は嬉々として滅亡を語る。それに少しの面倒臭さを感じながら私は参考書を閉じた。
「さあ、知らない。津波や地震がたくさん起きて滅亡するんだと思う。」
「僕は沢山の流れ星が降る夜になって、朝起きたら地球が滅亡しているんだ。」
「なんだそれ」
「きっとそうだよ。」
「そんなわけないじゃん」
「きっと、そうだよ。」
「じゃあ、勝負しようか」
私がそう言うと彼は嬉しそうにあははと笑う。それが少し気に食わなくて、弟の肩を軽く殴った。弟は嬉しそうに「痛い」と言いながら私に少し近づいた。それから嬉しそうにことばを紡ぐ。
「この勝負に勝ったらなんでも一つ言うことを聞くってルールにしよう。」
えへへと笑いながら言う弟の肩を殴って彼の顔を真っすぐと見た。
「それは楽しそうだね。」
鞄の中に辞典をしまう。
「じゃあ、僕が勝ったら、またお姉と姉弟になりたいな。」
弟がキラキラと輝く笑顔を見せなが言う。それに目を細めてぐっと拳を作った。
「じゃあ私はあんたともう姉弟になりたくない、かな。」
そう笑いながら言うと、弟は途端にむすっとした表情になり、本を睨むように読み始めた。なんだかそれがとても可笑しくて、彼の頭を優しく撫でる。
「嘘だよ。」
弟の顔を見るとぱっと花が咲いたような表情をしていた。
その顔にデコピンをすると少し照れたように笑って、また私に近づく。
あんたとまた出会えるのなら、星が降る夜も悪くないかもね。
その言葉をぐっと飲みこんで空を見上げる。相変わらずこの空は真っ青で、星なんで降る気配はとんとないらしい。